第四章 第03話 リューグラム弾爵

 そういうわけで今、私たち四人・・代官セラウィス屋敷ユーレジアヘイグの前に立っている。


 ――そう、一人増えてる。


 私ことリィナとシーラ、シーラのお父さんダァダのエリックさん。


 そして――町長ジェフェットのヒルディーフランカさん。


「そのうわさリクサスは私もリンガにしてはいたけど、やっぱりこうなったわね」


わりいな、フラン」


「勝手なことをされるより、よっぽどいいわ。実際、捨て置ける話じゃなさそうだしね」


 ヒルディーフランカさんは、エリックさんの奥さんミューリスお姉さんアデルードレ

 だからシーラたちは町長さんの親戚しんせきなんだよね。


 ――ルスタはちゃんと聞いたことがないけど、すごく綺麗きれいな人。

 タリオまで伸ばした金髪オリハールを、無造作に後ろでしばってる。


 暗めの水色リュクレールをしたアルノーはちょっとだけきつめで、このマータで見られると少しだけ緊張してしまう。


こんにちはサリエーテー、イェールさん、リアンさん」

「おう」

こんにちはサリエーテ、皆さんおそろいで」


 レオさんは今日はお休みヤーズかな。


 衛士ガルドゥラの人たちと挨拶サルヴェティートを交わしながらヘイグを抜けて、大きな玄関トランセヴラットに向かう。


 私にとっては、いつもの学舎スコラートって感じなんだけど……あれ、フランさん緊張してるのかな。


「緊張かあ……多少してるかもね。だって――――弾爵閣下ノスト・ラファイラご自身がいらしてるんだから」


「えっ!?」

「うそ……!」

「ホントなのか? おい」

「ええ」


 玄関の扉を開けながら、フランさんが事もなげに言う。


「その方が話が早くていいでしょ?」

「そりゃそうだが、心の準備ってもんがあんだろ……」

「私だって、使いエラリスを出して初めて知ったんだから」


 私、領主様ゼーレに会ったこと、あるかな……。


 遠目に見たことはあるかも知れないけど、直接話したことなんて、確実にない。


こんにちはサリエーテ、皆さま、ようこそ」


 扉の向こうでは、ヴィルテクラーラ――クララさんがいつものように来客クリエを待ち構えていた。


「リッカさん、皆さまを第一応接室サロノア・イシガへ」

かしこまりましたセビュート


 ドロテアリカ――リッカさんに案内されて、初めて入る部屋ルマに入った。


「こちらでお待ちください」

 と、長椅子グーヴァを勧められたので、素直に座って待つ。


 ちなみにクララさんもリッカさんも、代官屋敷ここで働いてる使用人フェルミアだ。


「ねえねえ、シーラ」

「ん?」

「何だか……落ち着かないね」

「うん」


 エリックさんとフランさんは、既に平気な顔で座ってる。


 ――勉強部屋ルマヌメレートよりも大分だいぶ広い。


 応接室ってことだから、いろんな偉い人たちがここではなしとかするんだろうなあ。

 調度品メブロージュも、よく分からないけどひんがよさそうに見える。


 ――しばらくして、扉の横に立っていたリッカさんが、


リューグラム閣下ノスト・リューグラムがお見えになりました」


 と告げた。


 エリックさんたちが立ち上がったので、私たちもそれにならう。


 扉がいて入ってきたのは――男の人ノァス二人ウスヴィルだった。


 ――一人は金髪オリハールを横は短く刈り上げて、グラーヴァの上は綺麗にうしろへ流している人。

 青いシュルーミィアルノーが何だか力強くて、妙に印象的な感じがする。


 もう一人は、栗色マッリィハールを後ろでお団子ブーレットにしてる人。

 マータリアラみたいに細いけど……瞳のヤルウァは濃い灰色アスケスィかな。


 金髪の人が手を挙げながら、


「ああ、いいからいいから。座ってて」


 と、親し気に声を掛けてきた。


 リッカさんがお茶ディト支度したくを始めるのが見えた。


    ◇


「ふうむ、なるほど」


 金髪の人は、二口目のお茶ディトをすするとつぶやいた。


 このかたリューグラム弾爵様ラファイラ・リューグラムだ。


 何だかすごく砕けてて、ロヨラスさん――シーラのお兄さんブラトルードレ――と話してるような感覚になるけど、間違いなく領主様ゼーレなのだ。


 お年ルスタも……結構若いんじゃないかなあ。


「その、何だったかな? りゅーそけ? とか言う人物が、我々との面会レネヴェートを要求していると」


「えっと、りょーすき、です」


 訂正するのって失礼に当たるのかも知れないけど、人の名前を間違って言うのってだめだと思うから、ちゃんと直さないと。


 ――あれ?……ホントにりょーすきだっけ?

 何か自信がなくなってきた。


「うん。で、そのりょーすきが面会で求めるのが、恐らく何かを交換ランザムすることだと?」


「あ、あの、私が何となくそう感じただけなので、確かにそうだとは……」

「相手からそう聞いたんじゃないのかい?」

言葉ヴェルディスが通じないんですよ、閣下ノスト


 エリックさんが助け舟ロムスの船を出してくれる。


「言葉が――通じないだって?」

「ええ。あの人たちは我々が聞いたことのない言葉を話します、閣下」

「聞いたことのない言葉……ラーシュ、どう思う?」

「普通に考えれば、有り得ないことです」


 ラーシュと呼ばれた、リューグラム様ノスト・リューグラムの後ろで立っている男の人ノァス即答そくとうする。


「皆さんご存知だと思いますが、このエレディールは非常に広大ではあっても単一国家エル・ウナです。かつては複数プルラーナエルに分かれていたこともあったそうですが、それも遥かいにしえの事。そうですね、ドルシラさん」


「は、はいっ!?」


 突然名前を呼ばれて、シーラってばあわててる。

 もしかしたらラーシュさんと顔見知りなのかも。


「そういうわけで、地方レギノス辺境リモスには今でも独特の語彙ごいや言い回しはあるでしょうが、長い年月を経てエレディールの言語は統一ウナイデされています。言葉が通じないなど……」


「大体、オーゼの向こうのモーラ島アイ・モーラやゼレナヴィエラにおいても、意思疎通が容易なんだ。いわゆる『白き人ヴィッティ・ヴィル』ですらね」


 ――白き人ヴィッティ・ヴィル


 いつだったか、オルガナックスオルガ先生に教わったことがある。


 この大陸エレディール南東セレタヴァントの海に、メリディオっていう大きなアイがあって、そこにあるエルがゼレナヴィエラって言うらしいんだけど、元々エレディールの人が開いた国なんだって。


 そこに、えーと、五十年前くらいに突然、「白き人」というのがどこからともなく現れて、住んでいた人たちをみーんな追い出してしまった、らしい。


 それ以来、ゼレナヴィエラに一番近いミザレスの領主様とにらみ合いになってる、だったかな?


 ――合ってますよね、ラーシュさん。


素晴らしいですねアッチェランサブリナさんフェデール・サブリナ。まあ今の問題はそこではなく、『白き人』とすら言葉が通じるのにも関わらず、というのが要諦ようていですが」


 てへ。


「しかも、見慣れぬ物品を所持していたとか。彼らから害意がいいは感じられないとのことですが……」


「害意ね……」


 リューグラム様ノスト・リューグラムは腕を組んで、何か考え込んでいる。

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