四
私は月の末に東京へ帰った。先生の避暑地を引き上げたのはそれよりずっとまえであった。私は先生と別れる時に、「これからおりおりお宅へ伺ってもよござんすか」と聞いた。先生は簡単にただ「ええいらっしゃい」と言っただけであった。その時分の私は先生とよほど懇意になったつもりでいたので、先生からもう少し
私はこういうことでよく先生から失望させられた。先生はそれに気がついているようでもあり、またまったく気がつかないようでもあった。私はまた軽微な失望をくり返しながら、それがために先生から離れて行く気にはなれなかった。むしろそれとは反対で、不安にうごかされるたびに、もっと前へ進みたくなった。もっと前へ進めば、私の予期するあるものが、いつか目の前に満足に現われてくるだろうと思った。私は若かった。けれどもすべての人間に対して、若い血がこうすなおに働こうとは思わなかった。私はなぜ先生に対してだけ、こんな心持ちが起こるのかわからなかった。それが先生の
私はむろん先生をたずねるつもりで東京へ帰って来た。帰ってから授業の始まるまでにはまだ二週間の
授業が始まって、一か月ばかりすると私の心に、また一種の
はじめて先生の家をたずねた時、先生は
私はその人から丁寧に先生の
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