不変
王生 くるみ
不変
自殺をしたことはありますか。
これは私が高校一年生の頃の話です。当時の私は友達も多く、異性のパートナーも存在し、趣味もありました。天体観測です。空はどこまでも自由で過去何万年と変わっていないです。それの中に、星座を見て未来に託せる。私にはそれが至高のものに感じられました。充実した生活に中学時代とは比べられないほど幸福感を感じていたとおもいます。あれは冬頃だったかと思います。自分を取り巻く状況は変化しました。というより、私の心の内が変化していきました。だんだんと私は今まであった人間関係に対してネガティブに、考えるようになります。失うのが怖いということ、維持に必死になっている自己への嫌悪感。それらを感じずにはいられませんでした。失ったとていじめがなければ、中学時代よりは幸せでした。ただ私は卑しいもので、一度手にしたら手放すのが心底怖いのです。好青年と犯罪者では、ポイ捨てした時のイメージが前者のが悪いように、まさに当時の私はそのような状況でした。自殺が頭の中にチラついています。当時の私はため息が増えていたことでしょう。しかし、私はそのまま自殺もせず醜く人間関係に執着しながら生活を続けました。自殺もまた、それを手放す行為に等しいと思ったからでしょう。高校生ともなると周りは心的に成長しています。周りを思いやることができます。だれも口には出しませんが、私のすり減っていく心を察していたと思います。今の私にはそう思えるのです。その様な生活が続き、冬が開ける、やっと春が来る。という時。忘れもしません。三月八日です。パートナーから別れを切り出されました。この時の私の心情を答えなさい。という問いがあったのなら、最悪。以外の満点の回答はないでしょう。ついに私が執着していたものが失われたのです。何も考えられませんでした。いえ、その中でも考えられたものがあります。友達。いいえ、そんなものではありません。自殺です。みなさんは自殺と、調べたことはありますか。検索結果は、一番に心の健康所という電話番号が出てきます。自殺を止めるためでしょうが、当時の私はこの文言をみて、このまま生きていると心が不健康になる。そう思いました。下にスクロールすると楽な自殺方法が出てきました。ここからは早かったです。すぐに煉炭を購入しました。練炭自殺を試みました。失敗です。というより、死ぬことからも私は逃げ出しました。これ以上人間関係を失うことから、楽に逃げようと自殺を選び、自殺の中でも楽に死ねると練炭自殺を選んだはずです。こんな楽なこともできない自分、今際の際に垂らされた蜘蛛の糸に醜くしがみついてしまった私に、嫌悪感を感じざるを得ませんでした。涙がでてきて、その場に座り込みました。自分という存在の小ささを感じたことがある人は多いと思いますが、私も感じていました。周囲に影響を与えられないどころか、自分が生きるか死ぬかすら、自分で決められなかったのですから、自己嫌悪が増していくことでしょう。どんなに辛くてもお腹は減ります。憎いものです。私は立ち上がり、帰路に着きました。ため息が白くなり、空に溶け込んで行ったのを今も覚えています。帰り道にいつも入る、カフェを見つけました。いつもと変わらない押戸を開け入店すると、いつもと変わらないベルが鳴ります。私はいつも友達に合わせてカフェオレ、などを頼みますが、その日はブラックを頼みました。苦いですが私には心地よかったです。ブラックコーヒーに映る顔には、皺が沢山寄っていました。笑顔とも泣き顔ともとれる、そんな醜い顔でした。店を後にするとその日初めて、星が目に入りました。自分が下を向いて歩いていたことに気づきました。そして、私が満たされていた時も、辛かった時も、今も、空は変わっていないのだと感じました。当たり前のことですが、私はその時空に救われました。生きようと決心したのもこの時でした。今思ってもその日の星が一番輝いて見えていたと思います。また、涙がこぼれました。そこからの帰り道では白い息は出ませんでした。
不変 王生 くるみ @re-610
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