46〜屈強な兵士は14歳女子とデートに行く!

これは、戦場に行ってない私が、坂倉さんや友達、お城の兵士から聞いた話。


特殊魔導部隊が、援軍としてシャーナへと飛び立とうと軍用機へ乗り込もうとしていた。

その特殊魔導部隊員は、身なりは動き易い戦闘服に、ヘルメットというで立ちだが、小型の銃は携帯するものの、武器は魔法なので、所謂いわゆる銃火器類は最小限しか搭載していない。


そんな彼らの元に無線で待機の指令が入ると、

「何かあったのか?」

戦局は逼迫しているので急いでいた筈なのに、ある隊員は待機指令が解せない様子で訊いているが、

「いや、増員されるらしい」

と隊長が答える。


いくら王が厳選した精鋭部隊とはいえ、12人では心細かったのか、若干感嘆の声も上がる。



そんな期待を乗せた軍用車が、部隊の目の前に停まるとドアが開き、どんな屈強な軍人か、魔導士かと目を開いて見れば、妙に艶かしい女子の太ももが開いたドアから、ちらりと覗き隊員たちは不思議そうな顔をするのだった。


最初に降りてきたのは、ショートカットでくりっとした瞳が印象的な喜多さんだった。

それを見た隊員は、

「御陣女ろ…じゃないよな?魔法学校の制服のようだけど、これが増援…?」

と今の状況が理解出来ない感じ。


そして次も髪が肩までのボブカットで切れ目の女子、次はポニーテールをしたちょっとおとなしめな女子、更に眉毛が見えるくらいのパッツンな前髪にサイドは顎あたりから後頭部に掛けて斜めに切り上がった髪で細い目の女子が降りてきて、その次は後ろでお団子にした髪に右サイドに若干ウェーブかかった前髪を残したこれまた女子が降りて来る。


そして最後に、真打登場とばかりに、腰まで伸びた長い髪が煌びやかな坂倉さんが降りて来て、隊員たちは彼女に見惚れつつも、男性がひとりもいないことに驚きは隠せないようだった。

年齢は制服から魔法学校の生徒で一年生と言うのが見て取れるので、全員14歳前後だと分かる。

精鋭部隊がそんな若い女子を迎え入れないといけない現実に、何かの間違いではないかと無線で訊いてしまっているが、無理のない話しでもあった。


坂倉さんは、例の事件のあと、近衛大将が用意した車で友達たちと合流して、そのまま軍用基地に向かったのだが、どうも部隊へは女子6人とは伝え漏れしていたようだ。


「確かにその6人らしい…俺たちは今からテーマパークに集団デートでもしにいくのか?」

意味が分からない隊長がそう言いつつも、すぐ出発しないといけないので、とにかく、隊員たちと女子6人を軍用機に乗せてシャーナへと向かうのだった。


「飛行機はマジダメだ〜」

「なら泳いで付いてくるか?」

喜多さんと坂倉さんがそんなやりとりをしていると、無線が入る。


「レメディが効かないと言ってます!」

作戦室の無線を聞いた隊員がそう言うと、機内は騒めく。

「うはっ敵も色々研究してんだね〜」

喜多さんは関心してるようだが、

「薬効を封じたんじゃなくて、魔力がレメディに届かないようにしてんじゃね?呪符構文で魔力を妨害ノイズみたいなので無効化するマイナーなのがあった気がする」

もうひとりの友達が、そのからくりを推測してみる。


「まずは私が魔王を撤退するように説得するから、その間に呪符師を探してくれ」

坂倉さんがそう指示すると、友達は了解したりするのだが、手慣れたそんなやり取りを見ていた隊員が、

「君たちは何者なんだ?何で我々の作戦に参加するんだ?」

と相変わらず不思議そうに訊いてくる。


「魔王と魔の民を説得してダメなら倒す」

そう坂倉さんが答えると、嘲笑の声が漏れ聞こえて来る。

「やっぱり何かの手違いだろう?その制服は魔法学校のだけど、まだ1年生だろう?本当は4年生が来る予定じゃなかったのか?」

ちょっといぶかしそうに訊いて来るのだが、

「おっさんが信用出来ないのは分かるぜ〜、まぁ何十万の敵じゃ私たち以外、誰が行っても無駄じゃね?」

喜多さんはちょっとニヤニヤしながら、若干絶望的なことをさらっと言ってのけた。


「お嬢ちゃん、俺たちだけが戦うんじゃないんだぜ?シャーナは世界最大級の兵数を誇る国だ、まぁ魔の民は多少魔法を使う程度で俺たちの方が戦力としては上だから魔王さえいなけりゃ12人でも楽勝なんだけどな」

戦場慣れしているのか、相手を見縊みくびっているのかは分からないが、やがてその傲慢がへし折られる無線入る。


「た…隊長…!シャーナ全軍最終防衛ラインまで後退の模様…しかもかなり劣勢と伝えてきています」

思った以上に魔の民の勢いがシャーナのそれを凌駕していると知ると、さっきの隊員もかなり弱気になって、

「劣勢って何だ?いくらレメディが使えないと言っても、他の魔導士が魔の民を上回る程いるはずだが?」

そう訊くが、当然そこまでの情報など入ってはいない。


「ログロードでさえ数日で陥落してんだろ〜?魔の民よりこえーのは魔王の魔力だぜ?」

喜多さんがそう説明していると、更に無線で、

「シャーナ王がカリンを放棄すると、住民に避難命令を出したみたいです」

その報告を聞いた隊長は、

「我々はこのままなのか?」

と訊くも、当然まだ本国からの撤退指令はない。


静まり返る機内。

いや静まり返ってるのは特殊部隊の隊員だけなのだが、

「急いでカリン上空まで飛んでくれ、あんたらは戦わなくていいから」

と坂倉さんがポケットから何か取り出しながら言う。


「いや、隊長判断で帰還する」

無念そうにこうべを垂れながら、そう口にする隊長に喜多さんは笑いながら、

「おめ〜は私らの隊長じゃね〜し!いいからこのべっぴんさんの言う通りにしろって!」

と彼の肩を叩きながら言うのだった。


「好きにしろ」

力無くそう呟く隊長に、

「感謝する」

とだけ言うと、坂倉さんは先程ポケットから取り出した白い布みたいなものを、鼻に当てて大きく息を吸う。

「何だそれ?莉里がお守りとか珍しいな」

喜多さんが珍しそうに訊くと、

「山本から奪った大切な宝物」

とだけ言って、それをポケットに仕舞い込むのだった。


あーはい、私のダサいパンツですね…

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