最終話〜泣いておしっこ漏らして命乞いの恋?

周りには何もないところに、二階建てくらいの建物、大きな体育館のようなものや離れたところにポツンと塔のようなものが建っている、軍の基地の一角にある小さな飛行場がいつになく賑わっている。


我が国の先鋭部隊が、進軍していた何十万という魔の民と強大な魔力の魔王を制圧した情報は瞬く間に世界に広がり、英雄の再来、天乃国の魔法力は世界一などとマスコミも盛んに盛り上げて、TVカメラや新聞社のスチールカメラなどが新しい英雄の帰還を撮影しようと何十台と並べて待機していた。


それを制するように、ロープが張られ、滑走路内に入れないように兵士が警備をしている。


その前には国王以下、英雄の末裔、つまりは私や父親、そして貴族の斉藤家や、今回の作戦に関わった者たちが立って特殊魔導部隊の帰りを待っているのだ。


「早く帰りたい…」

思わずそう呟いてしまったが、思えば以前の式典の時も同じこと言ったなと思い返していると、

「じゃ帰るか?」

と父親が言うのだが、私は、

「坂倉さんと一緒に帰りたいの」

と言うと、冗談だよと言いたげに彼は少し笑うのだった。


そんな私は、花束を持たされて、帰ってくる坂倉さんに渡すようにと近衛大将から命令されているので、憂鬱最高潮なのはそうなのである。

彼女はそんな花束欲しがらないと言っても、TV映えするからと周りからも圧を掛けられて仕方なく渡そうと思っているのだった。


そして、後ろの方で、

「まもなく到着です!」

という声に、遠くの空をぐっと凝視する。

「来た!」

と誰かが叫ぶが、見えない。

え?どこ?


そう思っていたら、右の方からプロペラの音がして、慌てて音の方をみると、軍用機が轟音と共に降りて来て、着陸姿勢に入り、タイヤの音を鳴らしながら徐々に速度を殺していく。

そして、そのまま惰性で滑走路を走って行くと、私たちが控えている近くまで来て止まって、ハッチが開く。


久々に、と言っても一日も空いてはいないけど、あの美しい顔が見れる!そう思って、出てくる人を待っていると、何かいかつい中年男性が出て来て、国王を確認すると敬礼して、

「只今帰還しました!」

そう言ってハッチ脇に待機するように立つ。


次には、

「やべーって、飛行機怖いって」

と聞き慣れた声がして、

「お?」

とこっちを見てニヤニヤしている、そう喜多さんが降りてきたのだ。

「よう、山本〜色々聞いたぜ〜お楽しみだったんだってなぁ」

と言うものだから、カメラもあるので必死に人差し指を口に当てて、

「しーしー!」

とやると、彼女も真似して人差し指を口に当てて、

「しーしー」

としてきたので、ちょっと面白くて笑ってしまう。


そこから次々と他の友達も降りて来て、こっちを見て手を振ってくれる。

兵士も次々に降りてくると、最後にハッチの手摺りを掴む指が見えた。

その指だけで美しさが分かるような、一目で坂倉さんと分かるような、そんな芸術的な指を見て、思わず歩き出してしまい、彼女はハッチの階段を屈みながら降りて来て、髪の毛が風で靡き、ゆっくりと顔を上げると、思い出の中の坂倉さん以上に綺麗な坂倉さんの顔をはっきりと見て取れたのだった。


私は嬉しさを脚に預けるように駆け出し、こちらに気づいた彼女もハッチを飛び降りて駆け寄ってくる。


もう花束を渡すことすら忘れて、彼女に抱きついてしまうと、豊満な柔らかな胸と微妙な膨らみの間でクシャっと潰れる花束。

そんなことはお構いなしに、

「寂しかった怖かった」

と思いをぶつけると、

「もう大丈夫、これで一生離れることはない」

そんな優しい言葉を発してくれる唇を見ると、どうやら私は我慢出来なくなるようで、腕を彼女の首に掛けて、ぐいっと顔を引き寄せて、その甘い唇に自分の唇を重ねてしまうのだった。


翌日の新聞に朝日を背にしたその写真が一面を飾るとは知らずに…


「そういえば王子は?マジで再起不能にしてやる」

キスの余韻に浸るのも束の間、坂倉さんはそんな相変わらずの物騒な言い方で、元第一王子を探すのだが、

「国王怒らせて勘当されました、もう王族じゃないので再起不能ですよ!」

そうにこやかに答えると、一言

「やるな王様」

とだけ言ってみんなの待つ入り口へと向かうのだった。


「今回の件、本当に感謝の言葉しかない、国民、いや全世界を代表して礼をいう、ありがとう」

国王が頭を下げるので、当然後ろのマスコミが騒めいている、

「あいつらは、やっぱ歴史を忘れたようで、過去の侵略戦争は和解したことを理解してなかったし、私の言うことも聞かなかったのでやむを得ず最悪の形で終わらせた」

坂倉さんは少し悲しい表情で言う。

袂を分かち合っていたとはいえ、同郷の者を死に至らせざるを得なかったのは断腸の思いであったろう。


そんな傷心を癒そうと、彼女の手をぎゅっと握って、

「一緒に帰ろう、そして昔の私のこと、いっぱい聞かせて」

そう言うと、少し不思議そうな顔をするので、

「あ、全部教えてもらったんですよ、400年前のこととか」

そんな言葉で理解したのか、坂倉さんはちょっとニヤつきながら、

「私が初めて天乃国に来て山本に会った時は、おしっこ漏らして泣き喚いて命乞いしてたかな」

いきなりそんなことを言ってきて、意味が分からなかったが、400年前の出会った時の話をしているのかと分かって、ちょっと恥ずかしかったので、

「いや、今はしなくていいから、帰ったら」

そう言って、彼女の手を引っ張って急いで車に乗り込むのだった。


彼女が言うには、400年前の英雄山本も今の私と全く同じ顔で身長も乳首の色も一緒で、性格も同じ、他人の視線を怖がり、常にひとりでいたらしいが、先祖の開発した調合レシピを王に献上すると、貧しかった家も潤うようになったので、少しづつ解放して、やがて山本家は開祖として名声も受けるようになっていた。


そこに魔の民が来襲し、何とか調合魔法で耐えていた天乃国だったが、魔王アリズの強力な魔力で万事休すとなり、最後の切り札として魅惑のレメディを携えて、半ば無理矢理魔王の前に連れ出されてしまった英雄は、まぁ私と同じ性格だから、泣いて漏らして命乞いをしたもんだから、兵士じゃない子供が間違って出て来たと勘違いして、追い返そうと思ったら魅惑のレメディを誤って踏んで、永遠の恋に落ちたというオチらしい。


「レメディで好きになったのなら、魔法解除ディスペル出来なかったんですか?」

私の部屋のベッドでふたりで腰掛け、400年前の自分の話を聞いていて、ふと疑問に思ってそう訊いてみる。

魔法解除ディスペルしてこれなんだが」

その言葉に思わず彼女の顔を見てしまう。


「お前が寿命で亡くなったあとの憔悴感が酷かったから、魅惑のレメディの魔法解除ディスペル法を開発して使ったんだが、お前と一緒に過ごした時間が尊すぎて、意味がなかった」


そんな彼女の説明に、嬉しいのか可笑しいのか少し笑ってしまうも、

「ごめんなさい、400年前の記憶が全然なくて…でも私が坂倉さんのことを想う気持ちは同じ、いや今の方が上だと思うから」

そう告げると、彼女も少し笑って、

「いいよ、これからいっぱい思い出を作ってくれれば」


そんな言葉に、あーん好き好き好きと抱きついて一緒にベッドに倒れ込んでしまい、そのまま胸に顔を埋めて深呼吸しながら恍惚の表情を浮かべる。


「400年前も同じことされたわ、まじエロガキだった」

そう言って笑う坂倉さんに、

「ごめんなさい」

と謝ってもそのままやめずにいると、いつものように頭を撫でてくれる。


きっと昔の私もこの撫でてくれる手が大好きだったのだろう、ずっとこんな時間が続けばいいと願いながら幸せを噛み締めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

乳首自慢の勇者の末裔は目立ちたくない! みやりん @miyarin_miyarin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る