page.19「妹弟子と神絵師」

はじめさんのことは、ドーンッとお任せくださいっ!!

 私が、責任をもって、更生させてみせますのでっ!!

 治して、叩き直してみせますのでっ!! 具体的には、仲音なことさんと一楽たからさんの結婚式までにはっ!!」



 式の終了後。

 別れの間際に、そう胸を張るあやに。

 親族がそろって、深々と頭を下げる。



 一方で。



「えー。

 俺、そんなに悪いこと、言ったかぁ?」



 と、みずからの罪を数えていない父に。

 男女、両家の垣根を超えて、総スカンを届ける。



「……あやさん。

 手加減はらないわ。

 どうぞ、派手に、懲らしめておやり」

「母さんの言う通りだ。

 いや、もう、マジでコテンパンにしてやってください」

「レディーに、かくも嫌われるとは。

 紳士の風上にも置けませんねぇ。

 福子ふくこさんが別れてくれて、本当ほんとうかったです」

い勉強、反面教師になりました。

 あなたみたいにならないよう樂羽このはと二人三脚でやって行きます」

「あら、灯頼ひより

 めずらしく、キメてるじゃない。

 ところで、あやさん。

 よろしければ、あたしにも協力させてください。

 どんなキャラだろうと台詞セリフだろうと、アドリブだろうと、完璧に読み上げてみせますので。

 なんなら、ノーギャラでも構いませんので。

 お代は、その人の泣きっ面で結構なので」

あまり、こういうことは言いたくありませんが。

 内の愛娘を深く苦しめた罰は、甘んじて受けるべきです。

 くれぐれも、そのおもりで」

「(シャァァァァァッ!!)」

「……まったもってスマートじゃないね、この放蕩親父」

「どこが『猛省』したんだよ。

 ちったぁ反省してくれよ、親父」

「しゅ……秀一しゅういちまでぇっ!?

 秀一しゅういちが、グレたぁっ!?」

「いや、デフォだから。

 仮面優等生だから、こいつ」

「『元』だけどな。

 ここまで来たら、流石さすがにもう、へいこらする必要ぇし」



 まさかの口答えにより、本気で消沈、傷心するはじめ

 項垂れたまま、あやの運転する車に乗せられ、新天地へと向かうのだった。



「お騒がせしてしまい、申し訳ありませんでした。

 でも、おかげさまで、助かりました。

 本当ほんとうに、ありがとうございました」

「俺達は、このまま、海外旅行に行くよ。

 なんせ、溜まりに溜まった有給を消化せにゃならねぇんで。

 てわけで、またな、ナルジロさん。

 次は、そっちの番だぜ?」



 言いつつ、拳を出す秀一しゅういち

 一楽たからは、鼻で笑いそうになる。



「お前といい、あやさんといい。

 なんで、そこまでせっつく、がっつくかねぇ」



 などと文句を言いながらも、コツンと合わせ。

 一楽たからたちは、新婚夫婦を見送った。



 波乱続きの結婚式も、どうにか終わり。

 はじめの禊も、多少なりとも済み。

 一楽たからの元に、平和な日常が舞い戻った。



 それから、数日後。

 一楽たからは母校、『はなふさ高校』へと来ていた。



「すまないな、世城せぎ

 態々わざわざ、文芸部の講師を勤めさせてしまって」

「平気ですよ。

 ここ、家から歩いてぐですし。

 むしろ、助かりました。

 さいわい、他の仕事にも有り付けこそすれども。

 今は、ジャンジャン稼いで、遅れを取り戻したい所だったので」

「……ふむ。

 そこはかとなく、イチャラブの波動を感じるな!!」

「……相変わらずですね、庵野田あんのだ先生」



 現に、プロポーズをて。

 仲音なことは正式に、元・元カノとなったが。

 高校時代の担任が楽しそうなので、なによりだった。



「ところで、先生。

 今日から俺の教え子になる生徒ってのは?」

「聞いて驚け。

 今、売り出し中の姉妹コンビ、『鳴戸なると 一世わんぜ』だ」

「……なんですか?

 その、ジャン◯のラーメン絡みの名前」

「さてな。

 本人達に聞け。

 私には、かたくなに教えてくれなんだ。

 なんでも、『会えば分かる』らしいぞ」

「……さいですか」



 なんというか。

 エンカウント前から、そこはかとなく、厄介そうな香りが漂っているが。

 恩師から頼まれたビジネスとなれば、二重の意味で、無下むげには出来できない。



 ところで、先生といえば。



「そもそも、先生。

 なんで、俺に白羽の矢が?

 現国の教師だし、先生の方が適任なんじゃあ?」

生憎あいにく、門外漢のジャンルだったんだ。

 私の妹は、余裕で履修範囲内だろうがな」

「……なんか、さーせん」



 なんく真相が見て取れて。

 一楽たからは、口をつぐんだ。



 つまり、アレか?

 自分達の関係までセットで、百合営業しようと?

 最近は、こっちにまで、その波が来たかぁ。

 喜ばしいんだか、悲しいんだか。



 などと考えつつ、文芸部に入り。

 中にた二人を見。

 一楽たからは、絶句した。



「せ、先生……。

 お疲れ様、です……」

「ご無沙汰、先生。

 これから、よろしくね」



 ぎこちなさそうに肩をすぼめる、樂羽このは。 

 慣れ親しんだ調子で腰掛ける、月星つくし

 


 てっきり、海外にるとばかり踏んでいた親戚が。

 こんな身近で、現れようとは。

 流石さすが一楽たからも、計算外である。



「こ、樂羽このはさんっ!?

 それに、だい先生せんせいっ!?

 なんで、ここにっ!?」

「決まってるでしょ。

 二人は今、新婚旅行中。

 私達が付いて行くのはナンセンス。

 だから、日本に残ったの。

 ついでに、こっちにスマートに引っ越して来たの。

 なんか、樂羽このはが好かれてたって話だし。

 てなわけで、先生。

 今日から、またご厄介になるよ。

 今度は、私も」

「で、です……」

「『です』って……。

 てか、ちょっと待って。

 まさか、『鳴戸なると一世わんぜ』って」

「私達のペンネーム。

 先生、気付きづくの遅ぎ。

 普通、察しない?

 あれだけ父さんに『ナルジロさん』って呼ばれてたら。

 それに、世城せぎの共通項、『一』も入ってるんだし」

「あー……。

 そういや、そんな感じだったっけ……。

 馴染みぎてて、忘れてたわ……」



 秀一しゅういちの、一楽たからへの『ナルジロさん』呼び。

 某うずまく忍者が足繁く通うラーメン屋の店名と、一楽たからの漢字が一致していたこと

 そして、一楽たからが『次男』だからと、子供の頃に付けられ。

 今もなお、続いていた名前。



 にしても、である。

 まさか今度は、それを、義子ぎしに使われようとは。



「……ん?」



 やにわに、いやな予感を覚える一楽たから

 


 月星つくしが、関わっている。

 ということ、は……!?



「……おい……!!

 まさか、あんた……!?」

「その通りっ!!

peeakピク-tureチャー』だよっ!!

 ボクがアレンジして、樂羽このはがイラスト付けて、試しにコンテストに応募したら受賞、書籍化決まったんだ!!」

「(ペカーッ)」

なにしとるん!?

 いや、本当ホントなにしとるん!?

 あんたっ!!」

「……く分からんが。

 私は、そろそろおいとまする。

 あとは任せたぞ、世城せぎ

 節度は、守れよ?」

「ちょ……!?

 先生せんせぇ!?」

「私達の先生は、あなたでしょ、一楽たからさん」



 カオスな雰囲気を感じ、そそくさと逃げる担任。

 止めようとするも、月星つくしに羽交い締めにされる一楽たから

 思わず、一楽たからは床をタップし、ギブアップを表明する。



「それはそうと。

 月星つくしちゃん。

 それに、一楽たからさん」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……。

 


 ただならぬオーラを捉え、ビクつく二人。



 気配の先にたのは、樂羽このは

 ……ただし、何故なぜか逆鱗モードの。



「……どういうことかなぁ。

 なんで、いつの間に。

 そんなに、仲良くなれてるのかなぁ。

 私を、差し置いて。

 私が、一番いちばん弟子なのに。

 月星つくしちゃんは、妹弟子なのに。

 私……今まで先生に、あれだけ尽くしてたのにっ!!

 あんなに苦労して、やっとの思いで、渾身のお料理でっ!!

 ようやく、先生を、陥落させたのにっ!!」

「ぎゃー!!」



 6話の伏線。

 回収、完了。



 不覚にも樂羽このはの怒りを買い。

 正座で、お折檻を食らう一楽たから月星つくし



 一楽たからは、前言撤回せざるを得なくなった。

 彼の日常は、まだまだ、平穏とは程遠いらしい。

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