第五章 第08話 再び、馬車に揺られて

 ――と言う訳で、俺たちは再びザハドに向かう馬車にられている。


 今回の訪問メンバーは八名。


 先頭の馬車に、教頭先生、不破ふわ先生、久我くが純一じゅんいちさん。


 二台目の馬車には、加藤かとう先生と澪羽みはね


 そして最後の馬車に、俺と天方あまかた君と神代かみしろ君が乗っている。


 ちなみに向こうの通訳は例によってサブリナが担当するらしく、加藤先生たちと一緒に二号車に乗っている。


 ――二回目のザハドこう先方せんぽうに打診してから、約半月で実現した。


 魔法班会議からは約一ヶ月。

 割と早く話が進んだと言えるんじゃないだろうか。


 同じ馬車に乗ることになった男子二人は、楽しみ過ぎてゆうべあんまり眠れなかったらしい。


 森の中を歩く間も馬車に乗ってからもテンションが上がりっぱなしだ。

 いや、寝不足ゆえのテンションか?


 とにかく、さっきからずっと車窓しゃそうの外に視線は釘付くぎづけで、時折「おー」などと声を上げている。


 まあ年相応そうおうのリアクションなんだろうけど、そうなると前回の時に参加表明しなかった理由がよく分からないな。


 ――それより、加藤先生の乗っている二台目の馬車が気になる……。


 いやまあ、加藤先生あのひとだって一人前の教師だから、別にどうということもないだろうけど、澪羽に向かってオタクトークを炸裂さくれつさせてるんじゃないかってとこだけが心配になる。


 何となく、澪羽の困り顔が目に浮かぶ……。

 サブリナと少しでも仲良くなってくれるといいんだけど。


「先生、あの高い建物は何?」

 天方君が指さす先に、周囲の建造物より一際ひときわ高い塔のようなものが見える。


「あれは確か、鐘楼しょうろうだね。ここらはかねを鳴らして皆に時刻をしらせるシステムらしい」


「ふーん……鳴らすタイミングってどうやってはかるんだろ」

 ほう……なかなかいい着眼点じゃないか。


「あの塔の横に俺たちが泊まることになる建物があるんだけど、そこで大きな砂時計みたいなものを見たから、多分それじゃないかな。確かめてはいないけどね」


「じゃあ……もしかして一日中ずっと砂時計の横で頑張ってて、砂が落ちきったらひっくり返して鐘を鳴らす仕事をする人がいるってこと?」


「恐らくね」


「なんか……のんびりしてていいかも」

 神代君が外を見たままつぶやく。


 確かに、町全体の雰囲気に時間に追われているという感じはあんまりしない。


 ――今回の訪問は、二泊三日の予定だ。


 一泊はセラウィス・ユーレジアで、もう一泊は前回と同様にサブリナの実家の宿屋でお世話になる。


 ちなみに前回みたいな集団行動は予定していない。

 到着してからの今日の昼食と夕食、明日の朝食が終われば、そのあとは基本的に二日間自由行動なのだ。


 希望者はサブリナが先導せんどうして、目ぼしい場所を案内すると聞いているけど、俺には魔法ギームについての情報収集という大事なミッションがあるので、そいつを最優先に動かなけりゃならない。


「天方君と神代君は、何か見たいものとかやりたいこととか、決まってるの?」


「うーんと、オレはここの言葉、ザハド語? とかしゃべれないから、どうしようかなあ」


 ……そう言えば、この国の名前、知らないな。

 ザハド語ってことはないだろうけど。


「僕は……何があるのかよく分からないですから、八乙女先生と一緒に魔法まほう――ギームの練習がしたいです」


「あっ、そう言えばそんなのあったな。オレも練習したい」


「うん、まあ練習って言うか、やり方を教えてもらうって感じだけどね」


「あとオレ、ご飯が楽しみ」


「そっか。向こうに着いたら、お偉いさんたちと昼ご飯を食べるみたいだから、楽しみにしとくといいよ」


 ――それから俺たちは、目的地へ到着するまでのあいだ、しばらく馬車の揺れに身を任せた。

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