第四章 第20話 ザハド訪問四日目 その3

「くぅ~~~」


 リィナです!


 信じられない光景!

 いつものうちの店の中なんだけど……りょーすきたちが座ってる!


 彼らと一緒に飲み食いしたいらしい近所カリエットの人たちもこぞって来てるから、さっき七時鐘しちじしょう(午後六時)が鳴ったばかりなのに、あんまり広くない食堂ピルミルがもういっぱい。


 クステにまでお客さんクリエが詰めかけてるみたい。


「こんなこともあろうかと、椅子ストリカ代わりの木箱リグノポスカを外に出しておいてよかったわね」

「まあな。しかし……仕込みが足りるかな」


 お父さんダァダお母さんマァマも、滅多めったにない状況にちょっと不安気ふあんげだけど……嬉しそう!


ご注文はヴォダッセ?」

 私はとびっきりの笑顔ミーチャで話しかけた。


「マリンガ」

「マリンガ!」

「マリンガデ」

かしこまりましたセビュートー!」


 何でこんなに嬉しいんだろ。

 ここ数日は、毎日と言っていいほど顔を見てるのにね。


おまかせマリンガ七人前エナです!」

はいよヤァ!」


 りょーすきたちの注文アッセ皮切かわきりに、あちこちのボロスから私を呼ぶ声が上がる。


「リィナちゃん、こっち注文アッセ!」

「こっちも頼むぜー」

「はーい、お待ちくださいアスピータルテーム!」


    ◇


「いやあ、サブリナってば頑張ってるなあ」

「いかにも酒場の看板娘って感じですね」

「あんなにたくさんの注文をてきぱきさばいて、すごいわね……」


 黒瀬くろせ先生と山吹やまぶき先生も感心している。


 俺たちの前には既に、先ほど注文した品が並んでいる。


 おまかせで頼んだから、例によってサラダとパン、肉料理はつぼに入った何かの肉の煮込みだ。


 あと、既にいつものあれだけど、俺以外の大人四人はビールを頼んでとっくに出来上がっている。


 子ども二人と俺は果実水かじつすいをちびちびめている状態。


 ――それにしても……周りの盛り上がりかたが、何かすごい。


 店の雰囲気は、まさ中世ちゅうせいと言うか、アニメとか物語に出てくる酒場そのもので、冒険者ギルドなんて言葉が飛び出してきても全く違和感がなさそうだ。


 俺たちに話しかけてくる人たちも、ちょいちょい現れてきてる。


 はっきり言って会話になるほどには言葉が分からないままなのに、酒が入ると不思議と意思疎通いしそつうが出来るらしい。


 絶対に気のせいだと思うんだが……校長先生や鏡先生の様子を見てると、自信がなくなってくる。


 ――校長先生も、帰りの馬車で様子が何となく変だったから心配したけど、とりあえず大丈夫そうでよかった。


「サブリナすごいね、せんせー。あんなにくるくる動き回って」

「本当だな」

「あの子って、まだ十一歳なんでしょ? 小五じゃん」

天方あまかた君や神代かみしろ君より年下ってことだな」

「ぷ。やっぱり男は子どもだね」

なま言ってんなよ?」

「山吹せんせー、八乙女せんせーがあたしのことナマイキとか言うんです~」

「まあ」

「おいおい……」


「でもあれですよね、八乙女先生、もぐもぐ」

「あれって?」

 黒瀬先生がからんできた。


「ここってサブリナちゃん一家いっかでやってるお店なんですよね?」

「そう聞いてるけど」

「ホールがサブリナちゃん一人で、キッチンを親御おやごさん二人で回してるってことですよね?」

「そうなるね」

「この数のお客さんたちを三人でさばききってるのって、すごくないですか?」

「ま、確かに」


 ここで飲みかけのビールを一気にあおる黒瀬先生。

「ふう…………見てみたい」


「え?」

「キッチン、見てみたいです!」

「あたしも見たい!」

 こくこく。


 マジか……この酔っ払いは。

 俺は周りを見て言った。


「いやでも、こんな忙しい時だと流石さすがに迷惑だろ……」

「じゃあ、いつならいいか、サブリナちゃんに聞いてみてくださいよお」

「あたしが聞いてあげます。サブリナー! リィナ!」

「お、おい……」

「ヤァ!」


    ◇


お父さんダァダ、そろそろいい?」

「おういいぞ、リィナ」


 突然、りょーすきたちが厨房キナスを見たいと言い出した。


 正直なところ困ってしまったんだけど、お父さんに聞いたら店内の雰囲気が一段落いちだんらくしたらいいって。


 一通ひととおり食事も飲み物も出し終わって、いつものように好き勝手騒ぐ感じになってきたので、私はりょーすきたち五人を厨房に案内した。


「ゥワー、コーナッテルンダ」

「アレワカマドゥカヌ?」

「コチガシュクリョーコミタイ」


 入ってきたのはりょーすきとはぅみ、ましろーとめいとるぅな。

 こーちょーとかぐみは、他のお客さんと飲んで騒いでるみたい。


 ――こーちょーは、本当は……しょーなんとかって名前らしいんだけど、りょーすきたちは普段「こーちょーせっせー」って呼んでるし、「こーしょー」だか「しょーごー」だか分かんなくなっちゃったから、こーちょーにした。


 かぐみも本当は、りゅーなんとかなんだけど、どうもりょーすきと区別をつけられないでいたら、「かぐみ」と呼んでくれって言われたのだ。


「リィナ、今のうちに煮込みハニーナの追加を作っとくから、カルネを持ってきてくれ」


「はーい」


 倉庫プラルカに向かう私のあとを、はうみとましろーがついてくる。


「ちっ、俺としたことがリグラ(まき)のログを……」


 珍しくお父さんがかまどフュールに向かって毒づくのが聞こえる。

 ここまで忙しいことなんて、なかなかないからね。


 私は冷蔵棚ルドルニーカを開けて、頼まれたお肉のかたまりを取り出す。


 すると、


「ワ、レーゾーコダ!」

「エ、モシカステデンキキテルッテコト?」

「デンセナンテメナカッタキドゥ……」


 何か二人が驚いてる。

 もしかして冷蔵棚が珍しいのかな――


「エエエエエッ!?」


 突然、かまどフュールの方からりょーすきの大声が響いてきた。


「ど、どうしたの!?」

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