シークレット?道化師の力! 1

 試験が完全に終わり、学生らしい授業を受け小テストをこなしたりする日常が始まり1週間。主人公イザーナが戦う際にとんでもないことを言ってしまったので、視線は相変わらず痛かったり悪口が飛び交っている…が、まあそれなりに楽しみつつ過ごしている。


(しかしよくまああんなことを…)


 思い出すのは模擬戦直前の彼女の発言。

 ぶつかったことを当然のように謝らず、ましてこちらが入場した時も何も言わなかった彼女は決心をした様に口を開いた。


「ラクリマさん、貴方に一つ言いたいことがあります。貴方が使う闇属性の魔法、今すぐ使うのをやめるべきです!!」


 と。聞いたこともないセリフに思わず固まった。何言ってるんだこの主人公。ゲーム通りではない出来事には既に色々あったが、これは流石に発言が突発すぎる。

 当時の私はとても困った。会場もざわめきだし教師たちも突然すぎて驚いていた。


「私は飛行魔法を使う試験で、貴方の魔法をこの身で経験しました。単刀直入に言います。あんな魔法は…恐ろしすぎる」


 正直助けなくてよかったんじゃないか、そう思った。あの時放った鳥さんがかわいそうだ。というより、乙女ゲームの主人公とは誰にでも優しい子じゃないのか?こんな発言するっけ?メインストーリーでアイルにだってそんなこと言ってなかったのに。

 思わずため息が出てしまう。


「噂やデマの影響じゃないですか?」

「そう言った内容は私貴族じゃないんで知らないです。でもじっ」


 だいいちに。私は話を遮る様に言葉を被せる。

「ではそれはあくまで貴方の経験でしょう。何の根拠もない」


 こんなことが直前にあったため、ストーリーから逸れてイザーナはひねり倒し、決勝戦のルキアとの戦いで負ける流れになった。

 回想終了。

 現在はご年配のおじいちゃん先生による魔導具基礎の時間。今日の授業は教師の出張の関係で、イザーナのクラスと全ての授業が合同で行われている。


(おかげでシアンもトウリャンも取られ…一週間だけでこんな寂しくなっちゃうのか)


 さすが群れで生きる人間に漏れぬ私。なんてちょっとカッコつけた言い回しで寂しがりを表現しながらノートに板書を写していく。


 「____よって氷属性の魔導具は扱うのが難しい、もしくは適性があっても使わない人が多いです。前に使った水の表面だけを凍らせる魔導具を使ったときは…」


 このおじいちゃん先生は自身の考えや経験談も交えて話すため、聞いていて飽きることはないしメモの手も止まらない。

 ていうか飽きてはならない…後日ノート提出あるとか言われたし。

 前世でも中高生の時に提出あったから懐かしさを感じる。先生が話したことをメモしてないと速攻で疑われたり。ちゃんと受けたか?って。


「次は特別編。教科書には載ってないので、ちゃんと聞いてくださいね」


 さっそくその時が来たようだ。

 ノート提出を設けているだけあって、この先生は特別編と称した部分は板書を少なくし、いかにその生徒が自主的にメモを取っているのか試してくる。

 この一週間ですでに二回行われているだけあってどの生徒も気を引き締め彼の話を聞く姿勢に入った。

 生徒の様子を確認したおじいちゃん先生は魔法陣から銃を取り出し教卓の上に乗せる。銀色を基調として、金の細かい装飾が入っているスキンは普段から使っている身としてぜひとも欲しくなってしまう。


「さて、これはなんでしょう?」


 答えは簡単、私が試験で使った魔導銃と同じ魔具の一つ。おそらく最初の授業で魔導具と魔具に関して簡単に触れた為おさらいもかねて実物も見せるといったとこだろう。


「じゃあ…イザーナさん。どうかな?」


 おじいちゃん先生が指名すると、目の前にプチイベント発生!の画面が現れた。この表示は教師から出される選択肢に答えてもらえる経験値やお金、ドロップ率増加などのボーナスシステムが来たときに見えるものだったはず。

 現実になったとはいえ、まさかこういった発生表示が見えるとは。


(ぜひほかのこともいろいろ表示されるようになってほしいものだが…)


『表示種類が増加されました』


(いや設定できるんかい)


 画面に突っ込んでいればイザーナは魔具と正解して経験値を得ていた。さらに親交度ボーナスまで入っているようだ。15ターンの間に魔力、体力、学力の三つから育成内容を選びカード一枚ずつの上限値まで育成するこのゲームでは、ボーナスシステムは数ターンの間発揮される。

 そもそも一緒に授業を受けることが今日初めてである故に表示もボーナスシステムも今日知ったわけだが、果たして現実ではボーナスはどれくらい発揮されるのだろう。帰りまでずっと発揮されるとかではかなり厄介そうだ。シオンとトウリャンと話すタイミングが無くなってしまうかもしれない。


「それじゃあ、この魔具がどんな役割をするか当てれる方はいますか?近くと話して予想した内容でもいいですよ」


 先生の発言により、それぞれの場所で予想大会が始まった。前世でも今世でもこういった時に混ざれないため肩肘ついて様子を見ている。

 そんな中、トウリャンが手を挙げた。


「先生、所持者の魔法の威力を抑える役割…ですか?」

「よく知ってるね。大正解です」


 おじいちゃん先生が拍手する。トウリャンは銃を使っているところを見てたし、もしかしたら担任の発言を覚えていたのかもしれない。


「魔具は自身の魔力から精製したアイテムのこと。効果を持たせるには、魔具技師による機能ごとの刻印が必要です。この銃みたく抑制だけじゃなくて、強化や拡散…自分ではできない操作のカバーもできる優れものです。ただ使用は製作者のみに限定されています。

 そのため、魔具よりも魔導具の方が様々な場面で見ることが多く、こうして授業の名前も魔導具基礎になっているんですね」


 そう言って先生は魔具の説明に入っていく。


「へぇ〜そういった機能が…。トウリャンくんは見たことあるの?」

「ん、まあ。使ってる人が友達にいるんですよ」


『親交度が20から22に上昇しました』

 盗み聞きしていたら現れた画面にはそう書かれていた。それにしてもプラス2はとてもしょっぱい。親交度初期値15の最大値200に対してこの増加量、そして現在の数値は明らかに初心者プレイヤーがすること。攻略掲示板と相互さんの助言によって一週間で親交度100を迎えた私からするとぬるく感じてしまう。


(…てあれ?)


 こちらへの視線を感じて画面から移動すればトウリャンと目が合った。

 私が見た途端に目隠しを少しずらして笑顔を1つ。


(かわいい)


 さりげない仕草なのだがやはり攻略対象、様になってる。これが愛嬌満点たる所以なのか。『きゅん』という感覚を体験しながら授業を受け終えた。


「次にあるフィジ先生の授業で実演してくれるので、魔具の力はその時に確認してください」


 授業終わりの鐘の音と共に魔導具基礎の授業が終わり、本日ラストの魔法実技のため闘技場へと移動した。

 今日はこのままBクラスとの合同のまま、授業で紹介した魔具の力をフィジによって実演してもらった後、前回言われていた岩属性の基礎魔法練習…と思っていたのだが。


「先生、これは一体?」

「やっぱり普段使ってる人に頼んだ方が、勉強になると思って」


 四方に張られた結界、その中にいる私。上空には大量の的。

 そう、なぜか実演を私が行うことになった。


「はい注目。実際に魔法の力を抑制する魔具を扱っているラクリマさんに、今から実演を行っていただきます。観る気なさそうだから言っておくけど、ラクリマさんは今回の操作性テストで最も点数が高いからね」

「そんな、的を全て撃ち抜いた方は他にもいらっしゃいましたよ?」


 点が高いという発言に不満そうな顔をしたご令嬢がフィジに尋ねる。

 生徒の発言にフィジは苦笑いを浮かべ、ああそれはねと説明をする。


「どこかの青い学年主任がラクリマさんを入れた3人の時に難易度上げてたんだよ。だから例えほかの生徒が全弾命中していたとしても、点数は上から4番目です」

「よっしゃ」

「…よかった」


 トウリャンとシアンがハイタッチして喜んでいる。あんな改変試験で周りと同じ点数基準では不公平にも程があったし、それは本当に安心だ。


「じゃあ、実演してもらおうか」


 安心してるのも束の間。主に貴族達がヒソヒソと何か言っているが、実演が始まろうとしている。準備を整え、銃を出して構えスコープを覗き込んだ。


「では…開始!」


 声と同時に的へと正確に当てていく。動かず変な強度も無く。通常の的はこんなにも撃ちやすいものなのかと感動を覚えそうだ。

 まして主人公はこんな簡単なもので完成を受けていたのか、とも。


「よし。アイルさん、一旦ストップ」

「まだ的は結構残ってますが…」


 3分の1を打ち終えたところでフィジから声がかかった。


「大丈夫、今度は魔具を使わないであの的を壊してみて」

「わかりました」


 魔導弾を3弾のみ生み出して、残った的に向けて放つ。

 闇属性の魔法、ましてそれを先祖代々つかってきたラクリマ家の人間が放つ魔導弾は他属性に比べて威力がとんでもない。なぜなら…


「終わりました」


 物体にあたると魔導弾からは衝撃波が出て周りまで破壊できてしまうからだ。

 パラパラと魔法陣が消えていく音意外に何も聞こえない。残っていた的をあっという間に破壊してしまったせいか、教師であるフィジさえ驚いているようだった。


「おぉ、予想以上に威力がすごかった…こほん。お見事です。こういう風に魔具は___」


 説明が再開され、ひっそりと元いた端へと戻る。

 イザーナにガン見されていたのは気のせい…だと思っておこう。


「さて。それでは前回予告しておいた岩属性の魔法を練習してもらいます。それぞれペアを作ってくださいね」


 魔具の説明が終わりやっと今日の内容に入れる、そう思ったのもつかの間。悪役にとって大変困る言葉が飛んできた。


(いや待ってくれペア作れるわけないだろう…あれか、先生と一緒にやるやつか?)


 前世でさんざん経験したから余ることには慣れている。しかし、わかっていてもペアが完成するまで一人で待つ時間はつらいのだ。

 早く決まってくれないか、そう思いながら立っているとシアンがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。のだがシアンを追い越してこちらに来た人物がいた。


「ラクリマさん!僕はノエル・ピエシェリカと申します!シアンとは腐れ縁なんですけど、別の相手と組むらしくて僕余っちゃったんですよ~」


 よければ一緒にペアを組んでいただけませんか?ノエルはニコニコ笑顔で誘ってきた。

 どうしようかと反応に困っていれば、シアンが辿り着きそのまま手を引かれた。


「アイルさん。こいつは放っておいて、俺と一緒に練習しましょう」

「ええ~?先に誘ったのは僕ですよ、シアンさーん?」


 反対の手をノエルが引っ張って動けなくさせる。なんだこの構図。

 主人公がされるべき状況だろうに、なんで私が取り合いされるのか。


「あの、おふたりでペアを組まれては…」

「嫌です」


 折衷案としていいのではと思った提案は嫌ですと言うシアンの一言により即消える。

 最終的には前世でいうジャンケンで勝った方が組めるということに話が落ち着き、ノエルが戦いを征した。


「ラクリマさん、よろしくお願いします!」

「…こちらこそ。お願いします」


 負けてしまったシアンは主人公たちの元に戻りでグルーシャとペアに。私はどこか演技に見える上機嫌そうなノエルと共に魔法の練習をする形になってしまった。


「ペアはみんな作れたね。それじゃあ今回は岩元素の魔法を使って、魔鉱石を造ります」


 岩属性の初歩的な魔法、鉱石生成。

 この魔法は七星属性の力と魔力を融合し、魔鉱石という石を作る魔法だ。この魔鉱石は魔力を込めれば込めるほど価値が高く、美しい宝石と同等の値段で売ることができる。ちなみに、この魔鉱石が魔導具を動かすコアである。鉱石生成で作った魔鉱石を販売する店も街にはあるらしく、そのため誰でも魔導具は使えるのだ。


(とはいえ…)


 この鉱石生成はノエルの得意属性を使うわけで。わざわざアイルと組むなんていう点からしても何か裏があるのではないかと勘繰ってしまう。

 パッと浮かぶのは幼馴染のシアンを守ろうとしている、もしくはこの授業で私に対して近づくなと触れを出すかの二つ。

 数々のストーリーで2人の絆の固さはシナリオを読んできた身だ、あれが崩れたら困るイベントがどれほどあるか。しわ寄せでこちらに被害が着たり、主人公が

 本当に距離を開けろとか言われたらちゃんと離れよう、そう思っていればノエルが話しかけてきた。


「あの、ラクリマさんってシアンのこと好きなんですか?」

「…は?」


 かなり真剣な顔して聴いてくるのがそれか。構えていた心が新喜劇のようにずっこける。


「友達になっただけです。恋愛的な目で見てるわけないでしょう」


 嫌でもストーリーが進んだら離れていくのに、なぜゲームのように恋愛に発展すると思っているのか。それは主人公だけが許されるものであって、悪役令嬢にその可能性はミリもない。完全なゼロなのである。

 かわいらしいなと思うときもあるがそれは、確実にプレイヤーとしての感覚なのである。


「そうでしたか…。失礼しました!じゃあ僕たちも練習始めましょうか!どちらから行います?」


 一瞬の真顔の後、彼はまたいつも通りニコニコ顔で話す。そんな簡単に表情が動くなんて羨ましいくらいだ。


「先、どうぞ」

「ありがとうございます!ではいきますね」


 ノエルは自分の手のひらで魔法を発動させる。また魔力抑制石を持っているのかと左手を確認したが今回は持っていないらしい。つまり今回は自分で魔力の調節を行っているのかもしれない。

 柔らかい光と共に融合が終わると彼の手には真っ赤な宝石が乗っていた。まるで宝石の塊から削ったように荒く、周りの生徒たちみたくただの石になっていないとはいえまだまだ初心者がつくるような形だった。


「いや〜自分もまだまだですね」


 たははと笑う彼。しかし私は目を丸くさせていた。


「それすごい魔鉱石では?」


 私この流れ知ってる。なんとかゼミで見た!…ではなく、いつかの推理ドラマで観たことがあった。

 ノエルが出した宝石、それは前世でも人気だったもの。


「光加減によって色が変わる…やつですよね」


 『ベキリーブルー・ガーネット』光の反射加減で色が変化する。彼が持っているのはまさにそれではないだろうか。確認のため顔の角度を少し変えれば、宝石の色が変わる。

 形のいびつさはフェイク。おそらく宝石自体の品質に魔力を回したのだろう。


「ランクとは全く合わない力をお持ちなんですね」

「…いやいや!偶然ですよ、偶然!ラクリマさんはどんな魔鉱石を作れるんですか?」

「あまりいいものは作れないですよ」


 前もってそう言ってから、手のひらに神経を集中させる。すると岩属性の色を持つ光が集まり出した。しかしそれはほんの一瞬で、すぐに闇が覆う。闇属性あるあるなのか分からないが、なぜか他属性の光は闇に覆われてしまうのだ。

 岩属性を使っているのだが、本来なら見れたはずの融合は視認できない。


「なんて恐ろしいんでしょう…」

「特待生が言ってたことは本当だったんだ…あんなのつかうなんて…」


(これはあるあるですー。闇属性は使ってないですー)


 つい耳に入ってしまうNPCの言葉に苛立ちながらも石を作り上げる。


「できたようです」


 手のひらに現れたのは丸くて黒い宝石。

『オキニス』だ。

 完成したのを見てさらに周りにいた生徒はざわつくのだが…これ、厄除けで有名な石である。


「おぉ〜すごい。綺麗に作れてるから加点だね」


 フィジはニコッと笑い名簿に何か書いている。

 周りの言葉を気にせず真面目に作った甲斐があった。加点は嬉しい。私の『アイルのように習熟度クラス全部トップ作戦』の成功に繋がるから。


「先生、ノエル様の宝石も見てください。恐らく、かなり高価なものかと」


 さりげなくノエルの作ったガーネットも見てもらうことにした。

 あっちは驚いていたが、検査し直してもらって実際のランクをシアンあたりに伝えて欲しい。

 私はシアンから教えてもらって、今後に控えるイベントの対策を計画活かすから。


「本当だ…かなり操作性や集中力がないと作れないはずだけど。学年主任に報告しとくね」

「え"…いや、僕は…」


(よし、逃げるか)


 こっちを見てきたノエルを無視して私はそそくさと端へ移動した。


「アイツ…!」

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悪役令嬢ですが、カッコよくいかせていただきます!~人気ソシャゲの悪役なのになんだかモテまくってない…?~ 秋春 アスカ @asuka610

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