凸凹双子姉妹の凸凹推理

まにゅあ

凸凹双子姉妹の凸凹推理

花音かのん:友情ってゴミだと思わない?

浮音ふのん:ゴミはお前だ

花音:え?

浮音:んー、今日もいい天気だ

花音:……そうだね。それで、さっきの話なんだけど

浮音:ああ、何がゴミだって?

花音:友情

浮音:ああ、友情ね。どしたの急に。友達とケンカでもした?

花音:え? ケンカなんてするわけないじゃん

浮音:ほうほう、その心は?

花音:私、友達いないもん

浮音:……双子の妹として、姉のことがメチャ心配だ

花音:ん? 何か言った?

浮音:いや、何にも。――で、どうして急に「友情はゴミだ」なんて思ったわけ?

花音:それがね、今読んでるこの漫画なんだけど、やけに友情の大切さを訴えてくるの

浮音:なるほど。それで友情はお腹いっぱい。友情の「ゆ」の字ももう見たくないと

花音:別にそこまで言ってないじゃん。ただ私は友情がゴミだなって思っただけ

浮音:いや、考えてみ。「友情がゴミ」ってかなりヒドイこと言ってる。友情の「ゆ」の字が――、よりもよっぽどヒドイ

花音:そうかな?

浮音:だってその漫画家は友情の大切さを伝えようとしてるわけでしょ

花音:うん

浮音:それで「友情はゴミだ~」って、その漫画家に真っ向から「お前の漫画はゴミだ」って言ってるようなものじゃん

花音:浮音ちゃん、なんてヒドイこと言うの⁉

浮音:いや、言ったのは花音だから。――でもまあ、友情って言葉を聞くと、うんざりするのは確かかも。学校の先生も「友情を育んで」とか「絆を大切に」とかうるさいし

花音:だよねだよね。何か生きにくいよね、今の世の中

浮音:……話が急にぶっ飛んだ気がするけど

花音:そうかな?

浮音:まあいいよ、いつものことだから

花音:優しい! さすが私の浮音ちゃん! 友情はゴミでも双子の情は永遠不滅ってね

浮音:上手く言ったつもりかもしれないけど、全然そんなことないから

花音:そうかな? あ、浮音ちゃん、照れてる? 照れてるんでしょ?

浮音:……誰かこの姉をゴミに出してくれないだろうか

花音:あっ!

浮音:……どうしたの?

花音:この漫画の作者、NAMAGOって言うんだけど、一ヶ月前に刃物で刺されて病院送りになったんだって

浮音:本当に⁉ もし犯人が友達だったら、友情もクソもないな

花音:浮音ちゃん、人がケガしてるのに不謹慎だよ

浮音:ごめん……。そのNAMAGOって漫画家、ずっと友情の大切さを描いてるのか?

花音:うん。これ今週発売の週刊誌だし

浮音:誰かに刺されたのに、よく懲りずに描けるな。私だったら人間不信になって、友情をテーマにした漫画とか描けなくなりそう。まあ刺されたからこそ、より一層友情の大切さを考えるようになったってことかな

花音:浮音ちゃん、何言ってるの? 難しいよ~

浮音:……まあ、うん、気にするな

花音:そう、ならよかった。それよりも、私たちで考えてみない?

浮音:考えるって何を?

花音:もちろん決まってるでしょ。NAMAGOさんを刺した犯人だよ!

浮音:え、まだ犯人捕まってないの?

花音:うん、みたいだよ。ほら、今週号の巻末の作者コメントの欄

浮音:雑誌を顔に押し付けるな。――「一ヶ月前に僕を刺してくれた犯人さん、ありがとう! おかげで今週号のネタを思いつきました」。ここまでポジティブだと、いっそすがすがしいな

花音:犯人さんって書いてるってことは、まだ誰か分かってないってことでしょ?

浮音:そうとは限らないんじゃない? 単に犯人の実名を出したらまずいから、「犯人さん」と書いてるだけかもしれない

花音:でも、ネットを見ても、どこにも犯人が捕まったって情報はないよ

浮音:ほかに面白そうなネタがあって、そっちの記事を優先しただけって可能性もある。そのNAMAGOって漫画家は有名なのか?

花音:どうだろう? 私は好きだけど、巻頭カラーを飾ったことはないし、あんまり人気ないのかも

浮音:だったら尚更。人気漫画家が刺された事件なら、犯人逮捕まで記事にするところも多いだろうけど、それほどでもないなら、別の話題になりそうなネタを優先してもおかしくない

花音:そうかな?

浮音:そうとも

花音:じゃあ犯人について考えてみよう!

浮音:おい、待て。私の話、聞いてた?

花音:もちろん聞いてたよ。結局犯人は捕まったのか、そうじゃなかったのか、よく分からないってことだよね?

浮音:……まあそうだな。どっちと断言するには決め手に欠ける。

花音:だったらいいじゃん、私たちが犯人が誰だったか推理しても

浮音:言ってる意味がよく分からないんだけど

花音:え~。そんなに難しそうな本を読んでるのに?

浮音:難しそうって……。これ、学校の教科書だから

花音:え、学校の教科書って普通読むものじゃないでしょ

浮音:……ほう。だったら何のために教科書はあると?

花音:重ねて頭に載せて、スクワットするためでしょ?

浮音:この脳筋がぁぁ!

花音:ひえぇぇ! 浮音ちゃん急に大声出さないでよ。耳がキーンってなったでしょ

浮音:いや、ごめん。少し取り乱してしまった。で、何の話だった?

花音:推理ゲームの話だよ。私たちが、NAMAGOさんを刺した犯人が誰だったか推理しようって話

浮音:推理ゲーム? 今、ゲームって言った?

花音:え、うん。だってあくまでもゲームでしょ。別に本気で犯人を捕まえようってわけじゃないんだし

浮音:……私は本当にお前と双子なのか、疑問に思うときがある

花音:私たちは双子でしょ。顔もこんなにそっくりなんだし

浮音:ああ、そうだな。……未だに私たちが一卵性双生児だなんて信じられない。同じ家で育って環境要因もそれほど変わらないはずなのに、どうしてこれほどまでに違った性格になったのか……

花音:浮音ちゃん、また難しいこと言ってる。そんなに考えてばっかりだと、脳みそ爆発しちゃうよ

浮音:……もはや何も言うまい

花音:で、どうなの? やってくれる? 推理ゲーム

浮音:ああ。あくまでも花音は推理をして遊びたいだけなんでしょ?

花音:お、さすが浮音ちゃん! 私のことよく分かってるぅ! 最近クラスで推理漫画が流行っててね、推理ゲームをしてる人をよく見かけるの。それで私もやってみたいなって思って

浮音:…………

花音:浮音ちゃん⁉ どうして泣いてるの⁉

浮音:いや、うん、何でもないんだ。一緒に遊んでくれる友達がいない花音のことを不憫に思って泣いているなんて、本人の前ではとてもじゃないが言えない……

花音:言ってるから! めちゃめちゃ言っちゃってるから! 大丈夫だよ浮音ちゃん! 私、友情はゴミだって思ってるから!

浮音:……そういえば、そうだったな

花音:そう! そうなんだよ! だから心配しなくても大丈夫だよ! 私には浮音ちゃんがいるし!

浮音:嬉しいような悲しいような、複雑な気持ち……

花音:とにかく、推理ゲーム、してくれるんだよね?

浮音:ああ、私なんかでよければ、いくらでも付き合うよ

花音:そ、そう? ならよかった。じゃあ早速始めようよ。NAMAGOさんを刺した犯人を、一番に当てた人が勝ちね

浮音:これ、推理が合っていたかどうかはどうやって判断するつもり? 誰が本当に犯人だったかなんて、私たちには突き止めようがないでしょ

花音:それはね、他の人も全員納得したかで決まるの。ここには私と浮音ちゃんの二人しかいないから、例えば私が犯人を推理して、浮音ちゃんがその内容に納得したら、私の勝ちってわけ

浮音:なるほど。あくまでもゲームだから、その場にいた全員が納得すれば、それでオーケーってことか

花音:そういうこと。じゃあ私から推理を発表するね

浮音:ちょっと待て。事件についての情報をほとんど知らない中で推理してどうする。まずは情報を集めるのが先でしょ。それに情報がないと、花音の推理が正しいかどうか、私が判断できない

花音:それもそうか。じゃあネットで調べてみるね。――ふむふむ、まず事件が起きた場所は、出版社近くの駐輪場みたいだね。編集者との打ち合わせを終えて、自転車で帰ろうとしたら、そこを背後からグサッと!

浮音:背後から刺されたから、犯人の顔は見ていないと

花音:そういうことなんだろうね

浮音:何時頃に?

花音:えーっと、あったあった。夜の十時半過ぎだって

浮音:そんなに遅くまで打ち合わせしてたのか。編集者も大変だな。

花音:だね。私、将来は編集者になろうかな

浮音:……今の話の流れでどうしてそうなる

花音:え、だって、それだけやりがいのあるお仕事ってことだよね

浮音:まあ、そうかもしれないけど……

花音:だよね! で、何の話してたんだっけ?

浮音:この脳筋がぁぁ!

花音:ひえぇぇ! 浮音ちゃん急に大声出さないでよ。今日で二回目だよ

浮音:ごめん、あまりにも不出来な姉を持った自分を叱咤したくなって

花音:え、自分に向けて「この脳筋がぁ!」って言ってたの

浮音:うん、まあ、そんなところ

花音:――大丈夫? 熱ない?

浮音:額触るな! 熱ないわ!

花音:関西弁になってるよ! やっぱり熱あるんじゃ――

浮音:いいからさっさと次だ、次。凶器は?

花音:う、うん。えーっと、包丁だったみたい。犯人は包丁を引き抜かずに、刺してそのまま逃走したって

浮音:包丁か。ありきたりな凶器。もちろん指紋なんかは拭き取られていたんだろうなあ

花音:何も書いてないけど、たぶんそうじゃないかな。指紋が残ってたら、犯人もすでに捕まってるだろうし

浮音:まあ今回はあくまでも推理ゲームだし、包丁に指紋は残っていなかったことで話を進めよう

花音:だね!

浮音:犯人は人気ひとけのない夜の駐輪場で、NAMAGOがやってくるのを待ち伏せしていたってところか。てことは、計画的な犯行だったんだろうな。NAMAGOに恨みを持っていた人物……って言っても分かるわけないか

花音:SNSをパーッと見てみたんだけど、何人かそれらしい人がいたよ

浮音:本当に?

花音:本当に。浮音ちゃんはSNSやってないから知らないかもしれないけど、最近は結構SNSから分かること多いんだよ。家族構成とか、交友関係とか

浮音:何だかちょっと馬鹿にされた気がしないでもないけど……。まあなんだ、そのSNSを見れば、NAMAGOに恨みを持っていそうな人を挙げることができるってわけか

花音:そうそう。えーっとね、怪しいのは、この三人かな。一人目は、NAMAGOさんの担当を務めていた、編集者の譜羅須ふらす知久ちく。なんかプラスチックみたいな名前だね

浮音:いいから早く、怪しいと思った理由を言え

花音:うん。NAMAGO さんって、よく悪口をSNSに投稿するんだけど、大体が担当編集者の悪口だから

浮音:編集者と漫画家の関係なんて、そんなものじゃないのか。編集者は少しでも漫画を面白くするために、「これを直せ」「あれを直せ」と漫画にダメだしする。そりゃ、自分の書いた漫画に口出しされたら、面白くなく感じる漫画家もいるだろ

花音:そうかな? 私ならいっぱいダメだしされたほうが嬉しいけどな。だって編集者さんは、私の漫画を面白くするために言ってくれてるんでしょ

浮音:花音みたいな漫画家ばっかりだったら、出版業界ももっと平和なんだろうけど……。まあ、とりあえず今の話は置いとくとしても、その譜羅須って編集者がNAMAGOを刺した可能性は低いと思う

花音:譜羅須さんが女の人だから、刺すのに力が足りないってこと?

浮音:譜羅須って女性だったのか……。って、それは今どうだっていい。性別は関係ない。背後から刺すなら、腕力はそんなに要らないから。両手で包丁を握って前に突き出せば、女性でもかなり深くまで刺せる。私が言いたかったのは、譜羅須が犯人なら、出版社の帰りなんていう、いかにも自分が犯人だと疑われそうな状況で襲わないだろってこと

花音:なるほど。確かに出版社の前で刺されたってなったら、警察はまず出版社の人、特に直前まで話してた譜羅須さんに話を訊くかも

浮音:担当編集なら、NAMAGOの仕事場がどこにあるかも当然知ってただろうし、何なら自宅の場所も知ってたかもしれない。わざわざ出版社の近くを犯行現場にするリスクを冒す必要なんてない。だから担当編集者の譜羅須が犯人だってことはないと思う

花音:浮音ちゃん、すごい! 物語に出てくる名探偵みたい! 名探偵浮音ちゃん、ここに誕生!

浮音:やめろ恥ずかしい。それに犯人が譜羅須だとしたら、時間的にかなり厳しい犯行になっただろうし

花音:なるなる~。NAMAGOさんが出版社を出てすぐに追いかけなきゃいけないもんね。包丁を準備する時間もないか

浮音:今の何?

花音:今のって?

浮音:いや、その「なるなる~」ってやつ

花音:メッチャなるほど、の意味だけど

浮音:……まあいいや。さっきの点は、あらかじめ包丁を身体に忍ばせておく手もあるけど、やっぱりそれでもわざわざ時間的に余裕のない犯行方法を選ぶのはおかしい

花音:納得だよ。じゃあ二人目に行ってみよう! 二人目は、出版社のビルの向かいのコンビニでバイトしていた、男子高校生の「そうだい」君。多分下の名前かな。苗字は書いてないや。よくNAMAGOさんがSNSに彼のことを呟いてるんだ。「そうだいとアニメの話で盛り上がった」とか「そうだいが俺の漫画のファンだった」とか

浮音:仲良さそうじゃん。なんでその「そうだい」が怪しいと思ったわけ?

花音:犯行があった日の午後五時頃、NAMAGOさんが「そうだいとケンカしちまった」ってSNSで書いてるんだよね。多分打ち合わせに行く前だと思う。ケンカの内容は分からないけど、ひょっとしたらかなり揉めて、そうだい君が「この野郎!」って思って、NAMAGOさんの帰りを待ち伏せして刺したのかも

浮音:考えられなくはないか。高校生のバイトは夜十時までだし、仮にぎりぎりまで働いていたとしても、犯行があった十時半過ぎだったら、近くの店で包丁を買って、待ち伏せすることはできただろうし

花音:でしょでしょ。そうだい君で決まりだね!

浮音:だけど、どうも決め手に欠けるんだよな。そもそも推理するには、情報が少なすぎるってのが問題だ。情報が少なければ少ないほど、想像で犯人っぽくできちゃうだろ。それはもう、推理というより妄想だ

花音:うーん、言われてみればそうかも……。どうしよう浮音ちゃん!

浮音:私に訊かれてもな。――ちょい見してみ

花音:あ、私の携帯

浮音:しょうがないだろ。私はSNSしてないんだから。花音のを見るしかない

花音:別にアカウント持ってなくても、他の人のSNSは見られるんだよ

浮音:…………

花音:浮音ちゃん、聞いてる?

浮音:うるさい、今そうだいについて、他に情報がないか見てるんだ

花音:ふーん、なら仕方ないね

浮音:なんだ、そのムカつく顔は

花音:え、浮音ちゃんもおんなじ顔してるでしょ。私たち双子なんだし

浮音:…………

花音:浮音ちゃ~ん、ごめんなさい! SNSの常識を知らない浮音ちゃんを、ちょっといじってみたくなっただけなの。お姉ちゃんが悪かったの。お願いだから何か言ってよ~。お姉ちゃん寂しくて死んじゃうよ~

浮音:……大げさすぎる。ほら、面白い情報を見つけた

花音:なになに、「彼女にプレゼント! なんとプレゼントはNAMAGO先生のサイン入り色紙! 前から俺、NAMAGO先生ファンだって言ってたけど、実は彼女がファンで、俺はそんなにでもないんだ~。それがNAMAGO先生にバレちゃってもう大変! 何とかバレる前にサインはもらえたからよかった~。だけどやっぱり嘘は良くないな。超反省!」

浮音:そうだいの投稿を遡って調べてみた。そしたらそんな投稿があった。NAMAGOが呟いてた「そうだいとケンカしちまった」ってのは、十中八九このことで間違いない

花音:て、これの投稿時間、犯行日の夜十時頃じゃん!

浮音:そう。しかも彼女とのツーショット写真付き。念のため彼女のアカウントも見てみたけど、近い時間に彼氏との誕生日パーティーの写真が上がってた。それに彼女のアカウントに載ってた誕生日は、犯行日と同じだった。

花音:徹底した調査! まさに名探偵だね!

浮音:つまりそうだいには、アリバイがあったってこと。彼には犯行は無理

花音:おお! アリバイとかドラマっぽい! いいね、テンション上がってきた

浮音:なんか、当初考えてた推理ゲームとは違っている気もするけど……

花音:気にしない、気にしない。楽しければオーケーだよ

浮音:花音がいいなら、それでいいけど。元はと言えば、花音のために始めたゲームだし

花音:じゃあ最後の三人目だね。どうか犯人でありますように!

浮音:なんとも不謹慎なお願いだな

花音:三人目は、出版社のビルの清掃員をしていたリサさん。NAMAGOさんはポイ捨てをよくする人だったらしくて、ビルの廊下とかで、空き缶とかタバコの吸い殻とかを捨ててたみたい。それで清掃員のリサさんと、よく揉めてたそうだよ

浮音:え、ビルの廊下でポイ捨てする人なんているの? 道端とかならたまに見るけど

花音:びっくりだよね! でもなんか、リサさんの目の前だけでポイ捨てしてた疑惑。SNSのNAMAGOさんのポイ捨てについての投稿は、全部リサさんの名前が登場してるし

浮音:ああ、そういうこと。好意の裏返しってやつか。よく小学生の男の子がする、好きな子にわざといじわるするってやつ。さすがにビルの至る所でぽいぽいゴミ捨ててたら、出禁になるだろうし

花音:NAMAGOさんはリサさんのことが好きだったってことだよね

浮音:うん。リサさんがそれに気づいてたかどうかは分からないけど

花音:どうだろう。投稿を見る限りだと、単に迷惑に思ってたっぽい感じだけど。ほら、これとか

浮音:「掃除している私の目の前でごみを捨てるとか、マジであり得ないんだけど怒」。ああ、これは本当に怒ってるパターンだ

花音:だね。むしろNAMAGOさんのほうがかわいそうに思えてきちゃうね

浮音:殺害の動機としては十分かもね。いつもいつも目の前でゴミを捨てられて、とうとう我慢できなくなって、NAMAGOに危害を加えてしまった

花音:事件があった日、リサさんは夜六時まで勤務してたみたいだよ。彼女いつも掃除の始めと終わりに「今日も頑張ります!」とか「お疲れさまでした~」とかSNSに投稿上げてるから

浮音:そんなことまで分かるって、SNSマジで怖い。私は一生SNSはしないでおこう

花音:私が代わりにやってるから大丈夫だよ

浮音:その理論がよく分からんが

花音:よく浮音ちゃんとのツーショット写真上げてるし

浮音:おい! 何勝手に上げてんの! 私は上げてもいいなんて言ってないぞ!

花音:まあまあ、私たち双子じゃない

浮音:双子って言ったら、何でも許されると勘違いしてるだろ

花音:それよりも、早くリサさんが犯人か推理しようよ

浮音:……納得がいかない。あとで双子会議だ

花音:ひえぇぇ! 浮音ちゃんが激おこだよ! ぷんぷん丸だよ!

浮音:事件当日にリサが勤務を終えた時刻は?

花音:え、えーっと、十八時十二分に「お疲れさまでした~」って投稿されてるね

浮音:NAMAGOが出版社の向かいのコンビニに寄ったのが、午後五時頃。そこから出版社のビルに入った。十八時過ぎまで働いていたリサと遭遇し、彼は目の前でいつものようにゴミを捨てた。リサはNAMAGO殺害の意思を強め、計画を実行に移す決心をする。そこから十八時まで勤務したリサは、その後駐輪場で、包丁を手に待ち伏せ。NAMAGOの背後を取って、包丁を突き刺した

花音:すらすらと流れる滝のように鮮やかな推理! さすが名探偵! 名探偵浮音ちゃん最高! 最高! 最高!

浮音:いくらおだてても、双子会議は決定事項だから

花音:……はい。……一つ質問してもいい?

浮音:もちろん

花音:リサさんは、どうやってNAMAGOさんが使っている駐輪場の場所を知ったの? ビルの中でしか会わないんなら、NAMAGOさんが自転車で出版社に来ていることも、どこの駐輪場を使っているかも、知らなかったと思うんだけど

浮音:可能性はいくつかあるな。一つはNAMAGOがぺらぺらとリサに喋った可能性。NAMAGOはリサのことが好きだったんだ。色々と話をして、彼女の興味を引こうとしたかもしれない。あるいは、もっと単純な方法として、事件当日よりも前に、彼の後を尾行する方法がある。なにも事件当日に全部を準備しないといけないわけじゃない。凶器の包丁も、前日までには準備していただろうし

花音:なるなる! 犯人はリサさんで決定だね!

浮音:まあ、あくまでもこれは推理ゲームだし、何の根拠もない妄想に等しいけど。――さて、じゃあ続けて双子会議を

花音:う~ん、気分転換にテレビでも見ようかな~。何がやってるかな~

浮音:……覚えてろよ

――次のニュースです。一ヶ月前に漫画家NAMAGO氏が包丁で刺された事件について、警察は当時出版社のビルで清掃員をしていた久留井リサを逮捕しました。久留井容疑者は容疑を認めており――

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