呪われた橋
藤泉都理
呪われた橋
呪われた橋。
段ボールの立て看板風の板に書かれた文字を見て、肩を落とした。
今や娘夫婦と孫が来た時の宿泊用として重宝される離れと母屋を繋ぐ渡り廊下は確かに、呪われた橋のような装飾になっているが、この文字の意味はそれを示しているのではない。
いい年なのになあ。
後ろ首を少し掻いて、渡り廊下に鎮座する立て板を少しずらして渡り廊下を進む。
ギシギシと音を立てながら。
本当に呪われた橋を渡るような、妙な緊張感と冷たいような温いような妙な温度を以て。
「おい、悪かったって」
「………」
「ほら。おまえが好きな佃煮を買って来たから。な。母屋に戻って一緒に食べよう」
「あの橋を渡って来たじいさんは呪いにかかりました」
ばあさんの言葉に、口元を引き攣らせる。
あ。これは相当怒っているな。
まあ、あの板が出ている時点で想定はしていたが。
「私が初めと言って発動し終わりと言えば解かれる、私の存在が一切感知できず喋りかける事も見る事も触る事もできない呪いです」
「なあ」
ほとほと弱り果てた声を出しても、駄目らしい。
ばあさんは始めと言ってしまった。
もうちょっと様子を見た方がいいと思うのだが、前回の時のように一週間も離れに籠られて反応が一切ないのは正直きつい。辛い。心が折れる。
ならば喧嘩をしなければいいのだが、もうこれはしょうがない。
板を何度張り替えてもギシギシ唸る渡り廊下を進む中。
まあ、独身生活を謳歌するかと半ばやけ気味に思っていたら、冷たく柔らかい物が側頭部にぶつかって来た。
すわ、ばあさんの仕業かと思えば、こぶし大のふわふわ雪が横殴りの風に乗ってぶつかってきただけの話。
いえ、はい。すみません。反省します。
(2022.12.27)
呪われた橋 藤泉都理 @fujitori
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