43〜不細工はパンツの持ち主を欲する。

城の周りには兵士が取り囲み、坂倉さんへの警戒を取っていたのだが、やがてそれも解除されて彼女が城から遠くに離れたことが私でも理解できるのだった。


しかし、私には警護なのか監視なのか兵士がふたり付き添っていて、部屋に帰ってもドアの前に待機している状態で、いかにも軟禁状態だなと思うしかない。


こんな魔力も何もない少女が何ができる訳もないのに。


それとも一瞬、誰かが私を狙ってるから護衛を付けたのかとも思ったのだけど、同じ理由で狙う人なんている訳がないと思うだけだった。


私は心労もあってベッドに倒れ込むのだが、お昼までは隣には綺麗でいい匂いがする坂倉さんがいたのに、今はいない。


一緒に見た天井の綺麗なシャンデリアも、ひとりで見ると特に何もないごちゃごちゃした物体でしかないと感じてしまう。


こんな何もすることのない時間でもふたりでいればそれで心も落ち着いて全てが満たされていたのに、ひとりだと気が狂いそうなくらい彼女を心配する時間が苦痛でしかない。


「お風呂に入ろう」

そう私は一大決心をして、湯船にお湯を貯めていく。

そして着替えを用意しようと、タンスの引き出しを開けると、坂倉さんの下着が目に入るのだった。


「私が穿けるかな」

とパンツを取り出して広げて見ると、意外に大きい。

やっぱり、あれだけ細く見えても背が高いので、私よりは骨盤も広いのだなと思いつつ、ジッと見ていたのだけど、

「私はこれを穿いていた本人が必要なのに」

そう言って元の場所に戻し、自分の下着とタオルを持って風呂場に入るのだった。


坂倉さんと一緒に入ったことを思い返しつつ、身体も綺麗にして一通り入浴も済ませてパジャマ姿でひとりの寂しさを彼女との思い出で紛らわしていると、ドアをノックする音が聞こえる。


「山本様、お父さんがお見えですので、おいで下さい」

メイドさんだろうか、女性の声だったので、パジャマのままドアを開けると、

「こちらです」

と、案内する仕草なので付いていくと、何やら以前の面会した場所とは違うところに案内された。

つか、何度も来ている作戦室だ。


その部屋に入ると、大勢の人が既にいて、壇上には国王がいるのだった。


って!!!

こんな御前になるならちゃんとした格好で来たのに!

可愛い動物の絵がプリントされているパジャマで、屈強な兵士や、厳格な王族のいる部屋に私は入っていくしか選択肢がないとか!!メイドさんも教えてよ!!!


「優羽…寝てたのか?」

父親の第一声がそれだった。

すいません、あんたと面会だと思ってたから、こんな仰々しいとこに案内されるなんて思ってなかったんです。


「何でお父さんがこんなとこに?」

私のパジャマ姿も場違い過ぎるけれど、父親も何でこんなとこにいるのかと、疑問でしかない訳で。


「なんかあったらしいからと、帰れなくなって、ここに連れて来られたんだけど、坂倉さんが逃げたらしいな」

とりあえず父親の隣に座る私にそう言うのだが、それでも何で呼ばれたのかは分からないでいた。


とりあえず、父親は自分が羽織っていたコートを私に着せてくれる、まぁそんなに広くない部屋で人も密集しているので寒くはないのだけど、さすがにパジャマの下は何も付けてないのもあって若干肌寒かったので、助かったのが正直な気持ちではあった。


「現在、援軍に向かった第14特殊魔導部隊は、シャーナの首都カリンまであとひとまるまる分です」

どうやらここは戦況を逐一、国王や指揮官に報告する場所らしい。

現場では得られない情報も部隊に送っている様子も見られたり、緊迫した空気が重くのしかかっている。


しかし、何で私も父親もここに呼ばれたのかは未だに謎なのだ。

周りを見ると、第一王子や他の兄弟のような威厳のある姿の王族も待機しているし、何故か私たち以上に謎な斉藤さんもいる。

その隣には彼の父親だろうか、いかにも貴族というで立ちで戦況を見つめていた。


「何?り…了解…!」

無線係が、何か良からぬことを聞いたのか、驚いた様子で近衛大将の方を見て言う、

「レメディが無効化されるという、友軍からの情報です」

それを聞いて、みんな驚きの声をあげる。


それはそうだ、調合魔法で魔法大国に登り詰めた天乃国が、そのレメディが通用しないとなると、戦力は半分以下にまで弱体されたのも同義だからだ。


万が一、シャーナが突破されれば、それはもう魔の民に降伏するしか道がないということを意味するのだ。


「どういうことだ、そんなことがあり得るのか?」

騒めく場内で、第一王子が立ち上がって、

「危惧した通りになりましたね、坂倉莉里は当然レメディにも精通していた、その情報が敵に漏れたとしても何の疑問もないでしょう」

そう言うと、他の王族の者は、

「涅凪よ、レメディを輸出して財を成している事実を忘れたのか?当然脅威になるそれを研究はしているはずだ、君はそんな14歳の少女に何を怖がるのかね」

と反論するも、

「魔族がこの国で暗躍していた、いやさせていた事実も忘れてはいけないでしょう、彼女ひとりな訳ではないんですよ?」


そういう王子の言葉に私は坂倉さんの友達を思い出していた。

確かに彼女たちも魔力は坂倉さんとまではいかなくても飛び抜けていたのだけど、それ以外にもいたのだろうか?


「では他に漏れたらまずい情報が漏れていると?」

「それが分からないから脅威になっているんですよ、国家の存続に関わる重大な失態です」

王族同士の言い合いには、さすがの近衛大将も他の士官も口を挟めずにいると、

「事態は切迫しているが、我々は吉報を待つのみだぞ」

そう言う国王のひと言で何とか収まるのであった。

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