第二章 第14話 第一回情報委員会 その6
◇施設管理維持班編2◇
「せんせー、暑いねー」
「暑いねー。代わろうか?」
「まだ大丈夫ー」
穴の中で、
見るからに汗だくだ。
私こと
「加藤さん、次は私だからまだ休んでていいんですよ」
校長先生が声を掛けてくれるが、年齢的に校長先生は私のダブルスコアなのだ。
甘えてばっかりもいられない。
「だいじょぶです。私まだ若いんで」
「おっと、年寄りをいたわってくれるのかな?」
「い、いえ、そういうわけじゃ」
「加藤せんせー、のんびりいきましょうよー。まだ時間はたっぷりあるんすから」
何かこの人は、やけに気安いのよね……。
昨日、職員室にいた時には、すごい恐縮してて「すんませんすんません」みたいな感じだったくせに。
「分かりました。じゃあもうちょっとだけ休ませてもらいます」
そう言って、私はカバンの中からペットボトルを取り出して座る。
「ふう」
キャップを開けて一口飲む。
はっきり言って
実際、私も結構汗をかいているのだ。
ここは校舎から北東の
「境界」から五メートルくらい離れたところだ。
向こうではトイレ班が瓜生先生の指示の
屋外簡易トイレは校舎北側の、ここと同じく境界外五メートル地点に作るらしい。
ちょっと遠いような気もするけど……校舎北の境界内は駐車場とかがあってアスファルト
さすがに掘るのは無理。
「よーし、天方君、私が代わろう」
「はあはあ、はーい」
息を切らせている彼からスコップを受け取ると、校長先生が穴に入っていった。
穴と言っても、正直まだ「へこみ」だけどね。
ちなみにこのスコップは「
とんがってるから、かな?
私の実家で用水路の
スコップの形の違いなんて、今まで気にしたこともなかった。
「それにしてもなあ……」
何で私、こんなところでこんなことしてんだろ。
あの変な地震が起きたのって、昨日のことなのよね。
正直、全く現実感がない。
まるで学校行事で宿泊訓練をしてるような気分だし、明日になったら「さあ帰りのバスに乗りますよー」とかなるんじゃないかって気がしてる。
「だって、そうじゃない!」
「うん?」
やば。
思わず声に出ちゃった。
諏訪さんが
「どうしたんす? 加藤せんせー」
「いえあの……その、何でこんなことになってんのかなあって」
ああ、と諏訪さんは
「ホントっすよね。時々これリアルか? って僕も思います」
そう言って彼は、手に持っていたペットボトルの水をぐびりと
「ぷはあ。でもね、せんせーたちってすごいなって」
「すごいって、何がですか?」
「いやあ、だって」
諏訪さんが私の横に腰を下ろした。
「昨日の今日ですよ? あんなことがあったの。なのに皆さんこんなに計画的に動いて、すごい前向きで、誰も
「そうなのよね……」
「僕が一番怖かったのは、昨日すよ。駐車場にトラックを止めた
「へえ、あの時外はそんな風になってたんですね。職員室はカーテンが閉まってたから」
「いやいや、あんなもん見ない方がいいですって。頭おかしくなりますから。ふぁあ」
くわ~っと伸びをしてる。
「でもね、今は何でか分からないけど、全然怖いって感じがしないんすよね」
「……」
「まあまだ現実味が薄いだけなのかも知れないすけど、せんせーたちについていけば何とかなるような気がして。ちょっと
「……どうだろ」
そう言って私は立ち上がった。
そろそろお尻が痛い。
「そのくらいの方がいいのかも知れませんね」
「わははは、そうすね」
「そう言えば諏訪さん、さっき水飲んでぷはあってしましたよね?」
「へ? ああ、したかも」
「あのぷはあってやつ、
諏訪さんの顔が微妙な表情になる。
「え……何すかそれ。ちょっと何言ってんのか分かんないす」
「いいから言う通りやってみてください。飲む前に思いっきり息を
「はあ……こうすか? ふ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ」
「そうそう」
割と素直ね。
「そしたらその水、飲んでみて」
ぐびぐび。
「……」
「……」
「……ホントだ。ぷはぁって……ならない」
「でしょう!? 面白いでしょ!」
「……う~ん、面白い、か?」
「おーい、諏訪さーん。代わってくれー」
校長先生ってば、髪の毛がすごいことになってる。
天方君、やけに静かだと思ったら、いつの間にか寝てるし。
「おっと。お呼びがかかったんで、行ってきますね」
「お願いします」
右腕をグルグル回しながら穴っぽこに向かう諏訪さんの背中を見ながら、私は
「頑張るしか、ないのね」
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