42〜美女は急いで光ります。
謁見の間は何百もの兵士で埋まる勢いで、魔族への畏怖が相当なものと思わせるには十分だった。
「お前の親父を呼べ、こっちは話を付けてあるのだが」
そんな兵士たちに囲まれても全く動じない坂倉さんが言えば、
「魔族にひれ伏す臆病者を呼んでも意味はないでしょう?
そう返す王子であったが、私はこんな有事に身内で争うのは相手の思う壺と思い、
「坂倉さんは、私を守ることしか頭にないから大丈夫です!」
と言うものの、当然それを証明する手段はない。
というかみんな聞き流して相手にしてはくれなかった…
「山本、おかしいと思わなかったのか?つい数日前まで何もなかったのに、急に婚約とかあり得ないだろ?」
斉藤さんが何とか応えるように言ってくれたのだけど、ここで坂倉さんの私への想いの遍歴を全部説明しろと言うのだろうか、いやそんな時間はない、ここは一旦彼女に拘束されてもらって、あとから説明して疑念を払拭するのが一番だと思い、
「坂倉さん、仕方ないから今は捕まって
しかし、彼女はそんな私の言葉に、
「すまん急ぐから」
と言って空中に文字を書き始める、それを見た王子は、
「いかん!みんな目を伏せろ!」
と大声で言うも束の間、その文字は太陽のように輝き、全員は目を開けられない状態になってしまう、そしてその輝きが収まった時には既に彼女の姿はなかった。
入り口の方に目を移すと、そこにいた兵士がみんな四つん這いになって動けないようだった。
「重力のレメディか」
斉藤さんがそう呟くと、私の側に寄って来るが、私はそれから逃げるのだけど、周りが兵士だらけで動けなくなってしまう。
「坂倉莉里を城から出すな!相手は魔族だ、最大限の戦力で対応しろ!身を守るためなら相手の生死など気にするな!」
奥で控えていた近衛大将の関が大声で指示を出している。
相手の生死など気にするな。
その残酷な言葉に私は、一瞬最悪のことを考えてしまって、
「あの
あの学校の演習施設での大爆発を、正規の大きさのレメディで起こしたら多分城ごと破壊できる威力になったであろうが、そんな私の言葉も周りの兵士の声などで掻き消されて誰も耳を貸す者などいる筈もない。
いや、今の彼らには何を言っても意味がない、そう思うと自分の無力さだけがただただ虚しく感じるのだった。
やがて、謁見の間には私と王子とその世話係に斉藤さん、そして王族警護のためであろう兵士が数人残っているだけになった。
「まだ彼女を信じているのか?」
斉藤さんが妙に距離を置く私に近寄りながら言うが、私は近寄った分だけ後退りして返事などしなかったので、こちらの心情を察したのか、何も言わずに王子の近くに戻っていった。
「もう少しで父上が騙されて、国が乗っ取られるところだったようですね」
王子は近づいてきた斉藤さんに語っているのか、そう言うと、
「山本の親も彼女に脅されていたようで、本当に危なかったです」
彼もそう言って、今の坂倉さんへの疑念が正しいとでもいうかのように語るのだった。
何で私の父親が脅されていると思ったのか。
確かに坂倉さんと話し合った
そんな脅すような人に、私を預けたり、同棲を提案するだろうか?それすらも全て脅された上でのことだったというのか…?
考えれば考える程分からなくなり、もう過去の彼女の言葉だけを信じて事態が好転するのを待つことしか出来なくなっている自分がいた。
「申し訳ありません、坂倉莉里を取り逃してしまいました」
扉から入ってきた近衛大将がそう報告しに戻ってきた。
「怪我人は?」
「今のところ確認しておりません」
「相手は魔族だから怪我人が出なかっただけでも十分だ、ご苦労様、引き続き警戒体制を強化して対応てくれるかな」
関大将と王子がそうやり取りしていると、奥の扉から従者らしき者が入ってきて、
「王が涅凪様をお呼びです」
そう王子にお辞儀をしながら言うと、
きっとさっきの騒動を問い正すのであろうけど、どうもきな臭さしか感じず、この有事の緊迫した時期にお家騒動とかしている場合じゃないでしょう、と子供ながらに思ってしまう。
まぁこういう権力が渦巻く世界では、
しかし私はそれでも坂倉さんがどうなるのか心配なのは変わらないし、多分彼女はこうなったら戦地に赴くのではないかと、そう思って近衛大将に質問しに歩み寄って行く。
「援軍出すって言ってたのは、もう出したのです?」
それを聞いて大将は、
「まもなく出発する、陛下からも最大の成果を期待すると言われているな」
そう言えば、この人は本来は国王を護衛するのが任務の人だったのを思いだし、
「国王から坂倉さんのこと何か聞いてました?」
そう言って彼の顔を見上げると、
「陛下は彼女の正体は誰にも明かすな、特にアレにはなと、これ以上は言えない」
そう言って口を噤んでしまう。
しかし私は感じるのだった、彼は何かを知って王の勅命で動いているというのを。
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