第五章 第17話 ヴァルカ!
「やっぱり三階は、汚れがひどいですね」
あっという間に真っ黒になる
バケツの水でゆすぐの、もう何回目だ?
汚れた水を
「仕方ないよね、東側に壁がないんだから」
北側の壁を根気強く
一階や二階と比べて壁面積の少ない三階は、
これでも一応、定期的に掃除はしているのだ。
けれども、
――明日のリューグラムさん
こないだザハドに行った時の会食で、ここを訪問したいと打診されたのだ。
どうしたものかと教頭先生とその場で相談した結果、こっちが行かせてもらってるのにあちらさんはNGというのは
……ま、そりゃそうだ。
日時とか訪問予定者なんかの
――で、
まとまって会食できるような場所もグラウンドしかない。
体育館も転移してきてくれればよかったのかも知れないけど、雰囲気的にそれも微妙か……いや、アリかな。
どっちにしろないものねだりだ。
「三階はあんまり使ってないんすから、お見せしなくていいんじゃないすかね」
「まあ俺も同感だけど、見たいって言われたら断れないでしょ」
廊下を
準備の分担は、大まかに二つだ。
料理と、場所の整理。
何しろ俺たち二十三名
それに、俺たちは
とにかくそれだけの質と量を、当日ちまちまと作っていては間に合わないということで、材料上どうしても限界はあるけれども、全力で用意しようとなったのだ。
……ちなみに、前回ザハドから提供してもらった物資は、いつもの倍以上あった。
今回の訪問のことを見越してのことだろう――気を
「多目的室と家庭科室は……やっぱりやらなきゃだめすかね」
「んー、多目的室は倉庫扱いになってるから、さっとやる程度でいいんじゃないかな。家庭科室は興味を引きそうだから、ちゃんとやろう」
「うへえ、了解っす……」
そんな感じで、料理の方は女性陣を中心にして、腕に覚えのある人たちが気合いを入れて取り組んでいる。
そっちの方では全くの戦力外である俺たちは、必然的に校内を掃除して回ることになったというわけだ。
――いや、俺だって独り暮らししてたんだから、家事だってそれなりに出来るし、手伝うって言ったんだけど、「
ま、
それに……俺には肉体労働以外でも果たさなきゃならない役目がある。
もちろん、いつもの通訳だ。
――ザハドの人たちとの交流が始まって、結構
特にこの世界、と言っていいのかまだ分からないが、とにかくここの社会のことをある程度知らずに、元の世界に戻る方法を見つけることは
多分それはリューグラム
そうした両者の利害の一致もあって、こないだの二回目の訪問以来、週に二度か三度くらいの
場所は、東の森の中にある建物だ。
恐らく
向こうの参加者は大抵はカルエリックに連れられたリィナとシーラ、たまにシーラの兄だと言うロヨラスが
まあ
――更に、学舎で読み書きを教えているオズワルコスという男性教師も参加するようになった。
彼の参加によって、子どもだけではカバーし切れない知識や
こちらの参加者は、俺と山吹先生。
スケッチブックを
リィナたちも結構日本語が上達しきてる……んじゃないかな。
一定時間、日本語だけ、あっちの言葉だけってのをやってると、日常会話で知りたい言葉や表現が浮き
ただし、文字についてはお互いほとんどノータッチのままだ。
ヒエログリフ並みに分からん。
まあ……今はとにかくコミュニケーションが最優先だからね。
ペラペラのスラスラになるまではまだまだ先が長いだろうけど、地道に続けていきたいと思う。
「お掃除の人たちー! 誰か
ちなみに掃除に
だから、呼ばれているのは俺たちだ。
「誰が行きます? 俺は行きたいですよ」
「もちろん、僕も行きたいよ」
「僕だって行きたいっすよ」
さて困った。
ここは定番のジャンケンで決めるか。
「んじゃ、ジャンケンで決めますか」
「いいっすね。なら、こないだ教頭せんせーたちに教わった『ザハド式』でどうっすか?」
「あれかー、一応説明は聞いたけど、どんなのだっけ……」
驚いたことに、こちらにもジャンケンがあったのだ。
こないだのザハド訪問の
普通、ジャンケンは
――
一つは「
最初の合図は、「
――剣は、弓に勝ち、槍に負け、盾とはあいこ。
――盾は、槍に勝ち、弓に負け、剣とはあいこ。
――槍は、剣に勝ち、盾に負け、弓とはあいこ。
――弓は、盾に勝ち、剣に負け、槍とはあいこ。
もちろん、同じものを出してもあいこなので、あいこは二種類。
同じ手であいこの場合、お互い
違う手であいこの場合、手を出したまますぐさま次の手に変える。
この時「オー!」と声を出す。
後出しは問答無用で負けなので、なるべく早く手を変える。
戦闘中に
ちなみに、この「あいこ処理」は、
三人以上でやる時は、いわゆる「グーパー」方式だ(分かるかな?)。
手の形だが、
――剣は、人差し指を一本、上に向けて立てる。
――盾は、手の平を開いて相手に向ける。
――槍は、サムズアップの形で親指を相手に向ける。
――弓は、チョキの形を
……目
「せーの!」
「イシ、ウス、ヴァルカ!」
俺は「
瓜生先生と諏訪さんは「
遠い間合いから、一撃でぶっ
「よっしゃ!」
「あれ、これ負けっすか?」
「いまいち分からないなあ、これ」
ま、勝ちは勝ちなので。
掃除の方、後はよろしく!
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