第三章 第07話 ある母親の決意
職員室と共に私たちがこの地にやってきてから、
元の世界の
残暑の季節は
しかしあくまで私――
作業をしていることもあってか、周りも上半身はTシャツ一枚の人ばかりだ。
この地に四季は
正直なところ、冬が来なければそれに越したことはないと思っている。
何しろ転移時には初夏だったお
情報委員会でもこのことは
思い返してみると一、二ヶ月前の頃は、雨は降っても一時間くらいで、その後はからりと晴れることが多かった。
これはいわゆるスコール的な降り方で、もしかしたら雨季と乾季を繰り返す土地なのかも知れない、と誰かが言っていた。
ただそうすると、森の木々の
「如月さん、ちょっと休憩しようか」
「あ、はい」
校長先生の声に私は
「あいたたた」
腰がめりめり音を立てている気がする。
「如月せんせー、気張りすぎっすよ。もうずーっと
悪意がないのが分かるから。
それに……集中すると周りのことが見えなくなってしまうのも、私の悪い
スマホで時刻を確認する。
午前十一時ちょっと過ぎ。
かれこれ一時間近くしゃがんでいたのか。
「そうね、それじゃちょっと休もうかな」
「如月先生、はい」
そう言いながら私のペットボトルを差し出してくれるのは、六年生の
教頭先生の車に積んであるバッグの横から、わざわざ持ってきてくれたらしい。
「ありがとう。気が利くのね」
にっかりと笑う彼から、私は飲料水を受け取った。
彼を見て思う。
(私も、大分慣れてきたものね……)
――私には娘がいる。
なかなか出来なくて、やっとの思いで
今年度から幼稚園の
私にとって、
もちろん、
――そして今、私はこうして
ポケットのスマホには、彼女を撮って撮って撮りまくった画像が何千枚も収められている。
この何があっても失ってはならない宝物は、自宅のPCはおろか、クラウドにも保存されているし、ブルーレイディスクにも定期的にバックアップを取っている。
おまけにディスクをダビングして、実家にも送り付けて保管してもらっているほどの念の入れようだ。
我ながら
今の私にとって、それはかけがえのない
写真を見た途端、感情がコントロール出来なくなり、人目を
見たいけど見られない、見られないけど見たい――自分でもよく分からない情動を持て余す私をこそ、周囲の人たちは持て余してしまっていただろう。
でも、
恐らく当時の私は、どんな言葉を掛けられても救われることはなかっただろう。
考えてみれば、私だけじゃない。
私だけが大切な人たちと離れてしまったわけでは、ないのだ。
それなのに、夜の
「
「そうですね」
私の横で、教頭先生がそう言って目を細めた。
その視線の先には、青々とした森が広がっている。
私たちが、東の森と呼ぶようになった場所だ。
「道を作るなんて、
向こうでは、
「道路って言っても、草を抜いて土をかけて、上から踏み固めただけですけど、
この道はいずれ、あの森に
そして、いつかは
――そのためには。
「どんなことだってやってやる。絶対に生き延びて、元の世界に戻ってやる」
「え?」
「ん-ん、何でもない。それよりもうひと頑張りしたらお昼にしませんか?」
「お、いいっすね」
私は鎌を手に取り、立ち上がった。
我が道を、この手で切り開くために。
――――――――――――――
2023-01-25 表記について一部修正しました。
話題に「上が」っていると聞いている。。 → 話題に「上(のぼ)」っていると聞いている。
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