五
私は墓地の手前にある苗畑の左側からはいって、両方に
「どうして……、どうして……」
先生は同じ言葉を二へんくり返した。その言葉は森閑とした昼のうちに異様な調子をもってくり返された。私は急になんとも
「私のあとをつけて来たのですか。どうして……」
先生の態度はむしろおちついていた。声はむしろ沈んでいた。けれどもその表情のうちには、はっきり言えないような一種の曇りがあった。
私は私がどうしてここへ来たかを先生に話した。
「だれの墓へ参りに行ったか、
「いいえ、そんなことは何もおっしゃいません」
「そうですか。──そう、それは言うはずがありませんね、はじめて会ったあなたに。言う必要がないんだから」
先生はようやく得心したらしい様子であった。しかし私にはその意味がまるでわからなかった。先生と私は通りへ出ようとして墓の間を抜けた。
先生はこれらの墓標が現わす人さまざまの様式に対して、私ほどに
墓地の区切り目に、大きな
向こうの方で
これからどこへ行くという
「すぐお宅へお帰りですか」
「ええべつに寄る所もありませんから」
二人はまた黙って南の方へ坂をおりた。
「先生のお宅の墓地はあすこにあるんですか」と私がまた口をききだした。
「いいえ」
「どなたのお墓があるんですか。──御親類のお墓ですか」
「いいえ」
先生はこれ以外に何も答えなかった。私もその話はそれぎりにして切り上げた。すると一町ほど歩いたあとで、先生が不意にそこへもどって来た。
「あすこには私の友だちの墓があるんです」
「お友だちのお墓へ毎月お参りをなさるんですか」
「そうです」
先生はその日これ以外を語らなかった。
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