土鍋にベイブレードをシュート

時間マン

土鍋にベイブレードをシュート

 12月30日、年の瀬となり本格的に寒くなってきたので体を温めるものをお腹いっぱい食べたいと思った僕は土鍋を出した。しかし、鍋に何を入れるのかはまだ考えていない。


 野菜とお肉とダシをぶち込んで煮ればだいたい美味しいけれど、年末で時間もあるのだから少しくらいはこだわった料理もしたい。


 チゲ鍋、みぞれ鍋、ちゃんぽん鍋などとあらゆる鍋を思い浮かべていた時に僕はあるものを思い出した。


 これは天啓だと思った僕は押し入れからあるものを取り出した。


 ――それはベイブレード。

 僕が子供だった頃に流行し、今もなお新作が発売されている現代版ベイゴマ、数年前に気まぐれに購入したベイブレードを僕は土鍋にシュートした。


 30代のいい歳したおっさんが土鍋にベイブレードをシュートするその光景はシュールに尽きる。しかもたいして楽しくない。

 しかし僕はその土鍋の中で回転するベイブレードにノスタルジーを感じた。


 その土鍋の中には忘れていた過去があった。

 明日が来る不安に怯える事もなく、無邪気に友達と遊び回った幼きあの頃の日々

 食べて、遊んで、寝ることが楽しくてたまらない日常。

 土鍋の中で回るベイブレードを眺めながら過ぎ去った時間に思いを馳せていると気がつけば心は温まり、胸がすっかり満たされていた。


 しばらくするとベイブレードは回転を止めて土鍋の底に転がった。

 鍋の締めという事でもう一度回そうかと思ったがやめた。満たされているのならばこれ以上は余分というものだ。

 土鍋からベイブレードを取り出し、鍋の蓋を閉めた。


 その時僕のお腹が小さく鳴った。


 前言撤回、やはり鍋には締めが必要なようだ。考えてみれば鍋の締めなんだから余分で良いじゃないか。

 閉めたばかりの土鍋の蓋を開けた。

 その鍋は空っぽだけれど見えないものがまだ鍋には残っている。


 さて、次はお腹でも満たそうか。

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