第二章 第13話 第一回情報委員会 その5

 再び戻って、情報委員会。


「そんなわけで、体制としては準備出来てます。うちの班は」


 黒瀬くろせ先生の報告は、どうやらこれで終わったらしい。

 何だかやけに思わせぶりな引き方・・・だったように思うけど……まあ取り敢えずはのちほどってことで。


「そうみたいですね。早速今日、保健室は活躍して頂いたみたいですし……」

 校長先生がちらりと俺を見る。


 活躍されてしまった・・・・・・・俺――八乙女やおとめ涼介りょうすけ――としては、もう頭をくしかないけど。


 まあそれももうちょいあとでってことで。


「あとは、怪我には注意していただきたいということと、体調管理の基本として手洗いうがいの励行れいこうをお願いしたいところですが……現状では無理そうですね」

「そうですね。まあ水については後で調査班から何か報告があるかも知れません」


「ちょっと気になるんですが」

 瓜生うりゅう先生が手をげた。


 あれ?

 瓜生先生には、俺が後でまとめて報告するって話、通ってなかったのかな?


「さっき御門みかどさんが報告してくれた瑠奈るなさんと、今出てきた早見はやみさん、大丈夫なんですか?」


 校長先生は俺を再びちらりと一瞥いちべつして、

「確かにちょっと変な感じに思えますが、少し説明しておきますか? 花園はなぞのさん、黒瀬くろせさん」


 二人は顔を見合わせている。

 何となく困った感じに見えるけれど。


「私、あのあと保健室で二人に話を聞いたんですけど、何と言うか、二人とも全然要領ぜんぜんようりょうを得ないと言うか。瑠奈ちゃんはあの通りお話できませんし、早見さんの方も何のこと? みたいな感じで」


「私もねえ、奥さんに聞いてみたんだけど、あの子はたとえ母親と二人きりでも、場所が学校だとかなり話しづらいらしいんですよ」


「早見さんもとぼけてるわけじゃなくて、本当に分からないみたいなんです」


 今考えると俺が目覚めた時、二人とも保健室にいたんだよな……。


 まあ早見さんは保健衛生班だから分かるとして、瑠奈さんは何でいたんだろう。

 正直俺には何の心当たりもないので、恐らくただの偶然だと思う。


「今、二人の様子はどうなんですか?」

 これは教頭先生。


 花園先生と黒瀬先生は、また顔を見合わせて、


「少なくとも見た感じでは、特に異常があるようには見えません。夕ご飯も御門みかどさんを加えて楽しそうに食べていましたから」


「二人とも、食事の準備を手伝ってくれてたしね」


「それならまあ、その二人は様子見ようすみでいいんじゃないですかね? 私はむしろ、八乙女やおとめさんの方が心配だが」


 心配かけてすみません、かがみ隊長。


「その辺のことは、のちほど調査班から報告がてら説明していただきましょう。先に施設管理維持班から報告させていただいてよろしいでしょうか」


    ◇◇◇


  ◇施設管理維持班編1◇


「さて皆さん。既にこの班の仕事は説明してありますが、最初ということもありますし、再確認しておきましょう。ついでに今日の仕事も」


 ここは校長室。

 時刻は午後一時。

 うちの班の一応の拠点きょてんがこの部屋になったらしい。

 私は、壬生みぶ魁人かいと


「まず、この班の仕事はまさに文字通り、施設を使えるように維持管理することです。施設とは、この建物そのものと考えてもらっていいでしょう」


 班長は今話している校長さんで、副班長は教頭さん。

 特に面白みのない人事じんじだ。

 本来、うちの班は八名なのだが、今日は調査班から特別ゲストが来ている。


「そして新たな施設を計画して作るのも、我々の仕事です。今日はそのために瓜生うりゅう先生に来てもらっています」


 そう、ひげもじゃの瓜生さんだ。


 今朝、男部屋で髭剃ひげそりの話になったんだが、どうやらえてああいう形で生やしてるんだそうだ。

 そのあと手入れしているところをたまたま見たら、あきれたことに普通の事務バサミで切っていた。


 見た目通りの大雑把おおざっぱさだ。

 嫌いではないが。


「今後の細々こまごまとした計画や予定はおいおい伝えるとして、今日の午後は喫緊きっきんの課題として、穴を掘ります」


 昨日の話の段階で、ゴミを処分する穴と屋外簡易トイレの設置が最速で必要ということになっていた。

 予定通りだ。


「ですので、今日はゴミ穴を掘る組とトイレの穴を掘る組の二組ふたくみに分かれて作業をお願いします。場所についてはこの図の通りで」


「校長先生、どっちの組がどっちの穴を掘りますか?」

 たずねたのは教頭さんだ。


 ちなみにAグループが校長さんをおさとして加藤かとうさん、諏訪すわさんと天方あまかたくん。

 Bグループが教頭さん、如月きさらぎさん、私こと壬生みぶ、それに神代かみしろくんとなっている。


 グループの名前も特に面白みのない付け方だ。

 嫌いではないが。


「うーん、私としてはどっちがどっちでも構わないのですが、どうです? 取り敢えず言ったもん勝ちで。ああ、掘る穴ですが、ゴミ用は大きいのを一つ、トイレ用は小さいのを二つです。あと、瓜生先生は自動的にトイレの方へ」


 ま、この校長さんならこう言い出すと思っていた。


 こういう時に「それではどっちがどっちで」と指示を出すタイプと、「皆で選んでください」と任せてくるタイプがいるが、この人は後者こうしゃだ。


 今回の場合はどちらを選んでも大して違いはなさそうだから、私としてもどうでもいい。

 好きに選んでください。


「それでは私からいいですか?」

 副班長の教頭さんが挙手きょしゅした。

 ……そうなるだろうと思った。


 この人はさっきの例えで言えば、前者のタイプだ。

 てきぱきと指示を出して、物事がスムーズに進むことを好んでいる。


「この図面にかれたサイズから考えますと、若干ゴミ用の穴にかかる労力の方が大きいように思えます。男女差別するわけではありませんが、より男手が多いAグループにゴミの方をお願いしては如何いかがでしょうか」


一理いちりありますね。僕はそれでいいです」

「私も構いません」


 当のAグループの諏訪さんと加藤さんが賛意さんいを表明。

 二人の少年は何も言わないが、このメンバーの中ではさすがに意見を言いにくいのだろう。

 とりあえずこくこくとうなずいている。

 無理もないが。


 それじゃ、ダメ押ししておこう。

「私も賛成です。それでいきましょう」


 ということで、二手ふたてに分かれて作業をすることになった。


 とは言え、使える道具がスコップ二本とツルハシが一本、あとは移植いしょくごてが数本らしいから、一人ずつ交代で掘るしかない。


 さて、私も頑張るとしよう。

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