第五章 ギーム
第五章 第01話 予感
「あーあ、
来てる
「まーた始まったよ、リィナのあれ」
「うるさいフェル」
今日は、いつもの湖に
私とシーラと、シルドルーチェ――ルーチェが
――別に、毎日に不満があるってわけじゃあない。
これまでずっと、学舎での
「まあリィナのアレはいつものなんだけどね……今回ばっかりは
「あれえ……何かシーラが珍しい」
いつもだったら、あっちこっちへすぐにすっ飛んで行っちゃいそうな私――自覚はしてる――を
ルーチェも驚いてる。
「そりゃ、あんな体験をしちまえばな。無理もねえだろ」
「そうなんだよねえ」
あの、夢のようだった五日間。
あれからもう、二十日も経つなんて信じられない。
思い出すだけでほけーっとしてしまう。
「不思議な人たちだったわねぇ……」
「そうだな」
「あれ? ディルはあんまりしゃべってなかったよね?」
「うるせえフェル」
すると、シーラが
「あたし知ってるよ。フェルってば、はぅみとかましろーばっかり見てたもんね」
「はあ? 見てないし」
「あのねーフェル……あの
私が教えてあげると、フェルは目をまん丸にした。
「う、
「
「実際見えないよねー。まあ、メイですらあたしより五つも年上なんだから」
「ほ、ホントかよ……」
今度はディルが
「私も聞いたわよぉ……メイに。それとルゥナだっけ? あの
「!?」
「!?」
男の子が二人そろって声もなく
何なの? 一体。
「何であんたたち、今頃そんなに驚いてんの? メイが自己紹介の時に言ってたじゃん」
「いやだって、俺たち言葉分かんねえし……」
「私だって分からなかったけど、ちゃあんと知ってるわよぉ」
「うっ……」
しょーもない
そしたら――私の頭の中に、
……男子じゃないけど。
「そ・れ・で」
シーラが私の顔をいきなり
「こっちの
「え? だ、誰って」
「ふふっ、『
「えー、どういうことなのぉ、シーラ」
「あのね」
……シーラってば何か鼻息荒くしてるけど、余計なことを言わないで欲しい。
「――というわけ。何しろ初日の
「おいおいおいおいおい」
ディルの
「そのりょーすきって、学舎に見に来てたやつだろ?
「下手したらあれじゃんか。
ディルとフェルのやつ、好き勝手なこと言ってるなあ、もう。
「あのねー、この際ちゃんと言っとくけど」
私は両手を腰に当てて二人を
「シーラの言ったことはその通りだよ。そもそも私たちは、言葉の仲立ちをするって役目で参加したんだから、シーラか私が
それに――りょーすきはそういうのじゃない。
そんなありきたりな、何なら普通に
「ふぅん……」
シーラが、ちょっと口ごもってしまった私をじっと見る。
そして、
「まあその話はもうよしとして、あんたたち二人のことだよね」
自分が最初に
「ええっ!?」
「俺たちかよ!」
「
シーラが二人をぴっと指さす。
「はぅみやましろーに色目を使ったあんたたちに、リィナのことぎゃーぎゃー言う資格はないよ」
「色目って」
「勘弁してくれよなあもう。おいフェル行こうぜ」
「行こ行こ」
「ちょ、待ちなさい!」
逃げてく男の子二人を、シーラが追いかけていく。
ルーチェがすっ、と私の
「シーラったら、理不尽
「ふふっ、そうだね」
「ねぇねぇ、どんな人なのぉ? りょーすきって」
「もう、ルーチェまで」
私は、湖を見る。
いつもの見慣れた景色。
「ホントにそんなんじゃないんだよ?」
「わかったわよぉ、それは。で?」
「分かってんのかな? まったく……ただね、りょーすきたちは珍しい人たちって言うだけじゃなくてね、うーん、何て言ったらいいのかな」
「うんうん」
「私がずっと待ち望んでいた……私を新しい場所に連れて行ってくれるような人――上手く言えないけどそんな感じがするの」
「新しい場所……ザハド以外の、ピケとかオーゼリアとか?」
「んー、どうなんだろ……それにね」
私は、
二回目のあの時。
「前に
「うん」
「りょーすきを見てたら私、胸を
「……」
「りょーすきってば、何か変な笑い方をしてた。困ったような、ちょっと苦しいような」
「リィナ、それって――」
「うん。でも、私からは何もしてないんだよ」
「リィーナー! ルーチェー!」
シーラだ。
一人で戻ってきたみたいだから、ディルたちはきっと帰ったんだろうな。
「はあ、はあ……全くあいつらってば」
「シーラも元気よねぇ」
「私たちもそろそろ帰ろっか」
「ふぅ……そうだね。それはそうと、リィナ」
「ん?」
シーラが歩き出しながら言う。
「
「あー、
でも、もう話がちゃんとついたから、私が一緒に行かなくてもよくなったのだ。
私の場合、エリィナさんからの
「もちろんあたしも行ったんだけどさ、その時にりょーすきたちから頼まれたんだ――またザハドに行きたいから、リューグラム様に伝えてって」
「え、ホント?」
「うん。でも、りょーすきのところって、全部で二十三人いるんでしょ? 次も同じ人が来るか分からないよ」
「う……でも、それでも構わないよ! いつになるんだろう……楽しみぃ!」
「ふふふっ、嬉しそうねぇ、リィナ」
「うんっ!」
何だろう。
急に湖の景色が、くっきりしてきたような気がする!
「まったく……調子いいんだから」
「あんなに退屈退屈言ってたのにねぇ」
「あのねえシーラ」
私は再び腰に手を当てて、指摘する。
「さっきは軽く聞き流しちゃったけど、定期便、なんであんたまでついて行ってんのよ! 荷物も持たないくせに」
「そ、それは……」
珍しく口ごもるシーラを横目で見る。
「大体シーラだってものすごく楽しそうだったじゃん。メイとかとキャッキャしちゃって」
「う、うう」
「そうなのねぇ。私も何か楽しみになってきたわぁ」
「でしょ? ほら、白状しちゃいなさいよ。シーラも楽しみなんでしょ?」
「ま、まあね」
ようやく認めたシーラはまあ置いといて、割と慎重なルーチェまで前のめりになってきたのは面白い。
こうして私は、次にりょーすきたちに会える日を指折り数えて待つことになった。
あの、
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