第3話 外の世界
退屈な日常からの解放、と女は言った。
実際、そうなのだろうと思う。僕は昨日から、眼鏡を通した世界を楽しんでいた。
眼鏡をかけた僕の前には、非日常があった。
一点目。まず確認だが、これはまぎれもなく、伊達眼鏡だ。
視力が0.1以下の僕がかけると、何もかもぼやけて見えるはず。
けれど、はっきりと物が見える。それも十分すぎるほどに。外を見てみるが、家の前に立つ神社の樹木の、その葉脈まで見えるようになった。
二点目。現実にはないようなものが見える。
空は赤く、建物はなぜか薄暗く、黒く見える。街を行き交う人の肩には、人形らしきもの、ぬいぐるみらしきものが乗っていて、飛行機ほどもあろう動物が、空を泳いでいる。
VRを通してみるような想像の世界が、このへんてこな眼鏡を通して見える。
眼鏡をはずしさえすれば、それらは全て消え、ただのぼやけた世界があるだけ。
梅田の噴水のある公園で、一人たたずんでいた。久しぶりに出た外は、部屋のそれよりも明るく感じる。太陽が差す光がまぶしい。
公園のベンチに座る。隣には、人と同じぐらいの大きさのクマのぬいぐるみが、背中を丸めて椅子に座り込んでいる。
そういえば、この眼鏡を通して見える、現実にはありえないようなものに触れることはできるのだろうか?
隣のぬいぐるみへ、そっと手を伸ばす。
指先が触れるかどうかという所で、ガリっとした音が聞こえた。
クマが、さっきまで下げていた首を、こちらに向けていた。
こいつ、動くのか……。
思わず目をそらしてしまう。等身大の動くクマ。なかなかにホラーだ。
ふと、目を前にやると、ぬいぐるみや人形、ビルの上のクジラまでもが、こちらを覗き込んでいた。
なんだか不気味だ。こうも視線を集中されると……。
お前は何者だ? そう問われているようだった。
「やめて!」
眼鏡を外そうと手を掛けた時、誰かが僕の腕をつかんだ。
体が硬直する。視線を動かすと、例の女が横にいた。
「今は外さないで。余計怪しまれる」
女はそういうと、何やら言語らしくない言語を話し始めた。
その言葉に納得してだろうか、さっきまで僕に集まっていた視線は分散した。
「いやあ危ないとこだったね。ワンチャン君死んでたし」
なんだ……。
……。
「え、死ぬだって?」
思わず問いただした。
「ごめんごめん」女は笑いながらごまかしてくる。
「まだ説明してなかったね」
眼鏡の彼女 国作くん @Kokusaku
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