呪われた橋
西野ゆう
小さな男の子
蒸し暑い夏の夕方、降り立った旧広島駅の空気は淀んでいた。
瀬戸の夕凪。風が止まり、重い空気が頭上に留まる。
私は
私は記憶と共に
駅前の大通りを右折し、古い商店や、コインパーキングの跡が並ぶ通りを歩く。
左手のコンビニだったのであろう建物の前に建つ、レトロなデザインの街灯には「西国街道」という小さな看板が掲げられていた。
そこから目を前に向けると、ひとつ目の目的の橋が見えた。京橋だ。
私はスマートフォンを取り出し、あるアプリを起動させた。連動したメガネの画面には、カメラが読み込んだ画像が薄く表示されている。カメラを正面に向け、視界とカメラの映像をリンクさせると、アプリの機能が作動した。
拡張現実、ARだ。
江戸時代の風景に姿を変えた、内堀と外堀に挟まれた侍町を歩く。途中大手門をくぐり、外堀を超えて紙屋町へと出た。そこで右手を見るが、まだふたつ目の目的である橋は架けられていなかった。
私はメガネのフレームにあるダイヤルを回した。時が江戸から明治期へと進む。やがて橋が現れたが、形が違う。まだ
私はその橋まで歩いた。石の欄干には「
私は周囲に視線を巡らせた。軍事工場、修練場、病院、産業奨励館。汽車も走り、多くの人がせわしなく歩いている。
ダイヤルを回す。少しずつ、その時を見逃さぬように。
昭和二十年八月六日、午前八時十五分。
私は常世橋の裏を見た。そこは
「やはりここに居ついていたか」
そこには白人の
「エノラ・ゲイ・ティベッツ。聞き覚えはあるかい?」
私はその少年に聞いた。
「母さん……」
少年は答えたと同時に姿を消した。アプリが終了したのだ。
私は相生橋の交差した中央部にいた。
辺りには何もない。かつては絶えず水が流れていた
ただ丁字の呪われた橋が、黒い大地に白く浮かび上がっていた。
「次は太った男だ」
呪われた橋 西野ゆう @ukizm
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