第二章 第24話 情報委員会の裏で その2
午後八時半すぎ。
夕飯をとり、後片付けまで済ませたところで、夫を
職員室の応接コーナーで雑談に
校長室で情報委員会が始まり、少しずつ
久我母娘のスペースは二人分だけあって、他より多少広くなっている。
「さ、ちょっと早いけどパジャマに着替えましょう」
パジャマと言ってももちろん私物ではない。
備蓄物資には、支援物資が届くまでの数日間分の衣類として、肌着や靴下、
それほど多い数ではなかったが、幸いなことに二十三人に行き渡る程度はあったので、洗濯事情が改善するまで間、それらでしのぐことになっていたのだ。
時計が午後九時を回る頃には、瑠奈のまぶたがとろりとしてくる。
「ねえ、
母親の声に、娘は目を開く。
「今日、何かあったらしいけど、大丈夫だったの?」
瑠奈がこくりと
「そう。大丈夫ならいいんだけど」
英美里は
ここでは瑠奈がほとんど話せないので、今ひとつ状況が
しかしそれ以降特に
「今日は、瑠奈もお仕事頑張ったもんね」
わずかに首を縦に振る瑠奈。
「もう寝ましょうか。おやすみ、瑠奈」
娘は返事の代わりに、小さな体をぎゅうと丸めた。
英美里は、静かに目を
家族三人、確かに一緒にいることは出来ている。
しかし、今後のことを考えると不安しかないのもまた事実だ。
彼女自身は専業主婦なので、仕事のことで頭を悩ませる必要はない。
それでも、家を預かる者として完璧に家事を回していると
それでも、
例え不本意であっても、まずは現実を直視してやるべきことを定めなければならない。
(私にとって、一番大事なのは)
目を開ける。
それはもちろん、可愛らしい寝顔をこちらに向けている、
(守らなきゃ。何があっても)
そうして静かに、もう一度
◇
約三時間に及ぶ情報委員会が終わって、
現時点で保健室にある備品や薬品を
保健室内の
そろそろ寝ようかと思っていたところに、扉がガララと開いて
「お疲れ様、黒瀬さん」
「あら、お疲れ様です、山吹さん」
「会議、
そう言うと葉澄は手近にあったスツールに腰かけて、
「うん。でも有意義だったよ。毎日この調子だとちょっと困っちゃうけど」
ふふ、と真白が
葉澄の方がひとつ年上だが、本校には真白の方が一年先に
偶然同じソシャゲをプレイしていたことも、お互いの好感度を高めることに
「それにしても、今日は大変だったね、山吹さん」
「ホントだよ、もうクタクタ。分かってはいたけど、男の人って重いんだね」
「私、
「えぇ……重いわけだよ。我ながらよく運んでこれたな、私」
「そりゃまあ……ねえ?」
「な、何よ……」
「別に~」
にやりと笑うと、真白は話題を変えた。
「上野原さんも頑張ったみたいね」
「うん、そう。あの子すごいんだよ? とうとう一度も弱音を吐かなかった。重いとか、暑いとか、疲れたとか」
「へえ、すごいね」
「実際、重かったし暑かったし、めちゃめちゃ疲れたけど、そんな訳で泣き言なんてとても言えなかった」
「ふうん。もしかしてあれかな? ――――愛の力とか」
「なっ」
突然ガタンとスツールから立ち上がる葉澄。
その顔には困惑の色がありありと見えた。
「や、やっぱりそういうあれなのかな、彼女」
「さあどうかな。教育実習生と指導教諭なんて、シチュエーションとしてはありきたりだしね」
「……」
「仮に上野原さんがそういう感じだとしても、さすがに八乙女先生の方で自制するんじゃない? そこまで
「そ、そうよね。そうだよね」
「まあそれはそれとして」
残念ながら仕事中にそれを見る機会はほとんどなかったが。
「山吹さんと上野原さんがすごく頑張ったのはいいとして、問題はあれよね」
「あれって?」
「そもそも、八乙女先生はどうして気絶したりしたのかってこと」
「うん、確かに」
「何か変な石みたいなのを見てたら突然に、だっけ?」
「そうね。八乙女先生は私たちに背中を向けていたから、表情とかは分からないんだけど、そんな感じだった」
当時の状況を思い出しているのか、指を
「石から変なものが出てたとか」
「変なものって、だったら私や上野原さんが何ともないのはおかしいんじゃない?」
「そうだね。八乙女先生も目を覚ましてからはピンピンしてるから、毒とかでもなさそうだし」
「変なものって言えばさ」
葉澄が思い出したように手を叩く。
「私たち、びっくりしたんだよ」
「何が?」
「だって、学校に近づいた時に
「あー、あれね……」
額に手を当てながら、大きなため息をつく真白。
「正直、私にもよく分からないのよね。大体当の本人たちからして分かってないようだから」
「え、そうなんだ」
「あの時にも言ったけど、私と御門さんは二人をそれぞれ追いかけていっただけ。まさか山吹さんたちがいるとは思わなかった」
「そうかあ……。でもまあ何ともないならそれでいいかな……私としては。分からないって言えば、今のところ分からないことだらけだしね」
「そう言えば、
「え? ああ、うん……」
壬生
「やっぱりああいう時
「ちょっと、分かってるくせに
そう畳み掛けるように言うなり、葉澄はさっさと保健室を出て行ってしまった。
あとに残された真白は
◇◇◇
こうして、彼らのサバイバル初日は幕を下ろした。
希望も不安も
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