第四章 第21話 ザハド訪問四日目 その4

 酔っ払いの黒瀬くろせ先生が、クソ迷惑なことに食堂のキッチンを見たいとか言い出したのだ。


 芽衣めいのやつまで調子に乗って、サブリナに交渉したら――何とOKが出てしまった。


 いいのかな~と思いつつ、店の忙しさがいち段落した頃に、厨房ちゅうぼうにお邪魔させてもらったのだけど――


    ☆


「えええええっ!?」


 俺は思わず、でかい声で叫んでしまった。


 な、何だ? 今のは。

 サブリナの親父さんペルオーラが、まきに火を、つけた……。


 つけたんだが――――どうやった?


 ペルオーラはびっくりして、俺の顔を見てしゃがんだまま固まっている。

 サブリナのお袋さんテレシーグリッドもこっちを向いたまま固まっている。

 芽衣も瑠奈るなも、口を開けたまま固まっている。


 ――倉庫らしきところから、サブリナと山吹やまぶき先生たちがすっ飛んできた。


「どうしたの!?」

「キェラフェーロ!?」


 俺は……何と言ったらいいのか、分からない。

 分からないけど、ペルオーラに話しかけた。


「ペ、ペルオーラ……」

「ヴォ、ヴォッド?」

「ロ、ロロ、ログイシムーアもう一度……」

「イシムーア?」

ヤァああ……」


 ペルオーラは一瞬考え込んだ様子だったが、すぐに別のまきを右手に取り、左手をそれにかざした。


 すると数秒後、薪の表面からちりちりと音がして煙がでたかと思うと、すぐに炎が上がりだした……。


「えええっ!?」


 俺とおんなじような声を、山吹先生と黒瀬先生が上げる。


 ――そりゃ、そうだろう。


 ペルオーラは、左手に何も持っちゃいなかった。


 ただ、てのひらを薪にかざしただけなのだ。


 かざしただけなのに――火がついた。


「……魔法じゃん」

「ま、魔法……?」


「オワッ」


 ペルオーラがあわてて、火のついた薪をかまどにほうり込んだ。

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