第二章 第17話 第一回情報委員会 その9

   ◇調査班編2◇


 学校から、北に向けてひたすら前進。


 目に染みるほどに青い空と純白の雲、足元は見渡す限り一面の翠緑すいりょくで、遠くには高い峰々が連なっているのが見える。


 少し汗ばんできた背中を、時折穏やかになでる南風が心地よい。

 妻や娘にも見せてやりたいなあ……って、学校にいても見られるか。


久我くがさん、今どのくらい歩いたかな?」


 かがみ先生が視線を前に向けたまま、僕――久我純一じゅんいち――に確認してくる。


 調査班は二手ふたてに分かれて、うちのグループは学校の北、八乙女やおとめ先生のところは東の方を調べることになった。


 そう言えば八乙女先生たちが面白半分で、鏡先生を隊長とか呼んでるけれど、ここの教師じゃない僕にはいささかハードルが高い。


 そういうノリは、嫌いじゃないんだけどね。


「えっとですね……」


 出発して約一時間ほど、自分のスマホには三千メートルちょっとと表示されている。


「約三キロってところです」


 僕たち鏡班――いや、鏡隊だっけ――の歩みは、ちょいちょい寄り道したり立ち止まったりしてるので、結構ゆっくり目だ。


 ――このスマホには、いわゆるウォーキングアプリというやつがインストールされている。


 アプリ自体はGPSのらないタイプだからここでも使えると思うんだけど、さっき間違えて別の地図アプリを立ち上げちゃった時さ――何故かGPSを検知したように見えたんだよなあ。


 まあどのみち現在地は海のど真ん中だから、あんまり意味なかったんだけど。


「景色、あんまり変わりませんね。山が若干じゃっかん、近くなったように思えますけど」


 と、自分の左でスマホで写真を撮っているのは椎奈しいな……先生だったかな。

 後ろからは秋月あきづき先生が静かについてきている。


 彼女――秋月先生には娘のことでいろいろ世話になっている。


 聞けば今年新しく先生になって赴任ふにんしてきたらしいけど、娘の様子を毎日連絡帳に書いてくれたり、折に触れて様子を電話で伝えてくれたりしている。


 受け持つ子どもはうちの子だけじゃないと言うのに、本当にありがたい。

 頭が下がるね。


 ちなみに彼女は今回、いわゆるマッピングの担当だ。


 取り立てて目立つものはまだないけれど、ノートと筆記用具を持ちながら進んだ方角と距離と、地形なんかを書き込むことになってる。


 ――椎奈先生が言うように、さっきから変わりえのしない景色が続いている。


 動物は、今のところ見当たらない。

 空を飛ぶ鳥の姿もない。

 ましてや、人の姿など全く確認できない。


 ただ、鳴き声らしきものは何種類か聞こえるので、眼につかないだけなんだろうな。


 時々ぽつぽつと木がえていたりするところがあるので、目印わりの赤いハチマキを枝にわえがてら、食べられそうな植物が生えていないか確かめてみる。


 でも、よく考えたら自分はこういうアウトドア系が苦手なほうだった。


 何か小さくて黄色い花がちらちら目に入るけど何だろう、全然分からん。

 見て分かるのってチューリップとヒマワリくらいだもんなあ。


「川が見つかるといいんだがねえ……」

「でも……もし見つかったとしても、この距離だとなかなか大変そうですよね。水汲みずくみ」


 誰ともなしにつぶやく鏡先生に、椎奈先生が答えた。


「とりあえず、あと一時間くらい進んでみよう。そこで休憩がてら周囲を軽く探索して、そしたらちょうど戻る頃合いだろ」


「了解でーす」

「はい」

「分かりましたー」

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