第二章 第16話 第一回情報委員会 その8

 三度みたび戻って、情報委員会。


「ということで、ゴミ用の穴第一号は完成しました。運用方法はこれから決めることになりますが、基本的にはトイレの汚物とか食材の生ごみとかが対象ですかね」


「屋外簡易トイレについて、現段階では穴だけ掘り終わりました。明日からトイレをかこう壁に着手ちゃくしゅします。使い方に関しては、完成した段階で周知しゅうちしたいと考えています」


 まずはゴミ関連について校長先生から、トイレ関係については教頭先生から報告された。


 となり黒瀬くろせ先生が、俺に小声でささやいてくる。


八乙女やおとめさん、何か……割とどうでもいい情報とか、ありませんでした?」

「どうでも? ……ああ、加藤かとう先生のぷはあ・・・くだりね。いいじゃない、俺あとで試してみようっと」

「はあ……」


 おいおい、溜息ためいきかないでくれよな。

 幸せが逃げるらしいぞ。


 そう言えば前にネットで見たんだけど、溜息を吐くと本当に幸せが逃げるのかどうか、割と真面目まじめに論争してて笑ったことがある。

 日本は平和だねえと。


「もう一つ、施設管理維持班として計画していることがあります。水路すいろ掘削くっさくです」

「そりゃまた大掛かりな……でも確かに必要ですな。しかし管理維持班の八人だけじゃ、負担が大きすぎるんじゃないですかね」


 かがみ隊長の言葉に校長先生はうなずく。


「鏡さんのおっしゃる通り、実施するとなれば可能な限り人数を振り分ける必要があるでしょう。そもそも調査班の成果次第なところがありますが、現状、電気や熱などのエネルギーは幸い何とかまかなえても、水だけは減る一方です。飲料用以外にも、調理ちょうり洗身せんしん洗髪せんぱつ洗浄せんじょう、いずれ農作物を育てるのなら農業用水として、備蓄に余裕があるうちにどうしても何とかしなければならないのです」


 正論である。

 つまるところ、俺たちの班にかかっていると言っても過言ではない。

 よし、じゃ調査班の報告といきますか。


 あと、俺が女性二人に両側から抱えられて帰ってきた件についても。


  ◇調査班編1◇


「ぐぅぅぅっ」


 あまりの気持ち悪さに、ひざが勝手に崩れた。


「きゃあっ!」

「え、ちょっ、ど、どうしたんですか!」


 しゃがみこんだ俺の背中に、誰かがあわてた様子で声を掛けてくるが、どっちだ?……気持ち悪くてよく分からん……。


「ちょっと! 八乙女やおとめさん! 八乙女さん! どうしたんですか!? 大丈――」


 彼女の言葉は最後まで聞き取れず、俺の意識はぷっつりと途切れた。


    ◇


 時は数時間前までさかのぼる。


 俺たち調査七名は、作戦前のブリーフィングでこれからの活動を再確認しているところだ。


 ん? 一人足りない?


 そう。


 副長である瓜生うりゅう先生は、今日だけは施設管理維持班に出向しゅっこうしているのだ。


 どうもあちらでは簡易トイレを設置するみたいで、その辺りの知識がある瓜生先生が必要らしい。


 ――で、さっきから調査とか副長とか言ってるんだけど、俺たちは調査「班」であるのにも関わらず、メンバー同士では調査「隊」って呼ぶことになったのだ。


 だから班長じゃなくて隊長ってこと。

 かがみ先生とか、苦笑いしてたけど。


 ま、内輪うちわだけのちょっとした遊び心ってとこかな。


 ――ちなみに発案者は誰だと思う?


 まあそれはともかく、調査隊は鏡隊長の鏡隊と、瓜生副隊長の瓜生隊に分かれて行動できるようになっているんだけど、そんなわけで今日は俺こと八乙女やおとめ涼介りょうすけが副隊長代理として瓜生隊を預かるという、そういうことだ。


「じゃ、確認するよ。私んとこが北方面、八乙女さんたちが東方面ってことでいいかい?」

「OKです」


 隊長の問いかけに、俺は背筋を伸ばして答える。


 余談なんだけど、俺はあの「先生」呼びを止めようってのが苦手で、他の先生たちをどうにもさらりと「さん」付けで呼べないでいる。


 山吹先生とか早速切り替えてて、俺以外に対してもごく自然に「さん」呼びしてるのにね。


 俺の方が「山吹さん」とどうにも言いづらいのだ。

 何と言うか、照れくさいのかな……。

 呼び方を変えると、どうも関係性まで変わりそうな気がするのは俺だけなのか?


 それなのに、鏡先生に対しては何のひっかかりもなく「鏡隊長」って言えてるのって、一体なんだろう……自分でもよく分からないが。


 まあ半分おふざけって自分でも分かってるからなのかも知れない。


 ――まあいい。


 無理に変えろってわけでもないのだ。


「調査の目的は、地形、生息している動植物の把握はあく水場みずばの発見。あとは……何だったか?」

「知的生命体の捜索そうさくです」


 隊長のド忘れを、椎奈しいな先生がフォローする。


「そうそう、それだ。何か『知的生命体』なんて言うといかにもそれっぽいが、要するに現地の人がもしいたらということ。しかし、仮に発見しても無闇むやみ接触せっしょくしないと言うのは、さっき話した通りだ」


 そう。


 今いるこの世界がどこなのか分からないが、元から住んでいる人たちがいる可能性は決して低くない。

 むしろ、そういう人たちを積極的に探して協力をあおがなくちゃならない状況かも知れないとも言える。


 ただし、相手が必ずしも友好的とは限らないというところが問題なのだ。


 もしそういう存在と出会ってどう振舞ふるまうべきか、まだ俺たちの間で意見が統一されていない現状では、何の備えもなしに接触コンタクトするわけにはいかない。


 当然のことだが、言葉も通じないだろうしね。


「それじゃ、全員時計を合わせて。今ちょうど十三時。調査を終了して、今いるこの場所に、きっかり十七時に集合。時間厳守じかんげんしゅだ。成果はあってもなくてもいいから、とにかく無事で帰ってくること。いいかね?」


「はい!」

「分かりました」

「了解です」


 何か鏡隊長、手慣れてるなあ。


 ま、宿泊訓練のオリエンテーリングとかやり慣れてるだろうしね。

 似たようなもんなのかも知れない。

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