第四章 第14話 ザハド訪問二日目 その1

 カーン…………


 がばっ。


 一時鐘いちじしょう(午前六時)だ!


 私は急いで着替えて、厨房キナスに向かった。


おはようオナサーヴお父さんダァダお母さんマァマ!」

「おう、おはよう」

「おはよう、リィナ。今朝も随分ずいぶん張り切ってるわね」

うんヤァ!」


 だって。

 今日はりょーすきたちを連れて、町を案内グヴィダードする日だから!


「まだ時間には早すぎるんじゃない?」

「そうなんだけどさ」


 約束フォラーガ時刻ケロン三時鐘さんじしょう(午前十時)だからまだまだなんだけど、何だかゆっくり寝てられないっていうか、待ち遠しくてたまらないのだ。


 ――昨日ネロスは、私の人生の中でも多分、一番いっちばん興奮した一日だったと思う。


 代官セラウィス屋敷ユーレジアご飯ミルを食べたのも初めてなら、領主様ゼーレたちとあんな近くでお話パルパルしたのも初めてだし、何よりりょーすきやはぅみや、めいたちと楽しく過ごせたのが嬉しかった。


 るぅなだけは一言ひとこともしゃべらなかったけど、あの子、何かわけカラーナがありそうだったからね。


 それに、るぅなはきっと――


「その人たちがうちに来るのは、いつなんだ?」

「えーとね、明後日モムロスだよ」


 昨日ネロスお昼ごはんミラウリスの時に、りょーすきたちの大まかな予定ホラロアが決まった。


 今日ロスはみんなで町の見学イズレット

 明日モロスはそれぞれが行きたいところを見て回る。


 そして、明後日モムロスがみんなで少し遠いところを見学したあと――山風亭うちに泊まる!


 ……で、明々後日モムムロスが……りょーすきたちが帰っちゃう日。


「なら、いつも以上に腕を振るっておもてなししないとね」

「うん、私も頑張る!」


 元々うちに泊まる予定はなかったところを、私が是非ぜひにってお願いしたのだ。


 お代プロイのこととか全然考えてなかったのに、どういう風にかリューグラム様が話をつけてくださったらしい。


 お父さんダァダお母さんマァマはすごくびっくりしてたけどね。


 ――貴族様ドーラたちについてはいい話も悪い話も聞く中で、私たちの領主様はすごくいいかただと思う。


 だって、うちの宿ファガードに泊まって欲しいなんて、あのかたからすればただの子どもジダルワガママセパクラで、そんなこと私だって分かってるんだけど、それをたわごとイモのヒゲだって一蹴いっしゅうしないでちゃんと聞いてくれた。


 たとえかなえてもらえなかったとしても、ちゃんと耳をかたむけてくれるだけで、それだけで十分じゅうぶん立派なかただと思う。


「それにしてもなあ……リィナの好奇心ヴィルベレスがずいぶん大事おおごとになったもんだ」


「ホントねえ、しかも禁足地テーロス・プロビラスから来た人たちなんて、町中大騒ぎなんだから」


 おっと。


 これって私、められてるのかな。

 それともお小言こごと前兆ぜんちょうだろうか。


「う、うん」

 私はパンパーオ頬張ほおばりながら、取りえず曖昧あいまいに返事をする。


「それでリィナ、今日はあの人たちの案内をお前がするんだって?」

「うん、そうだよ」

「どこを案内してあげるの?」


 よかった。

 お説教グリジャードにならなくて。

 私は頭の中で考えていた計画を思い出しながら答えた。


「町の中心がいいみたい。だから代官セラウィス屋敷ユーレジアを出発したら広場フォーマまで歩いて、市場メルコスお店プローデとか屋台マトラとかを案内しようと思ってる」


「今日は学舎スコラートがある日だけど、シーラちゃんも来るのか?」


「うん。あの子も休むって。何しろ言葉がちょっとでも通じるのが、私たちしかいないからね」


 そういうわけで、私も今日はお休みなのだ。

 昨日も休んじゃったけど、仕方ないよね。

 

「ふーん、言葉が通じない人たちか……興味深いメタ・ヴィルベリィ。俺も早く会ってみたいね」


「私がいないと話できないよ」


「ほう。リィナはそんなにしゃべれるのか? あいさつとか出来るのか?」


「出来るよ! 『こんにちはサリエーテ』はね、『ココヌチャ』って言うんだよ」


「ふぅん? ココヌチャ、ねえ……やっぱり聞いたことないなあ」


「ま、その時は私に任せてよね!」


    ◇


「ココヌチャ!」

「ココヌチャ~」


 午前十時。


 俺たちが、サブリナたちとの待ち合わせ場所であるセラウィス・ユーレジアの門の前で待っていると、向こうから二人が元気に声を掛けてきた。


「おう、サリエーテ!」

「ちょっとせんせー」


 芽衣めいいぶかな顔で俺の服の裾を引っ張る。


「ん?」

「ココヌチャって……何?」

「え? あ、ああ。あれね」


 そう言えば訂正してなかったな。


「何か山吹やまぶき先生が言った『こんにちは』がそう聞こえたみたいでさ。それ以来、あいさつが『ココヌチャ』だと思い込んでるんだよ」


「私のせいじゃないですよ!?」


 山吹先生があわてている。


「どーでもいいけど、直すなら今の内じゃない? 最初が肝心だよ」

御門みかどさんの言う通りでしょうねえ」

「訂正するべきでしょうな」


 あれ? 何で俺が責められてるの?

 校長先生やかがみ先生まで。


 何となく変な空気がただようのに気付かず、サブリナが元気な声で言った。


シューラレ行きましょう! タ・オーラ皆さん!」

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