Ep.2 恋人
.1 ダンスのお誘い
《夢》に、私は殺された。
「なぁなぁ、えっと……
同級生で同じ教室に毎日いるのに、話をするのは半年にして初めてだった。
織田翔は男子で華やかなグループにいて、私――
接点なんてまったくなくて、同じ教室にいながら別次元の人間みたいだった。
茶髪に染め上げた長髪を後ろに括っていて、眉も綺麗に整えられている。
身なりに気を遣っているぜ、と言わんばかりに髪や肌だけじゃなく服装も、何処かのセレクトショップで揃えたような服装だ。
私服制度の学校とはいえ、芸術系の学校でもないので大体は学生宜しくな子供っぽい服装なのに、整えられたその服装を選ぶセンスは一際目立っていた。
光が当てられているような感じが、別の世界の人間のように思えていた。
だから、名前を呼ばれて正直驚いた。
驚きのあまり質問の返答は、首を横に振るだけで済ましてしまった。
でも実際、ダンスとか興味無かったし。
ダンスなんて、テレビでアイドルが踊ってるか、授業で嫌々踊らされるか、だ。
好印象を持てるわけがない。
「あちゃー、そっかー」
織田翔は困った顔をして、額に手をやった。
熱があるのかな?、なんてズレた疑問が浮かんだ。
困ったよ、というアクションが正直ウザい。
それでも一応、女子としての反応をしてあげる。
「あの……どうしたの?」
間を取りつつの疑問文。
気を遣ってますよ、のリアクション。
めんどくさい。
そういう私のうんざりとした気持ちに気づくことなく、織田翔は待ってましたと言わんばかりに表情を変えた。
「いやぁ、あのさぁ、今度俺らダンスのイベントやんのね。んでさぁ、お客さん集めてんだけど、来ない?」
うわっ、と声が出そうになった。
怪しさ全開なんですけどー。
ダンス、ダンスって言ってるけど狙いは合コンの発展的なヤツかい。
最悪だ、チャラすぎだ。
正直、別次元過ぎて、キモいレベルだ。
「いやいやいや、いやいやいやいや。ちょっと待って、なんか勘違いしてっから」
織田翔は慌てて、私の眼前で手を横に振る。
「ドン引きしすぎでしょ。顔に出てるって、木根さん。マジで真面目なダンスイベントなの。あの、ほら、疑ってるようなヤリサーみたいなもんじゃないから」
槍サー?
槍について熱く語り合うサークル?
あ、ダメだ。
引きすぎて、思考がまともじゃない。
「いやいやいや、マジで、健全な、健全なヤツ。俺らさ、真面目にプロとか狙ってんのね? んで、ちっさいけどライブハウス借りてイベントやってみよう、って話になってさ」
プロとかって何だろう?
織田翔が必死になればなるほど、私の心は警戒心を抱く一方だった。
それからも織田翔の必死の説明と勧誘は続いた。
私はもう隠すことなく、嫌悪感を出していたのだけど、それが逆に織田翔に火をつけてしまったようだった。
結局、根負けでイベントを観に行くことになってしまった。
ドリンク付きで、無料。
怪しさが増す言葉に最終的には負けてしまった。
最初の印象は《チャラい》で、次に抱いた飲食は《しつこい》だった。
小さなライブハウスは女子率高めの観客で混雑していた。
織田翔はやっぱり人気者なのだろうか?
あのチャラさ、いや、しつこさに根負けした被害者達が多数であって欲しい。
そうでなければ、私まで織田翔ファンの一人みたいで嫌じゃないか。
大体、私は一人で来てしまったので心細いのだ。
こんな状況で、更に周りのファンたちにライバル視とかされたらたまったもんじゃない。
同類と扱われるのも嫌だ。
気のせいか、一瞬、ステージで踊る織田翔と目が合った。
いや、気のせいなんかじゃなくて、織田翔は私に気づいた。
手を振っている。
仕方がないので振り返そうと思ったら、周りの女子が一斉に手を振り出した。
私よ、私の為に織田君は手を振ってくれたのよ!
と、言わんばかりの熱い反応にやっぱりドン引きしていた。
私の引いてる様子を察したのか、織田翔は手を振るのを止めた。
織田翔はダンスに専念し、私はそれを観ることにいつしか没頭しだしていた。
ちびちびと飲んでいた無料ドリンクも半分ほど残してテーブルに置いて、だんだんと周りの観客も視界に入らなくなっていった。
織田翔の踊る姿は、キラキラしていた。
美しいとか、輝いてみえる、とか、そういうハッキリとした言葉じゃなくて。
キラキラしていた。
踊るキミを見て、恋が始まって――
懐メロ番組で流れる少し昔の名曲が、私の頭の中で流れた。
私は不覚にも、恋をしてしまったのだ。
織田翔に、恋をしてしまったのだ。
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