第五章 第05話 大晦日 その4
学校側の
静かに食事を楽しんでいた俺に、声を掛ける者がいた。
☆
「八乙女せーんせ」
――ほーら来た。
外のたたきのところで
いや……いじってたのは
「何で一人でぼっちしてんの?」
焼肉を山盛りにした皿を手に、芽衣が言う。
「いや、たまたまそうなってるだけだけど?」
「ふーん……ほら、お肉持ってきたげたよ。澪羽がせんせーにって焼いてくれたんだから、感謝して食べてよね」
「え、ちょっと芽衣ちゃ――」
「何? ホントのことでしょ?」
澪羽が両手を前に出してあわあわしている。
何でか知らないけど、俺に気を
「あの……前に干し肉を焼いてくれたから、その……」
「干し肉? ――――あ、ああ、そう言やそんなこともあったね……ありがとな」
「は、はい……」
そう言って
干し肉を焼いてって……言われて思い出したけど、結構前のことだよな。
――あの、
特別なことをしたつもりなんてなかったのに、
「ずいぶんたくさん
「いいの? せんせー。ホントに食べちゃうよ?」
「い、いただきます……」
俺が
澪羽は何だか迷っているようだったが――俺用にわざわざ持ってきてくれたのを
厚意を無にしたとかデリカシーがないとか、思われないよな?
俺もありがたく肉をつまんでいると、
――実のところ、校長先生についてはちょっと心配なことがある。
それまではどちらかと言うと、自分の班はもちろん、他のところにも積極的に顔を出して、あれこれ手伝ったり、話したりしていることが多かったように思うんだけどな……。
何と言うか……らしくない。
「なあ、芽衣、み、澪羽」
「ん?」
「?」
口をもぐもぐと動かしながら、二人が俺の顔を見た。
「校長先生さ、何か元気がないように思わないか?」
言ってしまってから、あんまり子どもに話すようなことじゃなかったかなと、少し
「そう? 別にそんな風には見えないけど。あたしには」
芽衣は大して気にした様子もない。
しかし、澪羽は、
「実は……わたしもちょっとだけ、
突然、瑠奈の名前が出てきて、ちょっと驚いた。
「瑠奈が……口を
「はい。
俺たちはザハドから
「その時に、瑠奈ちゃんがわたしのところに来て、わたしの腕を引っ張りながら校長先生を指さしたんです」
「何で瑠奈は澪羽のところに?」
「――それはわたしにもちょっと……。でも、瑠奈ちゃんに
「そうか……」
「わたしは、きっといろいろ気も張ってただろうし、森の中を長時間歩いたんだろうしで疲れてるのかな、と思いました」
確かに結構疲れてはいたけど、帰ってきた直後で俺たちも興奮してたから、ちょっと気付かなかったな……。
「ふーん……そんなことがあったんだね。でもさあ、せんせーってば、まだ澪羽のこと呼び捨てにするの、慣れてないの?」
「え、いや、そんなことは……ないよ?」
「さっき呼ぶ時、ちょっとどもってたくせに。ふふ」
「ちょっと芽衣ちゃん」
全く……変にまぜっかえすなっての。
実際まだ慣れてないんだよ。
「それよりもさ、そんなに気になるんだったら、直接聞いちゃえば?」
「直接って、校長先生に?」
「そう。具合悪そうですけど大丈夫ですかって聞くの、そんなにおかしいことじゃないでしょ?」
「ふーむ」
ちょっとストレート過ぎとは思うけど、確かに芽衣の言うことにも一理あるか……。
「よし、じゃあちょっと校長室、行ってくるよ」
「はい」
「うん、頑張ってー」
◇
「失礼します」
ドアは元々
ノックをしながら一応そう断って、俺は校長室に入った。
もう既に
暗い
「おや、八乙女さん、どうしました?」
俺の入室に気付いてこちらを振り向く顔が、校庭で燃えている
「いやいや、校長先生こそどうされたんです? こんなところで明かりもつけないで」
「ああ」
マグカップの中身を一口
「ちょっと疲れたものですからね……かまど番を免除してもらったんですよ」
「そうでしたか、お疲れ様です。えーっとですね」
どう切り出したものか……
「かまど番もそうなんですけど、ここのところ校長先生、ちょっと元気がないように思いまして……」
「……私が、元気がない?」
「ええ、
「……」
沈黙が落ちる。
しばらくの間、窓の外に視線を向けたまま、校長先生は
そして、俺が次に掛ける言葉を考えていると、
「そうでしたか……ご心配をおかけしてしまったようですね。すみませんでした」
「恐らく、ザハドに行って疲れがたまったんでしょう。なかなか出来ない経験をたくさんしましたからね」
「確かにそうですね。それじゃあ、体調がすぐれないってわけじゃないんですね?」
「ええ……大丈夫です」
「それならいいんですけど……無理しないでくださいよ。俺たちのリーダーなんですから」
「……リーダー、か」
そう
――何か俺、マズいこと言ったかな?
さっき、芽衣と
「八乙女さん」
頭の中であたふたしてると、突然声を掛けられた。
「は、はい?」
「……もし、リーダーが道に迷ってしまったら、どうしたらいいんでしょうね……」
「え、ええ?」
しかも結構な難問。
「ま、まあリーダーだって万能ってわけじゃないんですから、誰かに相談すればいいんじゃないですかね」
「相談、相談か……そうですね。その通りだと思います」
「あの……」
俺は恐る恐る
「もしかして何か、迷ってらっしゃるんですか?」
「――もしも、の話ですよ」
と呟いたきり、口を
俺は、そのまままるで人形のように動かなくなってしまった校長先生を前にしばらく
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