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グリップダイス

『GREEN HELL』朝起きたらジャングルにいたよ

『GREEN HELL』


PC/PS4/PS5/SWITCH/XBOX ONE


気が付くと私はジャングルの中に立ち尽くしていました。ええ、たった一人で。

見上げればヤシの葉の間からのぞく眩しい太陽と美しい青空、そして飛び去って行くセスナ機と耳元で何やらがなり立てる無線通信。

単身密林に置き去りにされて生きていかなくてはならない状況であると言う事だけが、ぼんやりと理解できました。そう言うゲームだとは聞いていましたし。


目の前には沼地が広がり濁った水面はハスの葉で覆われています。そこに何匹かの魚の姿が浮かんではまた潜っていきました。

「サバイバルの基本と言えば食料調達!!」

奇声を発して沼に飛び込んで魚を追い回し大きめの魚影をポイントすると視界の端にアロワナと表示されます。

言われてみれば、あのフォルムは熱帯魚ショップの水槽のガラス越しに見たことがあるような気もします。ただ今大切なのはそのお値段や希少価値より食いでの方です。見たところ30センチ以上は優にありそうなアロワナよ、わがランチとなれ!!


……素手で魚を捕まえる、いわゆる掴み取り漁法は無理だったようで、沼でのトライ&エラーにいい加減疲れた私は陸に上がりました。

さっきは見落としていたようですが沼辺の石には黄色い大きなカタツムリがへばりついていますし、近くの倒木からは真っ赤なキノコが発生しているのが分かります。

いや待って下さい。カタツムリってアレですよね、広東住血線虫!!

生でカタツムリやナメクジを食べてこいつに寄生され、悲惨な死を遂げた人がいるという話はエアサバイバリストの私でも聞いたことがあります。

で、一方のキノコ!!

小学生の頃、学校のキャンプに行った際に知らんおっさんから頂いたキノコ(イグチとクリタケ)を味噌汁にぶち込んで班のみんなで食べてしまい先生と両親から大目玉を喰らった黒歴史が頭をよぎります。

そんな私が言えた義理ではありませんが、良く知っている種類の、できる事なら自分で生えている場所まで分かるキノコ以外は決して食べない……キノコ採りの鉄則です。

この赤いキノコに視線を向けると「謎のキノコ」なんてご丁寧に表示されます。

ふふふ、これは罠だ!!俺は引っ掛からないぞ。

ジャングルで一人叫んではみたものの、じゃあ何を喰えばいいのか、落ちている石や小枝を無闇矢鱈に拾い集めながら辺りを歩き回ります。沼を抜け、坂を登り、丈の高い草を掻き分け。

バナナ、不意にバナナと表示されました。

草むらで目立つ特徴的な幅広の葉っぱを茂らせた樹、その赤い花の側にはまだ青いバナナが房で実っています。

個人的にはバナナはあまり好きじゃないのですが、もうそんな事は言ってられません。樹になっているだけザックに詰め込んで、そのうち一本はその場で剥いて食べちゃいます。緑のバナナは加熱して食べるものだとか、どこかで聞いたような気がしますがキノコやカタツムリよりは安全でしょう。祝、初めてのジャングルでの食事。

【炭水化物+25】

無機質なメッセージにちょっと違和感を覚えます。

【空腹度】とかじゃなくて【炭水化物】?

じゃあ脂質とかタンパク質とかもあるのか?PFC(プロテイン・ファット・カーボ)バランス?ジャングルの中でボディビル大会でも始める気かよ⁈

まあこの一人ツッコミが正解であったと気が付く(そして慌てる)のは相当後になってからの事です、いえボディビル大会じゃなくって。


太陽が夕陽に変わり、辺りの視界が限られてくる中、必死に次なるバナナの樹を探します。

向こうの林からの小鳥のさえずりと共に見通しの悪い草むらの足元からはシャーシャーと耳障りな音がしていますが空腹には勝てません。低血糖でシャリバテになる前にバナナをもっと拾い集めたい。


痛っ!!

画面がフラッシュし、体力がぐいっと減ります。

更にもう一回!!

【毒の傷】

やられた!!さっきからのシャーシャーは蛇の出す警告音だったようです。

うかつにもバナナに目がくらんで毒蛇の生活圏に入り込んでしまっていた訳です。

しかし私もここで終わるような男ではありません。草むらから安全と思われる平地まで猛ダッシュして更なる被害を防ぎ、体力回復を待つのです。

痛いっ、また噛まれた。いやそれでも噛まれたのが股じゃなくて脚で良かった。

こんなつまらないダジャレが言えるうちはきっと大丈夫。

まずもったいないですが先程のバナナを何本も貪り食い……あれっ?食事を摂っても体力がろくろく回復しないどころかジリジリ減り続けていますよ。

蛇に噛まれた時にはどうすれば良いのか。血清?ある訳ない。毒を吸い出すポイズンリムーバーだって持ってません。エアサバイバリストとしての本能は「虫歯や口内炎がないことを確認してから傷を口で吸え!!」と叫んでいますがそんな選択肢もないようです。

……寝よう。

ラダトームの宿屋とは参りませんが眠って起きればきっと体力全快です。メニューからZZZと分かりやすいアイコンを選んでジャングルの地べたに倒れ伏すようにして休息します。

……………

数時間後、私は傷の痛み、いや正確に言うと死の恐怖で飛び起きました。ええ睡眠で体力が回復するどころか減り続けていますし、蛇に噛まれた傷が熱を持ち無性に喉が渇いてきました。

そしてとっくに日は落ちてジャングルは薄暗がりの中です。

考えれば先程のバナナ以外なにも口にしていません。

「みず、水を下さい」と呟きながら今朝方、あのアロワナのいた沼地を目指して歩き始めますがジャングルはすでに夜、頼りになるのは月明かりだけです。

記憶と水の音を頼りにふらふら歩いては見当違いの方向に進んで引き返すを繰り返しているうちに私は崖を踏み外して谷川へと転落していきます。

皮肉にも求めていた水場にたどり着くことだけは出来ました。全身を強く打った死体となって。


……なんじゃこりゃあ。

これが『GREEN HELL』の記念すべき初プレイでした。そのあとリターンマッチとばかりに再プレイを始めたのですが、一晩のうちに10回以上のジャングルでの悲惨な死を疑似体験することができました。

墜落死、失血死、餓死、食中毒、溺死、毒物、刺殺……いやはや素晴らしい!!

どれもこれも現実世界ではご免こうむりたいものたいものですがゲームの中でなら大歓迎。まあ、この非業の死の半分くらいはチュートリアルを途中で投げ出していきなりプレイしている私の短気に責任がありそうな気もするんですが。


ここまで聞いて我慢できなくなった被虐嗜好とかサバイバリストの方は、もうここで読むのやめて良しです。お手持ちのコンシューマゲーム機やらPCやらに『GREEN HELL』をぱぱっとダウンロードしちゃいましょう。

同志よ、ようこそ緑の地獄へ!!


サバイバルか……面白そうだけどプレイするには時間もお金も掛かるし、取り敢えずプレイ動画でも見てみようか。いやプレイするのも面倒くさいし実況動画でいいや。


……やめましょう。初めっからプレイする気や環境のない後者の方は兎も角、前者の方はこのゲームで一番楽しい部分を自ら投げ捨てるようなものですよ。


『GREEN HELL』は不親切なゲームです。

初期段階ではセーブさえできません。そのためにはセーブポイントとなる住居をを自分で建設しなければならないのです。

そして離れた場所に一瞬で移動できるファストトラベルが無いのはもちろん、自分の現在地さえ画面に表示されません。

ですから私のような方向音痴はしょっちゅうセーブポイントを見失って野垂れ死にする事となります。

苦労して拾い集めた食料は時間と共に腐っていきますし、怪我をしたらいちいち患部に治療をしなければ命とりになります。


なにが食べられる食材で、なには絶対食べてはならないものなのか。

拾い集めた小枝や小石でなにが出来るのか。

そしてあの坂を越えた先に、あの川を渡った先に何があるのか。

これを「死に覚え」していく事自体が楽しいのです。一見難易度の高いムリゲーに見えますが、素晴らしいのは正解なんか無いところ。

樹から収穫したバナナを食べようが、魚を釣って食べようが、切り株にびっしりいる○○を食べようが、結果として飢え死にしなければ良いのです。

ゲームの進め方も同じでどこで何をしようが勝手です。無線以外べらべらと話しかけてくるNPCもいません。

今日はジャングルで何をして何を食べてどこで寝ようか。


一週間程度ジャングルで生きられるようになってくると『GREEN HELL』の不親切さが、計算ずくでデザインされたものだと気が付いてきます。

緑の地獄に思えたジャングルも生きていくために必要な衣食住すべてが存在する場所に変わっています。……楽園とは程遠いままですが。


ある程度リアル寄りの作風で現実世界のジャングルを舞台にしてますから、自分の知識で推測した結果がサバイバルに役立つこともあります。

この植物の使い道は……なんて試行錯誤して正解だとニヤニヤしてしまうものです。

……正直な話をすると私はニヤニヤするどころか感動してしまったのです。

皆さまに感動を話して『GREEN HELL』を勧めたいけど、話すと皆さまの感動を奪ってしまう気がします。


私自身攻略サイトとかで地図やらレシピやら最短クリア方法なんかを見ていたら『GREEN HELL』を途中で放り出して最後までプレイしなかった気がします。

そもそも攻略まとめって英語で言えばスポイラー、感動や楽しさをスポイルしちゃうものなんです。

もうこれ以上読まずに『GREEN HELL』ダウンロードしに行って下さい。




……まだ読んでますか?




それはジャングルで十数回目の死に迫られていた時のことです。私は初めての死の時と同様に熱に浮かされて息を喘がせていました。林の中で背後から豹に襲われ、何とか自作の石斧で頭を殴りつけて追い払ったものの、そのに際負った手足の傷が化膿しはじめたのです。

既に空腹で歩き続ける気力も失われた中、それでも水辺に向かって文字通り懸命に足を動かします。傷の痛み、空腹、発熱、そして渇き。

「もうダメ、また死ぬんだ」

そんな時、少し前方のヤシの木から実が落下するのが見えました。意識もうろうとしながら駆け寄り石斧で実を叩き割ります。正確に言うと青いヤシの実が斧で割れると知ったのもこの時でそれまでは使い道が分からず放置していたんですが。

ヤシの実の中身はいわゆるココナツウォーター!!これをすすり、白い果肉を貪り食います。そして疲れ果てた私は食べ終わったヤシの実を放り出すとそのまま眠りに落ちました。

化膿した傷の疼きと喉の渇きで目覚めた私が見たものは、昨日食べたヤシの実の残骸に溜まった水!!

なぜこんなところに水が?!文字通り天の助けですが寝ている間に降った雨水が溜まっていた訳です。

ジャングルに降る雨と言えばせっかく作った焚火の火を消してしまう忌々しいものだと思っていたら、こんな意味があったのか!!

溜まった水を飲み干した後、地面に落ちているヤシの実の殻を宝物のようにザックにしまい込みます。


「安全な水はヤシの実の殻で雨水を受けて得られる」


攻略サイトで読めばただの一文です。でもそれでは感動がない気がします。

私のように愚かで下手なプレイをすればするほど、自分自身のジャングル体験のように『GREEN HELL』は楽しませてくれるのです。


さて、お正月のおせちに飽きたらジャングル料理のあれやこれやに取り掛かるのも良いかもしれません(結構なゲテを食べることも出来るんですよ)


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