第四章 第09話 昼間の回想 その1

 突然、俺の部屋を訪ねてきた、芽衣めい瑠奈るな

 いろいろ話しているうちに、昼間の出来事を思い出すことになった。


 うんまあ……面白いって言えば面白かったか。


    ※※※


 セラウィス・ユーレジアとやらに到着し、馬車を下りた俺たちは面会会場となる部屋に案内された。


 室内は何と言うか、見たことあるような初めて見るような、非現実的な現実感という不思議な感覚を呼び起こされる景観だった。


 俺は西洋の城とか全然詳しくないんだが、そんな俺でもちらと見たことのある、ノイシュバンシュタイン城の歌人かじんの広間とか、ヴェルサイユ宮殿の何とか王女の大客間おおきゃくまとか、いや全然テイストが違うやろというツッコミは勘弁願いたい、とにかく「そういう系統の部屋」なのだ。


 ――まず、大き目のガラステーブルの周りに、いかにもという椅子が恐らく人数分配置されている。

 壁には燭台しょくだいのようなものがたくさん設置されている。

 天井にも、シャンデリアめいた豪奢ごうしゃな照明器具とおぼしきものがぶら下がっている。


 部屋の中は、窓から差し込む大量の光でまばゆいほど明るいので、今はそれらは稼動していないだろう。


 けれども外が暗くなってがともったら、それはそれは美しいだろうと容易よういに想像できる。


 部屋に通されたはいいが、案内をしてくれた女性は退出してしまって、この後どうすればいいのか分からず、途方に暮れてぼっ立つばかりの七人。


 はっきり言っていろいろ極限状態の俺たちだったが、緊張感のメーターが振り切れて爆発せずに済んだのは、直後に扉を開けて入ってきた六人の内、半数が見知った顔だったおかげだ。


 サブリナとドルシラ、カルエリック以外の三人は、恐らくこの中で一番立場が上だと思われる男性と、その後ろに影の如く付き従う男性、そしてその横に並ぶ女性だった。


 それ以外にも、あちこちに紺色のお仕着しきせにエプロンと言うで立ちの女性が何名も散らばって立っている。


 即座に思い浮かんだのが「メイドさんでは?」という疑問である辺り、俺も相応に日本のサブカルに毒されてるなあと思わず自嘲じちょうするが、恐らく実態もそれほどかけ離れたものではないだろう。


「せんせー、メイドさんがいっぱいだね」

「ああ、本物だな」

「……本物って、何?」


 隣に立つ女子高生と、聞きようによってはちょっと失礼かもしれない会話を交わしていると、身振り手振りで着席を勧められた。


 リーダーである校長先生を中心にする形で椅子に座る。


 ちなみにだが俺や山吹先生が、サブリナたちとの交流で知り得た、わずかばかりの会話知識をあらかじめみんなで共有してある。


 こんにちは――サリエーテ。

 さようなら――エレムレスタ。

 ありがとう――マロース。

 ごめんなさい――ポリーニ。

 はい――ヤァ。

 いいえ――ノイン。


 あとは、数の数え方くらいか。


 イシからディアと、二十三ウシディアセスを教わっている。

 もちろん、教わった語彙ごいについては、向こうに日本語も教えている。


 そこから、まずはお互いの自己紹介から始まったのだが、ここでこちらの手土産てみやげ炸裂さくれつしたのだ。


 手土産そのいち、「プロフィール帳」である。


 俺たち二十三人の名前と性別、バストアップ(豊胸ほうきょうの意ではない)の似顔絵と簡単な肩書きを四つ切よつぎりサイズの画用紙にいて、本の形に整えたものだ。


 年齢については、諸般しょはんの事情で掲載けいさいを見送ることになってしまったが……。


 精一杯丁寧に作ったけど、出来上がりとしてはまあ、正直大したことはない。

 しかしこのプロフィール帳が、自己紹介にはすこぶる役立ったのだ。


「これ、あたし! 芽衣! 御門みかど芽衣!」

「メイ、ミカドゥメイ」

「それでこっちが、瑠奈。久我くが瑠奈」

「ルゥナ……ガルゥナ?」

ノインちがう! 瑠奈るな!」

 こくこく。


 ――みたいな感じで。


 そして分かったことだが、向こうの一番偉そうな男性が、ディアブラント・アドラス・リューグラムという、ご立派なお名前の人だということ。


 ノスト、とかラファイラとか呼ばれてて、何かの敬称なんだろうけど、結局理解できていない。


 概念がいねんみたいなものは、絵図を使っても説明が難しいことを痛感する。


 で、椅子に座らず彼の後ろにずっと立っている従者みたいな人が、ラーシュリウス・ベック・オリヴァロだそうだ。


 こちらのお名前もなかなかにいかめしい。

 きっと肩書も説明されたんだろうけれど、同じく分からない。


 面会中、結局一度も口を開かなかったよな、この人。

 このリューグラムさんの右腕的な存在なんだろう。

 寡黙かもくではあっても特に嫌な印象を受けなかった。


 そして、最後の女性がヒルディーフランカ・セルリーオス。

 この人には真ん中の名前――ミドルネーム?――のようなやつがないらしい。


 ……ん? そう言えばサブリナやカルエリックたちのファミリーネーム?って聞いたことないな。


 あるのかないのか、ないのかあるのか。

 ……。


 突然だが、

 ――カエルのおへそ……ない(卵生らんせいだから)。

 ――ミミズのめだま……ある(!)。

 だそうだ。


 それはともかく、この女性がこの町のおさらしい。


 俺とそれほど年は変わらないと思うけれど、女性はホントに見た目じゃ分かんないし、下手にクイズ形式で聞かれると、どう答えても地雷を踏み抜く確率が高い。


 この町の習慣的なものが不明だから、年齢の話にならなくてよかったと思う。


 ……日本の地方公務員あるあるなのかも知れないが、俺たちの給料は「給料表」があって公表されているから、職場で仲のいい同僚どうしで自分の「号給ごうきゅう」を「レベル」と呼んで教え合っていた。


 若い子たちは基本的にもちろん「レベル」が低いわけだが、意外な人が意外な「レベル」だったりでなかなか面白かった。


 嫌がる人に公表を迫るようなことはもちろんしてないけど、やっぱり年上の人の給料事情って、年齢以上に気になったりするんだよね。



――――――――――――――――――

2023-01-28 一部誤表記を修正しました。

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