.2 キラキラ

 ライブハウスでのイベントは盛況を博し、織田翔は次々とダンスイベントを行った。

 学校の行事に参加してみたり、街頭で踊ってみたり、またライブハウスを借りてやったりしていた。

 そのイベント全てに、私は観客として参加した。


 初めの頃は誘われていたのだけど、だんだんと織田翔を見かけると、私の方から声をかけるようになっていた。


 そうこうしてる内に、ある日、織田翔が恥ずかしそうに質問してきた。


「あのさ、木根さん、イベントめっちゃ参加してくれんじゃん? それってさ、つまりさ……」


 質問は恥ずかしさに濁された。

 それでも濁された部分は、私にはわかった。

 だから、私は答えてあげることにした。

 恥ずかしそうにする織田翔が可愛かったのでサービスだ。

 私は――


「織田君にさ、興味が湧いてきたの」


「えっ!? あ、そのそれって……」


「か、勘違いしないでよね。ギャップよ、ギャップ!」


 恥ずかしさより前面に出てくる子供みたいな輝いた瞳が、私の心を揺さぶる。

 伝染するように私まで恥ずかしくなってきた。


「ギャップ?」


「そう、ギャップ。正直言うと織田君の印象って、初め……良くなかったの」


 悪戯心が湧いた訳じゃなく、真っ直ぐな瞳に真っ直ぐな気持ちを伝えたくなった。

 そうじゃないと織田翔の前に立っていられない気がしたから。


「ああ、うん……なんとなくわかる」


 肩を落とし俯く織田翔。

 あからさまに、シュンとされる。

 初めて話しかけてくれた時には、ウザいとすら思ってた大袈裟なリアクションは、見慣れると可愛らしいものだった。


「でもね、踊ってる織田君を見て印象変わったて言うか。ああ、この人、本当にダンスに真剣なんだって」


 踊るキミを見て――


「私、何かに真剣になったことないからさ。正直、羨ましいっていうか。織田君がキラキラして見えたの」


 恋が始まって――


「それで、興味っていうのかな、持っちゃって。この人はどれだけキラキラするんだろう、って」


 私に出来ること、何だか……わからなくて。

 わからなくて、追っかけをやってみたりしてる。

 ただ、そばで見てる。

 何かに真剣になったことがない私には、きっと織田翔の何かになってあげることは出来ないから。


「キラキラ……」


 織田翔は噛み締めるように、その言葉を呟いた。

 何だか恥ずかしかった。

 感覚的な言葉だったので、ちゃんと伝わるとも思ってなかったから、理解されようとしてるのを見るともどかしさを覚えた。


「あ、あのさ――」


 恥ずかしそうにしていた織田翔が、一呼吸入れてぐっと瞳に力を入れる。

 少し前のめりになる姿勢に、迫られているようでドキドキしてきた。


「俺、踊るから! すげぇめちゃくちゃ上手くなるから! 必ず、プロになるから! 見ててよ、木根さん!!」


 織田翔の凄い勢いに驚いた私は、ただ頷くしか出来なかった。

 私にはただ見てるだけしか出来ないので、それを望まれるなら応えてあげようと思った。

 それしか出来ない、という寂しさは、顔に出さないよう押し殺した。


 それから、私達は学校やダンスイベント以外でもよく会うことになった。

 それでも大抵はダンスに関連する場所だったけど。

 楽しそうにしてる織田翔と一緒にいるのは、私も楽しかった。

 あくまでも友達関係というのはあったけど、それでも二人きりで遊んでいるのはドキドキしたり、何気にロマンチックなこともあったりで。


 そうして過ごす日々に二人の関係性は進展することは無かったのだけど、私の高校生活は充実して過ぎていった。

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