第四章 第05話 クリスマスプレゼント

「と言うわけなんです。どうしましょう皆さん」


 何だか、たまたま調査班にいて、たまたま最初に遭遇そうぐうしたという理由で、すっかり俺こと八乙女やおとめ涼介りょうすけ山吹やまぶき葉澄はずみ先生が対現地人対策担当みたいになっている。


 おまけに山吹先生てば、こっちを立ててくれてるのか、ただ面倒ごとを押し付けてるだけなのか、こういう時に必ず俺を矢面やおもてに立たせるんだ。


「どうしましょうって、こちらの要望を向こうが受け入れてくれたってことだろう? 応じんという選択肢などあり得んな」


 まあかがみ隊長の言う通りなんですが、じゃあ誰が行くかって話ですよ。


「四日後って、うちのカレンダーだと十二月二十四日ですね。クリスマスプレゼントじゃあないすか」


 そこはかとなく他人事ひとごとしゅうただよってくるのは、諏訪すわさん。


「えっ? クリプレもらうのって、二十五日の朝じゃないんですか?」


 御門みかどさん、そこ?


「あら、クリスマスってのは二十四日の日没から二十五日の日没までなのよ。時間帯によってはアリなんじゃない?」


「へー、そうなんですね……」


 不破ふわ先生の意外な蘊蓄うんちくに、加藤先生が反応してる……。


 ――――ここはいつもの職員室。


 またしても臨時の情報委員会全体会・・・が開かれている。

 時刻は、午後七時。


 今日も全員で夕食をとって、その流れでの全体会だ。


 外はとっくに真っ暗で、全員に支給されているLEDランタンが、各々おのおの机上きじょうで周囲を丸く照らしている。


 既にお馴染なじみの光景だ。


 ――発端ほったんは、今日の調査班瓜生うりゅう隊での出来事。


 いつものように、森を貫くための道を延伸えんしんさせるために、地道な草刈りと周囲のマッピングを繰り返していた。


 そこに、サブリナの一行いっこうがやってきたのだ。


 ――彼らと会うのも既に四回目。


 一回目は、見合っただけで相手が逃げて行った時。

 二回目は、初めて彼らと会話をした時。

 三回目――つまり前回は、二度目の食料無償提供だったのだ。


 何の対価も支払わずに貴重な食料を頂くことに抵抗もあり、以前から町の有力者へ取り次いでもらいたかったこともありで、三回目に会った時に、こちらが面会を希望していることを伝えたのだ。


 通じた、と思う。

 あの絵で。


 だから、四回目になる今回の訪問で、もしかしたらその時の答えを持ってきたのかも知れないと予想はしていた。


「メンバーは十人以内にして欲しいってことなんですよね?」


 校長先生の問いに俺は答える。


「恐らく、そうだと思います」


 今回の交流で、数の概念と数え方の確認をした。


 ――日本人の多くは数を数える時に、グーの状態からまず人差し指を立てると思う。


 それが「1」。


 中指、薬指、小指と立てていき、最後にパーの状態で「5」になる。


 そこから親指、人差し指と折っていって、親指を握りこんだグーが「10」になるのが一般的じゃないだろうか。


 ――ところがサブリナたちは、そうじゃなかった。


 まずグーから始まって、それが「0」。

 そしてまず小指を立てて「1」を表すのだ。


 薬指、中指、人差し指と立てていって、パーが「5」になる。

 そこからは俺たちと同じで、親指から順にたたんでいく。


 恐らくこれだけのことですら、言葉だけで分かり合おうと思ったら相当に骨が折れただろうけれど、絵図を一緒に使うことで、思いのほかあっさりと理解しあえたのだ。


 おかげで向こうの言う「今日から四日後に」という内容も、ちゃんと伝わったのだった。


「まず、八乙女やおとめさんと山吹さんは固定メンバーですよね」


 まあ……否定はしないし、経緯けいいから考えても妥当だとうだとは思うけど、俺はそれほど話をしていないんだよなあ。


 メインでやり取りしてるのは山吹先生だからさ。


「各班から、最低一人ずつ参加していただくのはどうでしょう」


 教頭先生の提案に、しばし班会議が始まる。


 ――そして。


 施設管理維持班より、校長先生。

 保健衛生班より、黒瀬くろせ先生。

 食料物資班より、御門みかどさんと瑠奈るなさん。

 調査班より、俺と山吹先生と、鏡隊から一人ということで鏡先生本人。


 食料物資班のとこは、結構めていた。


 御門さんはともかく、瑠奈さんがねえ……と思うのだが、どうも本人たっての強い希望によるもの、とのこと。


 ……結局七人に収まってしまった。


 交流が始まれば誰にも行く機会があるだろうということで、今回はこれで決まりとなった。

 小学生男子二人が希望しなかったのが、ちょっと意外ではある。


「メンバーが決まったところで、最終確認をさせてください」

 校長先生が手を挙げた。


「私たち七人は、食料を含めた生活必需品を安定して得られるよう、そしてその対価としてこちらが何を差し出すことが出来るのかということを確認して、現実的な交渉をしてくるということでよろしいでしょうか」


 みんなうなずいている……が、教頭先生が挙手きょしゅした。


「一つお願いしたいのですが、ただ一度の交渉だけで全てを決めてしまわないで頂きたいと思います。場合によっては持ち帰って、こちらで話し合った上で回答することがあってもよいのではないでしょうか」


 なるほど。

 事によっては改めて二十三人の合意を得る必要があるかも知れない。


 教頭先生の提案に、校長先生が答える。


「分かりました。確かに今回の場合、拙速せっそく巧遅こうちまさるとは限りませんね。今のところ、どういう訳か二度も食料を無償で提供してくれていることから、彼らは基本的に友好的と考えていいと思われますが、慎重に対処するにくはないと私も思います」


「大体、あれだけ大量の食料をただで何回もくれるって、友好的を通り越してちょっと怖いというか、怪しい気がしないでもないですね。個人的には」


 壬生みぶ先生が珍しく意見を述べているが、確かに一理あると思う。


 サブリナたちと直接やり取りしている俺からすれば、あの子たちに悪意があるようにはどうしても思えないけれど。


「あまり善意を疑うようなことはしたくありませんがね、先方の思惑おもわくが分からんことには何とも。まあその辺りもはっきりさせるつもりで行ってきますよ」


 鏡先生が壬生先生の言葉を引き取って言う。


「では、明日の午前中に、選抜メンバーで打ち合わせをしましょう。面会の時刻が……えー、何時でしたか?」


 俺はメモを見ながら答える。


「えーと、『ティリヌスセスティード』だそうです。こっちの暦法れきほうとか時制とかまだ全然分かりませんけど、どうやら午前十一時を表してるらしいですよ。場所は『セラウィスユーレジア』ですが、こっちは全く意味が分かりません」


「なるほど、出発時刻からしていろいろ考える必要がありそうです。それでは、他にないようでしたら会議を閉じましょう」

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