第二章 第11話 第一回情報委員会 その3

 戻って、情報委員会。


花園はなぞのさん、御門みかどさん、詳細しょうさいな報告ありがとうございました」

「何だかすごく臨場感りんじょうかんあふれてましたね」

 

 なるほどねー、そういう事だったのか。


 話の最後の方で、瑠奈さんが一体どうしてしまったのかってことについては、敢えて語られていない。

 後で俺の方から、時系列を整理して話すことになっているからだ。


「物資の在庫状況は、一日に一度、事務のパソコンに入力して更新こうしんしていきたいと思ってます。パソコンの横に使用した物品名と数量を書く紙を置いておきますから、何か使ったら必ず記録するようにしてください。あと」


 花園先生がみんなを見回して言った。


「在庫状況の情報はオープンにすべきだと思いますが、出来ればパソコンを触るのは私たちの班だけでお願いしたいのです」


「それはどういう理由で?」

 校長先生がたずねる。


「どなたかが情報を改竄かいざんするとか思っているわけじゃありませんが、何かの拍子でデータが壊れてしまうと困るんじゃないかと。知りたい時は声を掛けてくださればお教えしますし」


「別にいいんじゃないですかね。管理してもらえるのはありがたいことだし」

 かがみ先生は賛成。


「私もいいと思うんですけど、他の班でもパソコンを使いたい時があるかも知れないので、担当をフォルダで分けるようにして欲しいです」


 なるほど、黒瀬くろせ先生の言うこともごもっとも。


「どうでしょう皆さん。パソコンの扱いですが、そんな感じで。まあユーザーまで分けることもないでしょう。では、異論もなさそうなのでそういうことで。では次の報告をお願いします」

「あ、あの!」


 御門さんが声を上げて立ち上がった。


「報告は出来たので、あたしここで抜けてもいいですか?」

「もちろんです。報告、ありがとうございました」


 校長先生の言葉に安心した表情を浮かべると、御門さんは「それじゃ失礼します」と言って、校長室のドアを出て行った。


 彼女の背中を見送った後、黒瀬先生が手を挙げた。


「では次に、保健衛生班、いきます」


    ◇◇◇


  ◇保健衛生班編1◇


「まずはこの班がどんな仕事を主にすることになるのか、説明するね」

「はい」


 私の目の前に、昨日知り合ったばかりの女の子――早見はやみ澪羽みはねさん――がキャスター付きラウンドスツールにちょんと座っている。


 彼女の手はぎゅっとひざのところで握られ、まなこは真っ直ぐに私の顔に向けられている。


「まあ保健室だからね。何となくイメージは浮かぶと思うけど」

「はい」


 真剣な眼差まなざしだ。

 いい加減な気持ちでこの班を希望したわけじゃないのだろう。


 でも。


(何で私のとこに来たんだろう……)


 保健衛生担当の班が出来るって聞いた時、てっきり私は、如月きさらぎ先生か加藤かとう先生辺りがメンバーになるだろうと思っていた。


 山吹やまぶき先生や秋月あきづき先生が調査班に行くのは、大体予想がついてたけど。


 ところがふたを開けてみれば、手を挙げてアピールしてきたのはこの目の前にいる物静かな少女だった。

 相棒?の御門みかどさんもびっくりしていた。


「私たちの役割は、大きく分けて二つになるわね。一つは傷病者しょうびょうしゃ救護きゅうごすること。傷病者って分かる?」

「はい、あ、いいえ……どんな漢字で書くんですか?」


 そう言って、思い出したようにポケットからメモ帳とシャーペンを取り出す。

 うん、真面目な子だと思う。


「『しょう』は『きず』で、『びょう』は『病気』の『病』だよ。意味は字そのまんま」

「……きず……びょう……はい」

「いろいろ設営したり直したりで、ちょっとりむいたとか切ったとか、結構ありそうなのよね。あと、調査班の人たちにはもっと危険なことが起こる可能性があるし」

「もっと危険なこと……何かの病気とか、でしょうか」


 打てば響く、とまではいかなくても、ちゃんと会話は出来てる

 第一印象で、何となく引っ込み思案じあんな子なのかななんて思っちゃったの、失礼な先入観だよね。


 それとも、昨日いろいろ話を聞いたりしてたから、なつかれたのかな。


「そうね。やっぱり怖いのは感染症かな。何が原因になるか分からないから擦過傷さっかしょうも甘く見てはダメ。いろんな可能性が多すぎるのよね」

「いろんな可能性?」

「ぱっと思いつくものでも、虫刺されとか毒性のある植物にかぶれるとか、考えたくないけど厄介やっかい風土病ふうどびょうなんかあったら、もうお手上げ。ここは病院じゃないから」

「……」


 無言で肩を震わせる早見はやみさん。


 もしかしたら彼女が持っているのは、保健委員会の児童がりむいたところをガーゼでちょんちょんって、消毒するくらいのイメージなのかも知れない。


 私もその程度で済んでいればいいとは思うけど、正直何が起こるか分からないし、私の力が及ぶ範囲外の事態だって、可能性としては充分有り得る。


 ――当たり前だが私は養護教諭であって、看護師や医師ではない。


 解剖かいぼう学に微生物学、公衆衛生学とかたくさんの座学は受けたし、必要な実習もおこなった。

 個人的なスキルアップや知的好奇心の為にいろんな書籍文献を紐解ひもといてもきた。


 でも、そもそも医師以外に医行為いこういは基本的に許されていないし、十分な設備もここにはない。


「だから、まず病気やけがをしないような環境づくりが必要なの。それが私たちの役割の二つ目ね」

「予防、でしょうか」


 メモの手を止めて早見さんがつぶやく。


「そう。ただ、この場所が一体どこなのか全く分かっていないし、電気も水道も使えない中でどれだけのことが出来るか、それを何とか見極めて可能な限り実践しましょうってこと」

「……はい」

「それじゃ、教えることはたーくさんあるから、どんどんいこう。次は道具と使い方、あと置き場所ね」

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