41〜話の長い王子、髪の毛で遊ぶ美女。
昼食も朝食時と同じ会場で、同じように円卓が並べられていて、そこに同じように私と坂倉さん、そして第一王子が座っている。
しかし今回はなぜか、斉藤さんも王子の隣に座っているからだろう、私の隣の綺麗な顔が多少死んだ目になって、この状況を不満に思っているのが分かる。
しかし、それ以上に、食事会場の雰囲気が騒めいているのが気になる。
「何かあったのかな?」
私は、この異様な空気に周りを見回しながら訊くのだが、
「先程、報道で隣国の国境の部隊が突破されてたので、王都も陥落するんじゃないかって噂が流れてるんですよ」
王子がそう答えてくれたのだけど、斉藤さんが、
「シャーナは魔導士の数では世界でも有数で、しかも他の国からの支援もあったのに、数時間も保たなかったって話…」
そう付け加えてくれた。
シャーナは海を隔てた我が国、天乃国の隣国で人口も多く、魔道士育成にも力を入れていて魔導士兵の数は多分世界でも一番だったと言われている。
「主要部隊は王都防衛に回してあろうから、国境の部隊の兵力がどれ程かは分からないけど、とにかくシャーナが陥落したら、いよいよ我が国だ」
王子はそう言うと、若干声を潜めて、
「そのシャーナの王都防衛には、我が軍の精鋭部隊も援軍として参加させます」
今朝、近衛大将が言っていた海外派兵のことだろう、一応外部には漏らしてはいけないらしいけど、王子は問題ないと思ったのか、隣の斉藤さんもいる席で喋ってしまっている。
そうしていると食事が届いたので、会話は終わったのだけど、王子は坂倉さんに、
「ちょっとお話しがあるので、謁見の間に
と訊くのだが、彼女はガン無視で食事を始めている。
一体何の話なのだろう、と色々想像してみるも、多分斉藤さんの話を聞いて何か質問があるのではないか?くらいしか思いつかない。
程なく食事も終わり、部屋から出ると王子が、
「こちらです」
と言うのだが、それを無視して逆方向に行こうとする坂倉さんを引っ張って、強制的に案内の方に連れて行く。
私も多少は何の話なのか、不安ではあるのだけど、逃げても仕方ないので付いて行くしかないのだ。
この城に初めて来た時に、坂倉さんが国王とふたりで会話したところが謁見の間である。
その部屋の前まで来ると、王子は私たちと斉藤さんも一緒に招き入れて、全員が入ったのを確認すると扉を閉めるのだった。
「さっそくですが、琉士くんが言った話、私も以前から気になっていたんですよ」
斉藤さんが言っていたこと、つまりは、坂倉さんが魔族ではないかという話のことだろう。
しかし、彼女自身そんなことは
「以前も申した通り私たち王家には、代々伝説が語り継がれていて、当然400年前の出来事も当時の公文書として残っています」
王子はそう言って、どこかをチラリと見て、
「しかし、その内容の深いところまでは私にも知らされていない、そう戴冠した者のみしか見れないのです、その公文書は」
きっとチラリと見た先は王の居室なのだろうか、息子、というより王位継承権筆頭の王子にすら開示されないものには、それ相当の意味があると思われる。
「坂倉さんが英雄の末裔とこの城に来た時のことを覚えていますよね?ほんの昨日のことです」
多分、国王が私たちに跪いた、あの信じられない出来事のことだろう、そして彼は続けて、
「父上が、いや天乃国の国家元首が
大丈夫ですよ王子、私たちも全然理解してませんから!
しかし、それが斉藤さんの言っていたことと何か関係するのだろうか?
「そこで、琉士くんの調べてくれたことが、色々と腑に落ちてくるのです」
まだ続く王子の説明…こういう
「彼の父親は、外交面で我が国に貢献してくれていることもあり、海外の書物に目を通す機会も多いことから、色々調べてみたようだったけど、過去の天乃国の記述で興味深いものを、いくつか見つけたようなんですよ」
つまりは、自国視点ではない第三者視点の客観的な評価と言いたいのか、
「そこには400年前の戦乱期に、魔族が天乃国に紛れ込んで住み着いたとあり、倒された魔王の仇を討つ機会を伺っているのではないかと記されているようです」
確かに坂倉さんが自らを魔族の血が流れている、つまりはこの国に定住している魔族そのものなのは事実なのだけど、でも住んでるだけで魔王の仇撃ちというのも短絡的過ぎないだろうか。
「そこで坂倉さんに質問なんですが、魔の民の復活と呼応するように、山本さんに接近したのは何でですか?」
王子は、私の髪の毛を小さな三つ編みにしている彼女に質問を投げかけるのだが、
「そんな奴らが復活とかいう前からの話なんだけど」
そう言って編み終えた三つ編みの先端を指で持って答える。
しかしそれを留めるゴムを持ち合わせていないため、指を離すとすぐ解けてしまうのだった。
「申し訳ない、逆の言い方をしますね、
明らかに魔の民と連動しているのを疑っている言い方なのは頭の悪い私でも理解できる程だった。
「私が魔族だと何か都合悪いのか?別に隠すつもりはないのだけど」
そう言った瞬間、王子が手を挙げると奥から、そして扉が開いて外からも兵士たちがなだれ込んで来るのだった。
「言質は取れました、申し訳ないが疑いが晴れるまで拘束させてもらいます」
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