第四章 第02話 父親二人

「それでな」

「……」

「聞いてんのか? ペル」

「ああ、聞いてるさ」


 ちょっと前に八時鐘はちじしょう(午後八時)が鳴った頃、山風亭うち食堂ピルミルではエリックさん――シーラのお父さんダードレ――が厨房キナスに一番近い椅子ストリカに座ってビールピアットを飲んでいる。


 晩御飯ミルゲーゼを食べるお客さんクリエ大分だいぶけてきて、飲みが目当ての人で半分くらいのダルカが埋まっている。


 私のお父さんは――いつのものようにあちこち動きながら、エリックさんの話にうなずいたり頷かなかったり……。


「だったらさ、もうちょっと真剣に――」

「いやいやエリック、あんまりこんなとこで話さねえ方がいいんじゃねえか?」

「うぐ……」


 とは言っても、周りのお客さんたちは特にエリックさんたちに注意を払っている様子はなくて、みんな好き勝手に騒いでいる。


 いつもの風景なんだけどね。


「まだ当分客は引きそうにねえが、どうする?」

「いや、やっぱり今ここで話した方がいい。リィナちゃんがいるうちに」

「わ、私ですか?」

「そうだ。ほら、こないだ持っていっただろ? 二回目のを」

「あ、はいヤァ


 最初にりょーすきたちのところに荷物キャリークを運んで半節プセ・アッタル(半月)くらいってから、二回目のお使いをエリィナさんに頼まれた。


 それ自体は特に問題なくって、一回目と同じ(カルネカモシカメルガじゃなくてウシコベック)ように済んだんだけど、その時りょーすきたちに多分お願い事をされたのだ。


 その時の様子なんだけど……


    ※※※


「シーラ、このイルディアってどういう意味ベクニスなんだろ……」


「たくさんのヴィルの上に、人が一人イシヴィル立ってるね。で、こっちのヤルウァが違う四人タスヴィルが」


「はぅみたちをしてるんだろうな」


 私が、絵の四人と目の前にいるはぅみをフィグロで交互にすと、はうみが、


ヤァヤァそうそう、ソレワタイッチ」

 と、嬉しそうにうなずく。


「そうみたいです」


 で、この上の一人と四人を線で結んで、指を行ったり来たりさせたり、口の前で手をぱくぱくさせたりしてるのは……。


「話したい……じゃないのかな?」

 ヨナさんが恐る恐る言う。


「話したいって、ヴィ―アと? ヨナにい

「うーん……」

「この上の一人とってことか」


 すると、はうみがたくさんの人の中に新しくもう一人き足した。

 そして、私と描き足した人を交互に指す。


「これが、私ってこと?」


 私が自分を指さすと、はぅみがにっこり笑ってうなずいた。

ヤァそう!」


 更にもう一人描き足して、おんなじことを今度はシーラと。


「あたしやリィナをふくめた、たくさんの人の上にいる一人の人……」

「――――町長ジェフェット(まちおさ)か!」

「つまり、この人たちはこの町ザハドの町長さんと話がしたいってことかな」


 その時、私は突然「バルトゥスかれる」感覚がした。


「!」


 私は思わず、はぅみの後ろに立ってるりょーすきを見た。


 いつものように小さな四角いタレアをこっちにかざしているりょーすきは、目をつぶっている。


 そして、ゆっくりとまぶたを開けると、私を見て戸惑とまどったようなみを浮かべた――――


    ※※※


 ――とまあ、こんなことがあったのだ。


「そんな感じで、あの人らが町長辺りに面通めんどおしさせてもらいてえみたいなふうになってな」


「そのことは伝えたのか? 町長さんに」


「いいや、まだだ。先に領主様ゼーレに伝えた方がいいような気がしてさ」


リューグラム弾爵ラファイラ・リューグラム(だんしゃく)か……確かにそうだな」


「リィナちゃーん、注文アッセいい?」


 話は気になるけど、とりあえずお客さんクリエのとこに行かなきゃ。もう。


はーいヤァ、今行きます!」


「それで、何て申し上げるつもりなんだ?」

「何てって、そのまんまお伝えするしかねえだろ?」


「そのまんまって、禁足地テーロス・プロビラスに住んでるらしい怪しい人たちが、町長さんに面会レネヴェートを求めてるってか」


「そうだ」


 戻ってきた私の前で、お父さんダァダこめかみカールムを押さえている。


「そもそも、何でその人たちは町長さんに?」

「さあな。俺にも分からん。何か頼み事でもあるんじゃねえか?」

「あのね、お父さん」

「ん?」


「リィナー! このブロッツ盛り合わせポルテをあっちのお客さんに持ってって!」


「あ、ちょっと待ってて。行ってくる! はーいヤァ!」


「……それで、リィナちゃんあの子も連れて行きてえんだ。様子もよく知ってるしさ」


「まあ、そもそもうちの子リィナが受けた仕事カーマから始まった話だからな」


「シーラも連れていくつもりだ。要するに最初に会った時の三人セスヴィルだな」


「分かった。リューグラム様ノスト・リューグラムに直接ってわけにいかないから、代官様セラウィスにお伝えすればいいな」


「そうそう、でね、お父さん、エリックさん」


 給仕スタライが終わった私は、二人に大事なことを伝えなきゃならない。


「りょーすきたちが話したい事って、多分だけど……『交換ランザム』だと思うんだ」


「交換? そんなこと話してたっけ?」


 私は首を横に振る。


「んーん、私がそう思っただけ」

「どういうことだ? リィナ」

「えーっとね」


 私は二人の顔を見る。


「何となくだけど、あの時りょーすきの顔を見てたら、そんな風に感じたの」

「――リィナお前、まさか……」

「んーん、違うよ。お父さん。私は何にもしてない」


 首を振る私を見て、エリックさんがうなる。


「ふーむ……それなら尚更なおさらリィナちゃんを連れて行かないとな」

「連れて行くって、どこへ?」

町長ジェフェットと、代官様セラウィスのところだ」

「ええっ……いや、そんな気がしてたかも」


 だって、私が発端ほったんなんだもん。

 りょーすきたちと直接話をしているわけだし。


「それじゃ、早速だけど明日、まず町長のところへ行く。出来ればそのまま代官屋敷にも行って、代官様に相談したいとこだな」


「分かりました」


「よし、じゃあペル。リィナちゃんを借りるぞ」

「仕方ねえな……」

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