45〜何かよく分かってないのは私だけらしい。

作戦室内の歓喜の中、関大将は外部にも吉報を伝えるよう指示を出し、あちこちで、速報を伝える声がする。


「英雄がいて本当によかった」

国王が私の目の前にまで歩いて来て礼をするので、私は意味が分からず、立ち上がってお辞儀をする。

「王家の伝説では、英雄は魔王アリズと愛において結ばれて、それからは、我が国を共に守ることを王に誓ったとされていたのだ」

王のその言葉が一瞬理解出来なくて、固まってしまう私。

英雄山本と魔王アリズが愛!?


「君の父親から連絡を受けた時は、正直半信半疑ではあったのだがね」

関大将も少し笑みを浮かべながら、こちらに歩いて来て言う。

父親も私を見て頷いている。


何かよく分かってないのは私だけらしい。


「坂倉莉里は魔王アリズその本人だったんだよ」


もう頭の整理が追いついていない。

父親が先ほど言おうとしていた言葉を今聞いても、そんな衝撃的な事実は、私だけではなく、周りも当然驚きの声がする。


「まっ魔王アリズ?何で?何で?」

いやマジ分からん、魔王アリズが何で私に恋をするの?

つか、坂倉さんていくつ?

などと思って戸惑っていると、

「禁レシピの内容は、魅惑のレメディだったんだ」

何か如何わしい名前のレメディを大将に告げられる。

そう言えば、エッチな魔法とか坂倉さんが言っていたような…?

そしてそれを使わせたくないとも言っていたのは、全世界の人が斉藤さん化しちゃうと思ったからなの?


そう考えれば、確かにその魅惑のレメディで世界征服できちゃうけど…


「そのレメディで英雄山本は魔王アリズを虜にして従えさせ、魔の民を撤退させた、それが真相だ」

混乱しまくてる私に、大将は次々と意外すぎる歴史を語ってくれる。

「そして愛に溺れた魔王は、自分は魔族ゆえに歳を取らないのに、最愛の英雄ひとが年老いて寿命が尽きるのを嘆き悲しみ転生のレメディを開発して、400年後に英雄と全く同じ子孫が産まれるようにした」

そう語り終えると、

今度は国王は私の目をじっと見つめて言う。


「それが君だ」


その瞬間、坂倉さんが言っていた言葉の意味をようやく理解できた気がするのだった。


何で私を初めて見て泣いたのか。


何で私を離さないと泣いたのか。


ずっと待っていたんだ…400年も私が生まれるのを。


一度、私を失ってしまってそれで離したくないと言ってくれたんだと。


「俺に正体を明かして、土下座して娘をくれと言われた時は信じられなかったのだけど、禁レシピの本に彼女の血を垂らすと反応したんだ、呪符がないから解除は出来なかったが、魔王の血なのは明らかだった、いやその時も半信半疑ではあったけど」


父親が無駄に長く説明しているが、近衛大将が続けて、

「王の勅命で最終防衛ラインに君と坂倉莉里を配置したのだが、正直私も半信半疑だったが、そのあとに禁レシピが解読されて真相を知って問題なしとした時に、例の邪魔が入ったので作戦は変更になった訳だ」

そう言って王子…いや、元王子を一瞥すると、

「本来は前線に出すのは、周辺国に魔王アリズの存在を知られてしまうので得策ではなかったが、仕方ないので、特殊魔導部隊と一緒に送り出した訳だ、まぁ彼女も早く敵を叩きたかった訳で丁度良かったかと」

そう言って満足げに元の位置に戻っていった。


「じゃ、やっぱり坂倉さんが敵を?」

私は戦場の状況を知らないので、そう訊くしかないが、確かに坂倉さん以外そんなことが出来る人はいない。


それを聞いていた無線係は、

「凄い美しい女性と、5人の同じくらいの歳の女子が一瞬で敵を倒したと報告を受けてます」


それはまさに学校で私と一緒にいた坂倉さんと友達以外あり得ない。


「よかった…よかった…」

坂倉さんの私を守るという言葉に嘘偽りがなく、それを信じ続けて成就された安堵の気持ちと、もう戦争を恐れなくていい気持ちとで、止め処なく沸いてくる涙を抑えることが出来ずに下を俯いたまま、私は立ち尽くしてしまっていた。


そんな泣いている少女の肩にそっと手を置く国王が、

「本当に感謝しきりで言葉もない、君が英雄として魔王アリズと愛の絆がなければ、こんな結果にはならなかったろう、本当にありがとう」

そんな言葉を掛けてくれるから、とりあえず返事をしないとと、

「あい、ごじらごぞ、ばりがどうぞばいまず」

とか涙と鼻水で言葉にならない感謝の気持ちを伝えるのであった。


御前なのに、みっともない言葉にも笑顔で頷いて、王は自分の席に戻ろうと振り返ると、呆然とした元王子が目に留まり、

「まだいたのか、お前はもう一般人だ、さっさと城から去るがいい」

そう言って従者に外に連れ出すよう指示を出す。


ああ…斉藤さんの入れ知恵がなければ、あそこまで暴走することもなかったのに…権力という目に見えない魔力には抗えずに人生を終わらせてしまうなんて、欲望は怖いなと。


そう思って斉藤さんをチラッと見るが、相変わらずのイケメンなのだけど、若干憔悴しているようで、これでもう私と坂倉さんの仲を引き裂こうとは思わないだろう、と思うと少し元気が出てくる。


涙は止まらないが、もう嬉し涙だからいいやと垂れ流しにしながら、私は父親に、

「斉藤さんに何言ったの?坂倉さんに脅されたって言った?」

謁見の間のイケメンの言葉を思い出し、問いただすも、

「正体言われて土下座されて娘下さいをどう表現すればいいか分からず、恐ろしかったって言っただけだけど」

そう答えてくるが、まぁ確かに全部を話す訳もいかずに濁したニュアンスだと、相手の都合のいい解釈もされるのも仕方ないかと、心の中で父親を許してあげるのだった。


「了解、無事に帰路に着くよう祈っている」

無線係が、そう言っているが、多分帰ってくるという意味だろう、そして続けて、

「今から天乃国に帰るそうです、向こうではこちら以上にお祭り騒ぎらしいです」

と伝えると、王は、

「凱旋の式典を執り行う、今すぐ準備を」

と言うと、どこかの士官が返事をして部屋を出ていった。


ちょっと待って…戦勝記念の式典開いたばっかりで…また式典ですか?当然私も英雄の末裔として出席なんですよね…?


いや、素直に坂倉さんとの再会をふたりっきりで味合わせて…

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