第7話 自分に甘い面々

「ぐうぅ……。ようやく……戻れた」


 新音のパンツスーツは破れて半袖と短パンに変貌へんぼうし、ワイルドに汚れまくっていた。


「一体どこに飛ばされてたの?」


 あきれた様子で優海が尋ねた。


「言いたく……ない」


 虹華が精魂尽せいこんつき果てた様子の新音を介抱する。


「デコピンに失敗したのか?」


 俺が訊ねると、


「店長はわたしや自分自身には強くデコピンできないんです……」


 彩雨が立ち上がり答えてくれた。


「彩雨!? 大丈夫なのか!?」


「はい……。佐登留さんも、みなさんもありがとうございました」


 礼儀正しくお辞儀する彩雨と対照的に新音はぐでーんと床にぶっ倒れている。すぐに虹華に別室に連れていかれた。着替えるのだろう。


 いや、のぞいたりしないから……。新音もたしかに綺麗だけども、見たら何されるか分からんからな。



 戻ってきた新音はボロボロになったマスクを取り、新しいパンツスーツと共にその素顔をさらしていた。 


 とにかく凛々りりしい。その表情は某歌劇団で男役が出来るんじゃないかと思わせるうるわしさだった。かといって女性らしさも失っておらず、頼れる大人の女、といった感じだ。


 踏まれたい……。あれっ? なんだろう今の心の声は……? 俺にそんな趣味あったっけ?


 いや、それは置いといて、


「それよりさっきからみんなが言ってる『店長』っていったい何なんだ? 新音は冒険者ギルドの管理者みたいな役職なのか?」


「「「「…………」」」」


 誰もが俺から目を背け、問いに答えてくれない。


「そもそもここ、本当に別の世界なのか?」


 目の前にある日本のカラオケボックスなどでよく見かけるソファを見ながら、俺はすがるようにたずねた。


「あ、ああ。それは間違いない」


 新音が首をがくがく振る。ロボットかよ……。隠し事してるの丸わかりだし。


「ごめんね、佐登留くん……。そろそろ本当のことを言うわね?」


 虹華の言葉に他の誰も異議を唱えなかった。


「すまん、やはり私から説明する」


 新音が三人の前に立ち、俺の方を見据みすえる。


「我々の祖国、エンデビアにようこそ。まず初めに君への謝罪を……」


 新音はさっきと同じく壊れたロボットのような足取りで窓のそばに行き、ブラインドを上げた。


「えっ!?」


 ビルが立ち並ぶその景色は明らかに現代のものだった。


だましてしまい本当にすまない。君の想像しているような冒険は、ここにはない。だが、目の前にいるこの子たち三人は君を必要としている」


「……」


「詳しくはおいおい話すが、まず大前提として佐登留くんはこの子たちを――」


「大丈夫だ。三人がのっぴきならない事情で結婚相手を探さなければならないことは充分分かったから。俺は俺のやるべき仕事をしっかりやるだけだ。たとえそれがどんな仕事だろうと、な」


「急にどうしたの、佐登留くん?」


「格好いいです」


「キスは人を大人にするのね……素敵」


「いい顔になったな、佐登留くん。君もそろそろマスクを取ったらどうだ?」


 四人が整いまくった美しいお顔を俺に向ける。

 そこには俺の素顔への期待がありありとうかがえた。


 忘れてた……! 転移したタイミングでさっさと外しておくべきだった……。四人揃そろっている前で素顔公開なんてよほどのイケメンじゃないと無理だよ……。


 こんな美人たちを前にイケメンとは一億光年かけ離れた俺の顔なんて見せたらどんな顔されるか……。『プッ』って笑われたらどうしよう……もう立ち直れなくなるよ……。怖い……、恥ずかしい……。


 しかも今までみんなにめちゃくちゃカッコつけたセリフ吐きまくってたし……なにが『フッ、俺は俺のやるべき仕事をしっかりやるだけだ』だよっ……。自分でハードル上げてどうすんだよ、俺!! 無理無理無理!! 無理だってぇ~っ!! 


「佐登留くん、いい加減に……」


「うええ~んっ……やだよぅ~!!」


 未知のプレッシャーの前に俺の心は決壊してしまう。


「「「「子供かっ!!」」」」


 四人の息ぴったりなツッコミが響き渡った。

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「マスクが邪魔でバディ娘を選べない」とゴネたら候補者全員と異世界転移した俺(短編) 夕奈木 静月 @s-yu-nagi

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