第二章 第18話 第一回情報委員会 その10

  ◇調査班編3◇


「大分森が近付いてきましたね、八乙女やおとめ先生」


 出発して四十分ほど経って、俺たちは目的の森のちょい手前に辿たどり着いた。

 ここまで約三キロメートル。


「そうだね。でもこれ、ちょっと足を踏み入れるの、勇気がるな……」


 眼前がんぜんに広がる鬱蒼うっそうとした茂みを前に、俺は振り向いて上野原うえのはらさんに答えた。


 俺たち瓜生うりゅう隊三名――俺と山吹やまぶき隊員と上野原うえのはら隊員――は、学校の東側遠くに見えていた森を目指して進んでいた。


 道らしい道はなく、草っぱらをひたすら歩いてきたわけだが、道中目立った収穫は今のところなしだ。


 見知った草花に似たようなものはうじゃうじゃ生えている。

 タンポポみたいなロゼット状の草とか、イヌタデみたいな花序かじょの花とかね。


「何かもっといろんな動物とかいるかなあって思ったんですけど、あんまりいないみたいですねー。ちょっと楽しみだったのに」

「でもほら、途中で可愛いのがいたじゃない」


 そうそう。

 リスのようなプレーリードッグのようなやつがいた。


「そう言や知ってる? プレーリードッグってキスとかハグとかするんだぜ?」

「えぇ? ホントですか? 可愛い!」

「あーそれ、私も動物系の番組で見たことあるかも」


 ま、あいつら仲間内なかまうちで殺し合いもするらしいけど。


「さて、まあそれはそれとして、ちょっと休憩しよう。森の中は歩きにくそうだから、その前に体力を回復させておきたい」


「いいですね」

「分かりました」


 というわけで、俺たちは適当な場所を選んで腰をろすことにした。


 ちょうどちた木が横倒しになっていたので、自然と俺をはさんで横並びになる。


あちい……」


 気持ちのいい南風が吹いてはいるけど、さすがに一時間近くも歩き続ければ汗もかくし疲労もする。


「それじゃあ体力回復剤をあげましょう」


 そう言って山吹先生が、俺のほっぺたに何かを押し付けてきた。


「上野原さんにも、ほら」

「わあ、ありがとうございます!」


 それはフルーツキャンディだった。

 この色は、グレープ味か?


「こいつはありがたい。いただきます」


 そう言って、俺は紫色のあめちゃんを口にほうり込んだ。


「ん~、やっぱり疲れた時には甘いものですよね~」

「上野原隊員は何味?」

「イチゴです。てか隊員とかやめてくださいよ」


 上野原さんがジロリとにらむ。


「いや、君がそう呼ぼうって言ったんじゃんか」

「隊長とか副隊長って呼び方にちょっとあこがれてただけです。隊員は別にどうでもいいんです」


 わけ分からん。


 山吹先生が、眼を細めてこっちを見てる。


「何だか、上野原さんも大分慣れたよね。初めの頃はすごく緊張してたでしょ?」

「へへへ、お陰様で」


 ペロリと舌を出す。


 おぉ……上野原さんがこんなお茶目な仕草をするのかと、俺はちょっと驚いた。


 確かに慣れてはきていたけれど、こっちに来て?から加速度的に本性があらわになって来てるんじゃないか?


 俺は軽く頭を振って、周りを見渡した。


「もうこのあたりはエコトーンなんだろうなあ……」

「エコトーン?」


 山吹先生と上野原さんが首をかしげてハモった。

 

「まあここの場合、簡単に言えば森と草原の境界エリアってとこかな。生物学的に興味深いところなんだけど……あんまりいないみたいだね。生き物」


「鳥の声らしいのは結構聞こえますから、きっと見えないだけなんでしょうね」


 山吹先生がひざかかえながら空を見上げて言う。


「ともかく、探索の本番はこれからってとこだね。上野原さん、マップはどう?」

「バッチリですよ。任せてください!」


 瓜生隊のマッパーは上野原さんなのだ。

 大丈夫そうだな。


「それじゃ、あと五分ほど休んだらいよいよ森に入ろう」

「はい」

「はーい」

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