第二章 第15話 第一回情報委員会 その7

   ◇施設管理維持班編3◇


「皆さん、お疲れさまでした。取り敢えずトイレの穴は二つとも完成したので、明日は周りのガワを作ります」

「ありがとうございました、瓜生うりゅう先生」


 教頭さんがそう言って小さく頭を下げる。


 思っていた以上に重労働だった。

 穴を掘るのが、まさかこんなに大変だとは。


 私――壬生みぶ魁人かいとだが――は、汗みずくになってしまった。


 しかし、トイレは大事だ。

 いくら周りがだだっ広い草原だからと言って、無計画にその辺で済ませるなんて考えただけでもおぞましい。


 携帯トイレを使ったとしても、使用後のそれ・・をどこかに捨てなきゃならないのだ。


「疲れたー」

「頑張ってたねー、神代かみしろくん」

如月きさらぎ先生も壬生先生も、神代くんもお疲れ様」

「教頭先生もお疲れさまでした」


 ポケットのスマホによると、今は午後四時四十分。

 そろそろかたむきつつある。


 しかしこの穴、このままでいいのだろうか。

 もし雨が降って水でもたまったりしたら、面倒なことになりそうなのだが。


「瓜生さん、この穴、放置でいいんですか?」

「うーん、まあ雨が降りそうって感じでもないけど、一応ブルーシートか何かかけときますか」

「分かりました。じゃあ私、器具室から取ってきてかけておきますよ」

「ありがとうございます、壬生先生」


 というわけで、私は校舎南側の児童用玄関に向かった。


「ん?」


 前方から女児が走ってくる。


 確か、三年生の久我くが瑠奈るなだったか。

 彼女は私のことなど全く目に入らない様子で、そのまま走り去っていってしまった。


「どうかしたんだろうか」

 首をひねりつつも、私は特に彼女を追うこともなく玄関に到着。


 室内用のくつき替えていると、今度は例の女子高生のうちの一人がやってきた。


 御門みかど、じゃなくて早見はやみと言ってた気がする。

 彼女は靴を替えるやいなや、外に飛び出していってしまった。


「何なんだ? 一体」

 そして、器具室の扉を開けようとしたところで、保健室から黒瀬くろせさんがけてきた。


「黒瀬さん、どうかしたの?」

「あ、壬生先生」


 何だか知らないが、困惑こんわくしきった表情だ。


「あの、早見さんを見かけませんでしたか?」

「さっき、玄関から外に出て行ったようだけど」

「! 外へ……そうですか」

「何かあったの?」

「いえ、私にもよく分からなくて……」


 そう言うと彼女も外へ出ていった。


 よく分からないが、何かが起きているのかも知れない。


 私はすぐさまブルーシートを持ち出し、校舎西端こうしゃせいたんの正面玄関から室内履しつないばきのまま外に出た。

 こちらからの方がトイレの穴までは近いはずだ。


 そして急いで穴の上にブルーシートをかぶせると、黒瀬さんたちが向かったとおぼしき方向へと全速力ぜんそくりょくで走った。


「確か東の方だと思ったが……」


 そして、草原の向こうに見えてきたものは――


 ――山吹やまぶきさんと上野原うえのはらさんに両側から支えられている八乙女やおとめ涼介りょうすけと、彼らに駆け寄っていく四人の女性の姿だった。

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