第三章 第10話 接近
エリィナさんの足はまだ止まらない。
途中から
完全にドルシラ頼み。
シーラはまだ平気な
「ねえリィナ」
「ん? 何?」
「あんた、エリィナさんが何しているのかを知って、どうするつもりなの?」
「どうって、別にただ知りたいだけだけど……」
「……」
「え、何かまずかった?」
視線はエリィナさんを
「この
「……
「そう。意味も分かってる?」
「絶対に足を踏み入れちゃダメなとこ、だよね」
「……分かってるならいいんだけど」
何か、やらかしたかな、私。
シーラの
「この森の中なら、別にいいのよ。ちょっとくらい
「ええっ、話しちゃったの?」
「
「私、
「あんたのパパとママも知ってるわよ」
「え、え? 何で?」
「あたしのパパが話した」
「
「ちょ、声が大きいって!」
シーラは大きな
「あのね、これで分かったと思うけどさ、あんた、すんごく愛されてんのよ」
「……知ってる」
「うちのパパだって、あんたが
「私、そんなところ見せたことあったっけ……?」
「自覚がないとか……まったく」
――そこから、口答えの余地のない私の行動をひとつひとつ、
落ち込む私にシーラが言う。
「いいじゃない別に。好奇心が強いのは悪いことじゃないよ。うちのパパだけじゃなくて、ヨナ
「えー、ロヨラスさんが?」
「そうよ。まあでも、そんなことはいいの。パパはあたしのことも信頼してくれてるし、ちゃんと
「見た目はちょっと怖そうだけど、すっごく優しいもんね、あんたのお父さん」
「ンンッ、ま、まあね」
まったくこのお父さん大好きっ子は……わざとらしい
「でもね、そんなパパがすっごい顔して怒ったことがあったのよ。あたしが『
「……」
「真剣な顔で『二度とそんなことを言っちゃいかん』って言われた」
「そうなんだ……でも、どうしてなんだろうね」
「理由は教えてくれなかった。とにかく
「そっか。でも」
私は言った。
「私、禁足地に行くつもりなんて、全然ないよ?」
「そうだよね。でもエリィナさんはどうか分からない」
「ええっ?」
「まだ
「それは
「でしょ?」
エリィナさんに、まだ足を止めそうな気配は感じられない。
「とにかく、もう少し様子を見て、場合によってはあたしの
「うん、分かった」
◇
俺――
ここからは、まずは周囲への警戒を続けつつ、せっせと草刈りをして道づくりに
スマホを見ると、午前十時半ちょい過ぎ。
たかだか百メートル
「では道づくりに入りますが、今日のペアリングはどっちでしたっけ?」
「前回は瓜生さんと私でしたから、今日は
と答えるのは、
「そうだっけ」
「瓜生隊長、ペアよろしくお願いします」
「はい、上野原さんよろしく。じゃ、僕たちは北側をやろうか」
「はい!」
「じゃ私たちは南側ですね、八乙女さん」
「うす」
というわけで、俺と山吹先生は本日のペアとして、道づくりをしつつ南側のマッピングを行うことになった。
◇
「あれ」
「どうしたの? シーラ」
「エリィナさん、止まったみたい」
――見ると、シーラの言う通り、エリィナさんの足が止まっている。
一本の
「何、してるんだろ」
「……」
◇
「それにしても」
せっせと草を刈りながら、
「こないだの狩りの時、
「え? ああ、うん。そうだったね」
――こないだの狩りと言うのは、初めて
瓜生先生のクロスボウが
八乙女さんとどめを!って言われて、俺は恐る恐る横たわってもがいているその動物の胸のところに、槍を突き刺した。
……あまり大きくない動物だったので上手く心臓に入らず、何度も打ち込んでしまった。
そのために、無駄に苦しめてしまった罪悪感と、生き物の身体に刃物を差し込んだあの感触が、今でも頭と手にこびりついて離れない。
生きるために必要なことだと言うのは、頭では分かっているし、
それなのに、いつまで
「あ……あの、ごめんなさい……」
俺の表情をどう読んだのか、山吹先生が突然
「ごめんって、何が?」
「何か、無神経なこと言っちゃったかなあって……」
申し訳なさそうにする彼女の言葉が正直、どういう意味なのかよく分からなかった。
でも、掘り下げて聞く気にもならず、俺は
「ん、いやまあ、仕方ないよ。それより、塩を何とかしないとね」
「塩、ですか?」
「そう、あの時取った肉を保存するのに、塩
「ああ、そうでしたね。でも塩なんて、海以外からどうすれば手に入れられるのかな」
「
「えんこって、ウユニ塩湖の塩湖ですか?」
「そう。あとは小麦粉とか入手できればなあ」
「備蓄も大分減ってきているらしいですしね」
「そう――――」
ん?
「山吹先生、ちょっと待って!」
「え?」
何かが……聞こえた気がする。
――――――――――――――――
2023-01-26 一部表記ミスを修正しました。
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