第三章 第02話 学友

「あーあ、退屈サーイだなあ……」


 ザナーシュ湖ロコ・ザナーシュを渡るピュロスが気持ちいい。


 気持ちいいけど……私のエスとはちょっとだけずれがある。


「あたしがいるのに退屈とか、やめてよね」

ごめんポリーニごめん。そういう意味じゃないの」

「まあ知ってるけどね」


 モナシルヴェスに囲まれたバジャで出来る遊びフーラって、どんなのがあると思う?


 ……そりゃいろいろあるわよ。


 石蹴りコピードとか、縄跳びペントラノとか、鬼ごっこターグとかね。


 でも、どれも二人ウスヴィルじゃあんまり面白くないし、他の友達アプリアはあいにく今日はいない。


 みんな家の仕事を手伝ってるから。


 私はご飯どきミルノメンじゃなければ、多少は融通ゆうづうが利く。


 シーラはたまたまひまなだけで、いつもの休みディニヤーズなら森で走り回ってる……はず。


 ん? それにしては割と一緒にいる気がするけど。


 まあそんなわけで、シーラと二人だと結局はこうしてロコながめながらのおしゃべりパルパルに落ち着くのだ。


王都レフォルタなんて贅沢ぜいたくは言わないから、せめてオーゼリアに行ってみたいなあ……」

「うん、あたしも」


 うちは宿屋ファガードだけあって、いろんな人がやってくる。


 地元ザハドの人も多いけど、時々泊まりに来る商人エムルカの人たちなんかは、あちこちトールしてるだけあって、面白いテルルをたくさん聞かせてくれるのだ。


「オーゼリアどころか、ピケにすら行ったことないしね」

「あたしだってそうだよ」


 このロコ・ザナーシュから流れ出ているおっきなアバをずっとウータスくだっていくと、ピケと言うバジャがある、らしい。


 領主様ゼーレが住んでいるところなんだって。


 そこからもっともーっとくだると、最終的にオーゼに出て、そこにあるすごくおっきいグラードがオーゼリアなんだそうな。


 海、とか言ってるけど、話には数えきれないほど聞いていても、私はまだ見たことがない。


 ――はっきり言っておくと、私はこの町ザハドが別に嫌いってわけじゃない。


 むしろ大好きだ。


 ひかえめに言っても綺麗きれいなところだし、お父さんとお母さんオビウスの作ってくれるご飯ミル美味しいメーレし。


 友達だってシーラをふくめて何人もいて、そりゃ意地悪なのもちょっといるけど、大体みんないい子たちだし。


 ――私は……きっと幸せフェリアなんだと思う。


 何より、お父さんもお母さんも私が外の世界に興味津々しんしんなのを全然とがめない。


 それどころか、一緒になって「行ってみたいねー」「見てみてえなー」と言ってくれる。

 やっちゃダメってことは厳しく言われるけど、大抵のことは私が思うようにさせてくれるんだ。


 決して、無理に宿屋うちがせようとしない。

 そもそも継がせようって気があるのかどうかも分からない。


 ――だからこそ、わがままを言えないんだよね――


 カーン……カーン……カーン……カーン……カーン……カーン…………


 かねが六つ、鳴った。


「あっ、もしかして六時鐘ろくじしょう(十六時)?」

「そうみたいね」


「おーーーーい!」

「やっぱりここだったね」


 振り向くと、ヴァンディランとシルドルーチェが手を振りながら近づいてくる。


 二人とも学舎スコラート友達アプリア


 ちなみにヴァンディラン――ディルはお肉屋さんアルニフェートの次男で、私たちより一つ年上。

 でも身体テロスは大人なみに大きいバルマ

 口数があまり多いほうじゃないけど、優しい男の子だと思う。


 シルドルーチェ――ルーチェは代官セラウィス屋敷ユーレジアで働く役人オフィセラさんの長女ね。

 ルーチェもディルと同い年だから、十二歳ウシス・イェービー


 私より明るい金髪で、背中ディエートルくらいまで流している。

 先の方が少しくるくるしてて、動くとぴょんぴょんするのが可愛いナーディア


 茶色マッリィアルノーで少し細めのマータだから、遠くから見ると目をじているように見えることもある。

 シーラと違った意味で、この子も妙に大人ダーロスっぽいのだ。


「どうしたの? ディル、ルーチェ」

「どうしたって」


 ディルがひざかかえている私の後ろに立つ。


「お前のお袋さんマァマに頼まれたんだよ。呼んできてくれってさ」

「シーラも。ロヨラスお兄さんが帰って来いって言ってたわよぉ」

「そっか。ありがとマロースね、ルーチェ」


 シーラがお尻パカリスをパンパンとはたきながら立ち上がった。

 私もそれにならう。


「ディルもありがと」

「おう」


 太陽オーヌはまだかたむきかけだけど、西ルウェスセレスタがちょっとだけ黄色ジーリィくなってきている。


「それじゃ帰りますか、シーラ」

「そうね」


 そうして、四人で連れ立って歩き始めると、少し離れたところを走る馬車カーロが見えた。

 御者コチェロの女の人と、車内にきっともう一人がいるんだろう。

 

「あれって、リィナのとこのお客さんクリエ?」

「多分ね」


 両眼をミーロみたいにしながら聞いてくるルーチェに私は答える。


「じゃあうちのパパも帰ってきてるかな」

「あんな馬車、この辺じゃあ見ないもんな」

お貴族様ドーラかなあ」

「うーん、そういう感じはしなかったけど」


 まあ私としては何者かなんてどうでもいいけど、いつか面白いテルルを聞かせてくれるといいなあとは思う。

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