album.1「樂羽」

single.1「ヘヤリーVS壁」

 世城せぎ邸に到着した樂羽このは

 しかし、予定していた時刻より大分、早く。



 彼のために、簡単な料理を進めても、まだ余る。

 お昼時と言うには、些か先走っていた。



 かといって、彼の部屋に突撃するのも、非常識。

 向こうが、樂羽このはを知っているとも限らない。



 そもそも。

 不法侵入で、通報されたら?

 そこまで行かずとも、彼に拒否られたら?

 


 その未来を想像し、ガクブルする樂羽このは

 が、直ぐに思い直し。

 なんとかしようと、ガッツポーズ、フンスフンスする。



 そこで、樂羽このはは考えた。

 ならば、彼と自分との間にそびえるだろう、壁を壊してしまおうと。

 丁度、GT◯みたいに。



 すでにお婆さんからは、「我が家だと思ってくつろいで、好きに暮らしてくれてい」と、言質をもらっている。

 となれば、いつも通り、やらせてもらおう。



 そんなわけで。

 樂羽このはは現在、キッチンと洗面所の仕切り。

 すなわち、壁の前に立っている。



「〜♪」



 ハミングしながら、4次元バッグのヨジーを漁る樂羽このは

 取り出したるは、月星つくしからの誕プレにして、作業キット。

 


 凄い、充実のラインナップ、このフィット感、それに軽い。

 と、そんな言葉と共に、智慧のプリキュ◯すら魅了したアイテム。



「たらららーたらー。

 でんどーどりるー」



 猫型ロボットの真似マネをしつつ、ドリルを取り出す樂羽このは

 続けてゴーグルを装着し、床に膝をつき、お辞儀をする。



「お初に仕留めにかります。

 日明たちもり 樂羽このはと申します。

 お陰様で先日、16歳になりました。

 これまで見守りくださり、ありがとうございます。

 あなた様のおかげで、世城せぎ家は、そこそこ家内安全に過ごせた方だと感謝しております。

 それはそうと、なるべく傷付きずつかない、痛くないよう、尽力は致しますが。

 先生との距離を、少しでも縮めるべく。

 これより、あなた様を、盛大に、木っ端微塵に、完膚無きまでに壊させて頂きます。

 不束者ふつつかものではありますが。

 何卒なにとぞよろしくお願い致します」



 ずは、挨拶。

 壁相手とはいえ、礼儀作法を欠かすわけにはいかないのである。



 余談だが。

 樂羽このはも、一楽たからよろしく、一人だと、割とおしゃべり。

 そして、サンタクロースばりに、く天然ボケを配布するタイプである。



「それでは早速ですが。

 一番いちばん不肖ふしょう日明たちもり 樂羽このは

 僭越せんえつながら作詞、斉唱せいしょうさせて頂きます。

 お聴きください。

 ……『ドレミの穿うがち』」



 胸に手を当て、目を閉じ。

 樂羽このはは、笑顔で、体を左右に揺らし始める。



〜は『〜リル』、『うくつー』〜♪

 〜、『モネード』、ティ〜♪

 〜は『〜ンチ』〜のミ〜♪

 は『暖かい』〜♪

 〜、『マイティ』、『チェ〜ン〜』♪

 〜、『ンプ』、『イタ〜』♪

 は、『景島』〜♪

 さぁ、う〜が〜ち〜ま〜しょ〜♪」



 歌い終え、セルフ拍手をする樂羽このは

 そのまま、次のプログラムに移行する。



「では、次に、寸劇。

 タイトルは……『恋するカベさん、レーコさん』」

 


 どんなことでも、楽しんだもん勝ち。

 どうせなら、愉快にやりたい。



 そんなわけで、樂羽このはは一人芝居を開始する。



「や……止めてくれぇ……。

 俺が一体、何をしたていうんだぁ……。

 (野太い声)」

「か、カベさーん。

 あー、なんてひどいー。

 (作られた棒読み)」

「この俺と出会たこと

 それが……お前の罪だぜ?

 (貫禄るイケボ)」

「く……!

 ……悪魔めぇ……!

 (野太い声)」

「違うなぁ。

 なんかじゃあ、ない。

 俺は……だ。

 ほら……また、お前の大罪が増えたぞ。

 地獄に滞在し、悔い改めろぉ。

 (貫禄るイケボ)」

「ぐぁー。

 (野太い声)」

「きゃー。

 カベさーん。

 (作られた棒読み)」

「安心しろ、冷蔵庫。

 また、ぐに会えるさ。

 ……地獄でなぁ。

 (貫禄るイケボ)」

「いーやー。

 (作られた棒読み)」

「こうして、悪魔王により、離れ離れとなた壁、冷蔵庫。

 果たして、二人の未来や如何いかに。

 後半へー、続く。

 (地声)」



 寸劇を終え、再度セルフ拍手。

 


 我ながら、会心の出来。

 額に汗を掻きつつ、演技のみならず、立ち位置と髪型、表情まで変えた甲斐かいった。 



 余談だが。

 数分後、冷蔵庫は本当ほんとうに壊した。

 元々、製氷出来できなかったので、発注済みの新しい物が明日、届く予定だったのだ。



 こうして、儀式は無事、完了し。



「お注射ですよー。

 ちょぉと、チクゥとしますねー」


 

 作動したドリルを構え、いざ勝負。

 ピョコピョコしたイメージとは不釣り合なほどに。

 アグレッシブ、豪快に、一気にくり抜いて行く。



 ちなみに型取りは、目算だけで事足りた。

 これも、日頃のDIY経験の賜物である。



「お〜れ〜の、はいっ、ド〜リ〜ル、はいっ♪

 てんを〜、つ〜く〜、ドーリール♪

 かーべ、のーち、こーのーはー♪」



 続いて、肩に何度か当ててから、チェーンソーをスイッチ・オン。

 ノリも首尾もく、リズミカルに壁を切って行く。

 最早、ドリルは関係い。



 マグロの解体染みたパフォーマンスを無観衆で披露しつつ。

 呑気のんきに替え歌なんぞまでセットしている。

 ちなみに、しつこいようだが、すでにドリルは今日の仕事を終えている。



 とんだ大盤振る舞い。

 樂羽このはのファンサが止まらない(なお、無観客)。



 同じ頃。

 起床した一楽たからは、呑気に欠伸あくびなんぞしている。



 同じ「呑気のんき」でも、偉い違いである。

 下で物凄いことになっているのに、BGMで描き消され。

 一楽たからは依然として、悲しいほどに、てんで気付きづいていない。



 もっとも、「このパターンを想定しろ」という方が酷かもしれんが。

 それも、樂羽このはのソロキャンりょくを知らないまま。



「いくわよー。

 (裏声)」



 チェーンソーを片付け。

 同じく、鞄からポテトガンを出し。

 壁に、ダメージを与えてる。



 ダイナマイト……は、流石さすが不味まずい。

 であれば、物理あるのみ。



「お疲れ様でぇす。

 ハンマー入りまぁす。

 ヘイお待ち、よろこんで。

 ちょわー」



 何故なぜかハンマー投げばりに回転し、打ち付ける樂羽このは

 ちなみに、当たったら不味まずいので、すでにテーブルは、片手で持ち上げ移動した。



 にしても、パワフルな少女である。

 一体、彼女のどこが「儚か弱いい」のか。



「お母さん直伝。

 石破天◯、ペガサス流◯、狼牙風◯、紅蓮火◯、◯劇舞荒、激獣タイガ◯、星心大◯、赤龍白虎びゃこ拳、秘奥義」



 本家に忠実のポーズを取りつつ、気合を入れる樂羽このは

 本来であれば投げ込みばりに叫びたいが、先生に気付かれるかもである。

 よって、ブレイブも控え目にしている。



「位置についてー。

 よーい……シュツドーン。

 か〜ら〜の〜、スワリング、ぶちぬキーック」



 ルーティーン、まるで意味し。



 それはそうと。

 クラウチング・スタートの構えを取り、ジャンピング・キックをお見舞する樂羽このは



 夏祭りの屋台ばりに、無音かつ綺麗に、くり抜き。

 樂羽このは自身も、無傷に着地。

 勿論もちろん、瓦礫も埃もし。



 こうして、開通した。

 キッチンから脱衣場までのトンネルが開通した。



「……っ!?

 お、おおおお風呂、丸見えっ……!?

 てか、お家、勝手に壊しちゃた……!?」



 最早、完全に事故現場。

 手遅れにもほどる。



 これ、あれだ!

 涼◯す◯かとか、一部のTLで見たイベント!

 ちょっと、エチィなタイプだ!

 わー、洒落しゃれにならない!

 でも、ちょっとエモい!



 あたふたする樂羽このは

 が、ぐに我を取り戻し。



 えず、急いでカーテンを用意。

 そのまま、カモフラージュする。



 しかし、これでも許されないかもしれない。

 となれば。



美味おいしい、ご飯……!!」



 エプロンとバンダナを付け、髪を束ね。

 手際く、調理を済ませる樂羽このは



 ようやく、本来の、見た目通りの働きをする。

 危うく本末転倒になる所だった。

 


 が、完了し安心したのも束の間。

 背後から、足音が届く。

 


 いよいよ、ご対面である。

 くだんの、先生と。

 


「っ!!」



 と思ったら、また登って行った。

 胸を撫で下ろす間に、中身を取り出し、冷蔵庫をベランダに移動。

 そのまま、同じく壊していき、なにかったかのごとく戻す。



 そこまでして、樂羽このはは一つ、気になること出来できた。

 なにを隠そう、めりこみ心地である。



「お邪魔しまーす……」



 持参した特性スーツに着替え突入、侵入の準備万端。。

 なおも罪悪感に包まれつつ、一礼し早速、壁に埋まる樂羽このは

 繰り返すようだが、今更である。



「おー……」



 ヒンヤリして、中々どうして落ち着く。

 全身を包まれているようで、病み付きになりそうだ。



「棺桶みたぁい」



 彼女なりの、最大限の賛辞である。



はぁら減ったー」



 と、再び足音と声。

 これは、確定演出である。 



 あちらが体内の掃除をしている間に、慌てて抜けようとする樂羽このは

 しかし、シンデレラ・フィットにより、簡単には脱出出来できない。

 忠実、正確に作り過ぎた。



 初対面がこんな形というのは、なんだが。

 こうなった以上、背に腹は替えられない。



 そう決めた樂羽このはは、無我の境地で、胸の前で十字に手を組み。

 そのまま、キッチンに入って来た一楽たからを、しばらく観察し。



 そして、数時間後。

 見事に、赤っ恥を掻くのだった。

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