47〜すね毛が麗しい隊員ズ驚愕する。

「おー見えてきたーすげーな、うじゃうじゃいやがる!」

飛行機の小窓から下を見ると、夜にも関わらず、照明弾や投光器などで照らされる中、異形の魔の民が雪崩のようにシャーナの城砦首都ポリスカリンの城壁へと押し寄せているのが確認出来る。


「なんてスピードだ…行軍し続けてアレなのか?君たちが行っても焼け石に水程度の話しじゃないだろ?」

隊員のひとりが下の惨状を見てそう言うも、坂倉さんは冷たい視線を送りつつ、

「とりあえず、前線の上空付近で私たちは飛び降りるから、そこまで飛んでくれるかな?」

そう言うと、喜多さんが、

「いやっ私たち授業中に呼ばれたからスカートなんですけど!?」

飛び降りた時に下着が丸見えになるのを危惧していうのだけど、

「そこの人にズボン借りれば?」

と坂倉さんはついさっきまで威勢の良かった隊員を指差す。


それを聞いた喜多さんはニヤニヤしながら、

「おっさんたちビビってないでさぁ〜?私たちが代わりに戦ってくるから〜ね?それ貸して」

そう言って精一杯の色気を振りまいて、相手の股間を指差すので、隊員は隊長の顔を見るのだが、貸してやれという感じで頷かれたので仕方なくズボンを脱ぎ始める。


「ありがとさんっ吉報期待しててくれよな!」

そう言うと、制服の下にズボンを穿いた女子5人と坂倉さん、そしてすね毛が麗しいおっさん隊員5人とその他の隊員という謎の機内から、ハッチを開けて女子6人は飛び降りるのだった。


「パラシュートもないのに、あいつらに反重力のレメディとか使えるのか?」

隊員のひとりがハッチを閉めながら言うのだが、彼が言うレメディを彼女たちは地上付近で投げつけると、フワッとなって、無事全員着地するのだった。


喜多さんはちょっと失敗してでんぐり返しのようになって身体をくの字にしての着地だったが、

「ズボン借りてよかったぜ〜」

そう言ってすぐ立ち上がると、城壁の向こうの敵を見て、さっそく呪符師を探しているようである。


城壁にいたシャーナの兵士は、当然空から降ってきた女子たちに驚いているようで、

「避難命令が出てるんだぞ!?お前らが逃げないと我々も撤退出来んのだぞ!?」

そう怒鳴られるのだけど、

「知るか」

と、坂倉さんは相変わらずの返事で、城壁の一番高い塔のような部分に登ると、魔王の姿を探す。


「莉里あっち」

友達のひとりが魔王を見つけたようで下の方で指を差すので、視線を移せば、そこには美しい男性が魔の民数人に神輿のようなものの上の玉座に座って担がれるようだった。

「おぅおぅ斉藤より美形じゃね?」

喜多さんが魔王を見て感想を述べるが、坂倉さんは城壁を駆け降りて一直線に魔王の元に向かう。


いきなり現れた美しい女性に、魔の民は襲いかかるのだが、坂倉さんは脅威の反射神経で、次から次へと繰り出される攻撃をかわしながらあっという間に魔王の元に辿り着く。


「貴様人間じゃないな?」

いきなり無数の魔の民の攻撃を掻いくぐって目の前に現れた女性に魔王は言う。

「今すぐ引き返せ、この戦争は不毛だ」

坂倉さんは、400年前の仇打ちが意味がないことを伝える。


それを聞いた魔王は、憐れむような目つきで、

「お前が誰だか知らんが、かつてのの魔王アリズの無念を晴らすのが一族の宿命ぞ」

そう言うのだが、

「ねーよ」

とあっさり否定するのだった。


「貴様…何者だ?」

魔王は彼女のあり得ない程の美しい顔を見て、何かを察したのであろう、若干顔が強張こわばりつつも問うと、

「私がアリズだよ、今も幸せに天乃国で暮らしてるから帰れ」

あんたが言う無念なんてありません、と否定して国に帰るよう告げる。


「そんな狂言に踊らされるとでも思うのか、見縊みくびられたものだな私も、魔王アリズは死んだ、それが真実だ」

そう言いながら、魔王は空中に呪符構文を書き始める。

「確かに魔王アリズは英雄山本に身も心も全てを囚われて、彼女に名付けてもらった新たな名前、坂倉莉里として生まれ変わったからな、だが魔王の力は増してお前など相手にならんぞ?」

坂倉さんは自身の名前の由来を話しつつ、ちらっと友達に目をやると、頭の上で腕を丸にして合図している。


それは呪符師を見つけて、制圧したという合図だった。


それを見た彼女は、相手の呪符構文を解読してレメディを準備する。


「もう一度言う、撤退すれば不問に付す」

坂倉さんは同郷の相手だからだろうか、珍しく慈悲の意思を示す。

「400年前、英雄山本に屈した我々は天乃国と和解して、以降は私が国を守ると誓った、つまりはお前らが天乃国に進軍すると言うことは私に対する敵対行為を意味する」

そんな彼女の言葉にも、魔王は相変わらずの憐れみのまなこで、

「そんな恥知らずな者など知らんな」

そう言って魔法を発動させるのだった。


その空中に書かれた構文から、凄まじい炎が吹き上がり、夜でありながら昼間のような明るさで彼女を包もうとする。


しかし坂倉さんは静かに目を瞑り、レメディを下に落とすと凄まじい悲鳴と共に、術を放った憐れみのまなこの魔王が一瞬で業火に焼かれて、喚きながら神輿から転げ落ちる。


「知らんのか反射のレメディを、確かに使える術者は私を含めても数人いるかだけど」

その業火は不死に近い魔王すらも耐えられぬ魔法の炎で、相手もアリズを葬り去ろうと放ったものだった。

しかし、坂倉さんのレメディの薬効を知らずに使ったために自らがそれで絶命に至るとは思わなかったらしい。


魔王が焼かれているのを見た魔の民は、ある者は逃げて、ある者は坂倉さんや友達に襲いかかって、返り討ちに合い、一瞬で数十万といた敵勢力は制圧されてしまったのである。


その黒焦げではあるが、微かに魔王と分かる亡骸を城壁まで持って行き、天に掲げると、それを見ていた王都カリンを守っていた兵士たちが歓喜を上げ、やがては城にいたシャーナ王もそれを確認すると、感謝の言葉を述べたと言う。


一方、軍用機を近くの平地に着陸させていた特殊魔導部隊にも、その一報は届いて、隊員は衝撃を受けていた。


「あのたちが降りてからそんなに時間は経っていなかったろ…?何で大国ふたつが全く敵わなかった敵を数十分で制圧出来るんだよ?」

すね毛の麗しい隊員がそうやって驚いていると、無線で座標を教えてもらった坂倉さんたちがシャーナの軍用車両で送り届けられて来た。


「いやマジ美形だったな〜もったいなかった」

喜多さんは坂倉さんに倒された新しい魔王の顔を惜しむように言いつつ、車から降りて来ると、特殊部隊の軍用機に乗り込み、

「おっさん、ありがとなーズボン返すわ」

そう言ってスカートの中に手を入れると、ベルトを外したら大きいズボンがストンッと落ちてそのまま脱ぐと、隊員に渡すのだった。


「いや、役に立てて光栄だよ、まさか本当に君たちが魔の民を倒すとは…」

そう言って受け取った物を穿こうとするのだが、何かに気づいて、そのズボンの股間部分を触る。


「いやっあんな高いところから落ちるんだぜ!?多少はな!?」

何か急に顔が赤くなる喜多さんに、隊員は、

「君も人間なんだな安心したよ…私はしばらくこのままだけどな!」

と若干苦笑いをしてズボンを機体のフック部分にぶら下げるのだった。

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