第三章 第17話 カレヌオニーリ

「よ、おかえりオナーブラ

「あ、ヨナにい


 西の森シルヴェス・ルウェスの入り口には、猟師ロヴィクたちが共用で使う小さな小屋ユバンがある。

 その近くのリグノの横で、ロヨラスさんが私たちを待っていた。


「思ってたより大分だいぶ遅かったね、父さんダァダ

「ああ、ずいぶん待たせてしまったな、ヨナ」

「お待たせしました、ロヨラスさん」

「おかえり、リィナちゃん。仕事は無事に済んだのかい?」

はいヤァ、ばっちりです」


 西の森ここに来るに当たって、シーラのイル大きい荷馬車キャリカを出してもらったのだ。

 これに乗って、私たちはやってきたってわけ。


 太陽オーヌは森に隠れて見えないけど、セレスタの色で分かる。

 もうすっかり夕方ヴェセール


 森に入ったのが午前中プリムスーラだったから、疲れるわけだ。

 ロヨラスさんとグライデをすごく待たせてしまった。


「いつもご苦労さん、ありがとねポリーニグライデ」


 たてがみイクリネを撫でてあげると、グライデは気持ちよさそうにラネーズを鳴らす。

 この子はホント、素直で可愛いナーディア


「ちょっと荷車キャリコスをしまってくるから、先に準備してろ」

了解ダット。じゃあ二人タ・ウスヴィルとも、今の内に乗っちゃって」

はあいヤァ

はいヤァ


 御者台ぎょしゃだいからロヨラスさんが声を掛ける。


「お腹空いたでしょ。リィナちゃんのとこに寄って、夕ご飯ミルヴェセールを食べていこう」


 私とシーラは、お互いに顔を見合わせて、思わず吹き出した。


「あははははは!」

「ど、どうしたの? 二人とも」

「おい、俺も乗るからちょっと空けてくれ」


 後ろから、エリックさんが荷台キャラックがってきた。


「おいヨナ、いいぞ。出してくれ」

「はいよ。で、父さん。どうしちゃったの? この二人」

「ん? 何のことだ?」

山風亭プル・ファグナピュロスで夕ご飯でも食べようって言ったら、この通り」

「あははは、あはははは」

「ああ……」


 エリックさんは、軽く咳払せきばらいをすると、


「ちょっとな、珍しいものを食ったんだよ」


    ※※※


美味しいメーレ!」

「本当! 何これ」


 私たちは、りょーすきたちからもらった黄色いジーリィつぶつぶのかたまりを恐る恐る口に入れて、思わず叫んでしまった。


 はぅみが言うには、「カレヌオニーリ」というものらしい。


 初めていだかおりの、ちょっとぴりっとからくてしょっぱくて、不思議なエトラノスジフス食べ物ミルだった。


 本当はもっと食べたい。


 食べたいんだけど――これって、りょーすきたちの昼ごはんミラウリスなんだよね……。


 エリックさんも、あっという間に食べちゃったみたいで、何だか悲しそうにしてる。


「チョツマッテ、マツ、イイ?」


 と、りょーすきが私たちの前に手の平を出したと思ったら、走ってどっかに行っちゃった。


「どういう意味だろ。シーラ」

「分かんないけど、さっきのすごくメタ美味しかったメーレ!」


 はぅみはにこにこして、別のものを差し出してきた。

 何か黒っぽいヴァーティこれは……カルネ


 すると横からエリックさんが手を伸ばして、さっと口に入れてしまった。


「あ」


「もぐもぐもぐ……ん? これは、カモシカメルガか? カモシカのカルネみたいだが、変わった味付けだなもぐもぐ」


「ちょっとパパダァダ!」

「あははは」


 するとはぅみが、別のボスカに入っていた同じものを差し出してくれた。

「ドード」


「食べて、いいのかな?」

「もらっちゃお!」


 エリックさんが、私のつまんだお肉を見てる。

 おじさん食べたでしょ、もう。


「んっ」

「こっちも美味しいメーレ!」


 エリックさんの言う通り、カモシカメルガ煮込んだやつハニーナみたいだけど、この味付け!

 山風亭うちでもこの肉の煮込み出してるけど、同じくらい美味しいメーレ……むむむ。


 ガサガサガサ。


「ヤーヲマッセ」

「ココヌチャ……」


「わ」

「増えた」


 イコスのする方を見ると、りょーすきが別の女の人フェムを連れてきていた。


「そう言えばエリィナさん、四人タスヴィルいるって言ってた」

「じゃあもう一人、増えるのかな」


「ヤオゥメサ、ウリウサワ?」

「クゥマオトイニッテムラッ」

「アーオムタイェスモゥネ」

「アノー」

「アソウソウ」


 りょーすきが、新しく来た女の人を指さして言った。


「コチラ、レイ」

「こちられい?」

「アーノインちがうノインちがう、レイ!」

「れい?」

ヤァそうヤァそう!」


 この人はれいと言うらしい。

 あいさつしなきゃ。


「れい、サリエーテこんにちは!」

「エ、サリエェ?」

「バァ、コヌチャティミラウ。サリエーテこんにちは

「ア、サ、サリエーテこんにちは! ココレドドー」


 そう言ってれいが差し出したのは、また別のカレヌオニーリとカモシカメルガカルネが入ったボスカだった。


「わあ! ありがとうポリーニ!」

「おお! こいつはいい」

「ちょっとパパ!」


    ※※※


「――てな感じでな」

「いいなあ、僕も食べたかったなあ」

「きっとまた、食べられる機会がありますよ」

「そうそう」

「でもな」


 急に真面目な顔をして、エリックさんが言った。


「あの人たちとは、あんまり関わらない方がいいかも知れん」

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