44〜王子の腹黒さに辟易するしかない。
「レメディが無効化されると友軍からの情報だ、確度は不明だが、最大限注意されたし!」
自軍へ無線で情報を提供している声がする。
私の心臓は嫌なほど早く鼓動を走らせている。
決して緊迫したこの場にふざけたパジャマでいるからではない。
坂倉さんの行方も、その目的も何となく分かってしまっているからだ。
「まもなく、シャーナ首都の防衛ラインに到着です」
その言葉に、国王は無言で頷く。
「いや、撤収させましょう、レメディが通用しない相手では足手纏いでしかない」
第一王子は相変わらず、主導権を握りたいのか、指揮官を置いて越権行為で作戦に口を挟む。
「王子、我々の魔導士はレメディだけではありません、ご静観を願います」
魔導士師団の偉い人っぽい者が王子に具申するので、少しおとなしくなるが、
「最前線の友軍17万が…10分も待たずに後退…!」
そう無線係が悔しそうに口にすると、再び王子が立ち上がり、
「援軍に差し向けた優秀な我が軍の先鋭部隊を戻して国土防衛に全勢力を割くべきです、今ならシャーナが持ち堪えている間に他国からの支援も出せるのですよ?」
あくまでも冷静に話してはいるが、かなり早口で苛々がこちらにまで伝わってくる。
「涅凪、お前は軍にすら従事したこともない素人だろう、王族が指揮に口を挟むと混乱するだけだ、黙っておれ」
国王がそう言うが、その言葉が気に食わなかったのか王子のあの
「
そう言い放つと、他の王族が、
「いい加減にしろ、不敬行為は重大犯罪だぞ!」
その後ろにいた従者に止められながら、王子に向かって怒鳴っている。
「よかろう、この
国王のその言葉に満足したのか、王子はいつもの
つい数日前まで、こんな政治とか権力とは無縁の場所にいたのに、14歳の女の子にこんな生々しいものを見せるとは、王子の腹黒さに辟易するしかない。
しかも敗戦の責任で国王を辞めるということは、あの第一王子が次期国王になる訳で、そんなの嫌だから、国王おじいちゃんは辞めないで永遠に生きて!と願うのだった。
「しかし、この私が国家元首の座を賭ける決意を見せたのだぞ、お前にもそれ相応の決意を見せてもらわんとな」
そう言って国王は王子の方を見やる。
「決意ですか?」
彼は若干圧に押されて、小さい声で訊き返すと、
「そうだ、我々が魔の民に勝った場合は、お前は王族の地位を失うということだ」
その言葉に、再びその表情から
「いいでしょう、国のためとあらば」
そう決意を込めて承諾するのだった。
「下がった前線と合流した友軍部隊も苦戦をしているようです、我が部隊は間もなく到着の模様」
緊迫した情報が部屋を駆け巡る。
敵は確かに数十万の兵力で襲いかかってはいるが、そこは洗練された魔導士部隊の方が圧倒的有利な筈なのに、新たな魔王ひとりの強力な魔力とレメディの無効化で、部隊をあっという間に無力感されてしまい、その恐ろしさに敵に背を向けて逃げ惑う兵士もいると言っている。
「ダメです…我が部隊が到着する前に友軍が撤退…!」
それは、支援に向かった天乃国特殊魔導部隊を撤退させなければ強力な魔の民との直接対決を意味する。
「いくら精鋭部隊でも12人しかいないんだぞ、撤収させろ!無駄死にだ!」
「レメディが通用しない相手に無謀過ぎる!」
こうなると王子以外も絶望視してか、声を荒げて言う士官も出る程、部屋の中は混乱してくる。
「もう雌雄は決しました、王よ、その冠を私に」
気の早い王子は、まだ結果も出ていないのに自分が戴冠する気分になっている。
私は祈っていた。
このままだと、魔の民はこの国に押し寄せ、400年前の魔王の仇を討つと言って、英雄の血を引く者、それは私も父親も親戚も全てを殺戮するであろう。
しかし、私は坂倉さんの、
「お前を守れるのは私しかいねーんだが」
という言葉を心に響かせて信じるしかないのだ。
「優羽、あの時の坂倉さん、俺になんて言ったか知りたいか?」
急に父親がそんなことを言い出すも、あの時の意味が分からず、少し考えて、
「土下座の時?」
と訊くと、父親は頷いて、
「信じられないことを言われて、本当に信じられなかったんだ」
信じられなかったというのはよく伝わってくるが、全く意味が分からないので、無視して再び祈りに入る私。
「さっき国王の言葉としてあの大将から聞いて、それが真実らしいと分かったから、もう教えてもいいかと」
坂倉さんの正体のことだろうか?あの土下座の時に全てを父親に話して、私との結婚を承諾させたってことなのか?
その時であった、
「はい!?」
という部屋中に響き渡る裏返った声がした。
相当びっくりした様子で、
「それは本当か!?目視で確認したのか!?どうなんだ!?」
無線係の尋常じゃない雰囲気で訊き返す姿に、一部の者は我が部隊も一瞬で殲滅させられたのではと、俯いて首を振る人もいる。
「どうした?」
関大将が無線係に訊くと、彼は振り返ると目に涙が溢れ出していて、
「敵を制圧…したと…言っています」
一瞬静まり返る作戦室内。
「もう一度確認するぞ、敵を制圧したんだな?」
そう訊き返す大将に、
「確かに、そう言ってます!」
という答えに雄叫びや歓喜の声が錯綜する。
「誤報じゃないのか!?相手は数十万の兵力だぞ!?あれだけ劣勢が伝えられてたのに、一瞬で制圧などありえん!敵が無線機を奪って偽情報を流してきた可能性も!!!!」
王子は無線係に詰め寄っていくが、その時後ろのドアが開き、
「王、シャーナ国王から謝意を伝える電話が」
そう言って電話機を持ってくる。
その電話を受け取って、暫く話した後、
「シャーナ王も魔王と大量の魔の民の亡骸を確認したそうだ、我々は勝ったのだ」
その王の言葉に、王子は崩れ落ちて、部屋の中で歓喜の声が響き渡るのだった。
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