album.2「仲音」
track.1「稀代の未来の大文豪と、今をときめく実力派声優」
これは、とある過去の1ページ。
その日、
しかし、「映画」とか「ソフビ」とか。
そんな、いつもとは異なる目的で。
それも、ワクワクと程遠く、違う意味でドキドキした状態で。
そもそもの話として。
一人ではなく、二人で。
「
ゲーセンの前のベンチに座りつつ。
またしても、父と母に、結婚を催促されたのである。
それだけなら、いつもの
しかし、今回は、これまでとニュアンスが違う。
なんと、「父が
しかも、こっちの趣味などを筒抜けにし。
あまつさえ、「稀代の大文豪」などと、存分に話を盛った状態で。
なお、それについて
「間違っちゃいないです!!
私、違う意味でも、プレイしたくなりました!!」
と返された。
今日も今日とて人の
果たして、『オトせる』というのはどういう、どっちの意味なのか。
「あれ?
お疲れ様です。
奇遇ですね」
ペンネームで呼ばれ、顔を上げる
の、プライベート差分。
「
お疲れ様です」
「あ、すみません。
今、お忙しいですか?
ひょっとして、ゾーン入ってましたか?
もしかして、プライベートでは一人で
「いえ。
そんな
ただ、どうして、ここに?
俺と違って、お
「ちょっと遠出を。
あ、すいません。
お隣、
立ち話も、
「あ、はい。
どうぞ」
「ありがとうございます。
では、お言葉、ご厚意に甘えて。
失礼します」
確かに、女性側だけ立たせっ放しというのは、アンフェアだし、好ましくない。
そういう
それはそうと、きちんと律儀に一礼する辺り、育ちと性格、印象の良さが滲み出ている。
パーソナルスペース保護の
が、すずずいっと詰められた。
相変わらず、物理的にも距離が近いフレンドリーっ
お
「ちょっと友達に
みたいな感じです。
そう言う、
「俺も同じです。
父のマッサージ師の
「それは大変だ」
「そうなんですよぉ」
「頑張れ、男の子」
「俺もう、アラサーですよ……?」
「大丈夫ですよぉ。
私的にはセンセ、全然アリですよ。
「うわー。
オトされそー」
「オトしちゃうぞー。
そ、そ、園原でーす。がおー」
「いや、『
あと、ひとつとばし恋◯」
口を開け、間延びした声で猛獣みたいなポーズを取り、倒して来て、軽く
口にこそ出さないが、「前戯みたいだな」と、
はたと、そこで
果たして、
「あ、あの……
「はい。
「もしかして、その『友達』って……。
……だったり、します?」
押し倒していた
「ふむ。
まずまずのレコードですね。
先生が、『稀代の大文豪』であるのを、加味しなければ。
まぁでも、将来性は高いとお見受けしますし。
ハーレム主人公ばりに鈍感スキル発揮しなかっただけ、
妖艶に
鞄を
その手を取り、口付けし。
忠誠を誓う騎士、執事の
「試してしまい、申し訳ありません。
実は、最初から全部、一歩通行で知っておりました。
それで、
では、改めまして。
本日、
で活動中の本名、
以後、お見知り置きを。
子猫ちゃん」
「……」
手で覆った顔を上に向け。
「……カッケーの暴力
……男の俺なんて、目じゃねぇよぉ……」
「あははっ。
お褒めに預かり、
次に演じるキャラなので絶賛イメトレ、役作り中だったんですよ。
私、何事も肩に力、形から入るタイプでして。
やっぱ、こういうのは、日々の鍛錬、積み重ねだというのが、持論なんですよ。
じゃないと、フィクション、非日常的な世界で、日常感を出せず、
なので、普段から意識して、メンタルと口調、表情と記憶をコントロールしてるんですよ。
髪型や髪色はウイッグで変えられるし。
その結果、ご覧の通り、キャラ変シームレスになりました。
で、どうです?
個別ルート、選びたくなりました?」
「ヘビロテしたくなりました……」
「やたー。
でも、他のヒロインも攻略してください。
手前味噌ですけど、粒揃いなので」
「とりま、社名とタイトルと役名、教えて
「
あ、でもこれ、未発表、部外秘だった。
ま、センセなら
同業の
「すんません、やっぱ
「えー、ヘタレー」
「
「物作りは噂になってナンボだわなので」
「霞ヶ◯先輩、
演技力の高さで、完璧エミュしないでぇ……」
「オトしちゃうぞー」
「ねぇあんた俺を今日どうしたいの
「控え目に言って、召し上がりたいです」
「『控え目』……?」
「具体的に言うと、色んな持ちキャラになって、色んな
「もう結構っ!!」
「えー、ヘタレー」
「理不尽の極みっ!!」
「私に、あんな要求して来た
ぐすっ……
私なんて所詮、使い捨てなんですね……?
制服じゃなくなったら、ポイしちゃうんですね……」
「ゲームでねフィクションでね設定でねシナリオでねストーリーでね間接的な話でねぇ!?」
人聞き、心臓に悪過ぎる泣き
周囲からの、刺す
しかも、声を若がえらせてるのは
見た目も充分、高校生で通じる、匹敵するレベル。
「とりま、場所変えましょっか。
人目に付きますし。
もっと開けた所にしましょうよ。
センセ、
ギャラ入ったばっかなんで、奢りますよ?
センセの所属する会社、オール・オア・ナッシング方式。
月払いとかじゃなかったですもんね」
「バーガー……」
「かしこまです。
じゃ、テイクアウト行きましょっか。
あ、私はサラダのみですけど、お気になさらずです」
「いや、するわっ、めっさ気にするわ、気にしかならねぇわっ!
頼むから、主菜も食べてくれっ!」
「えー?
まぁ、センセとなら、
倹約家ってだけで、別にベジタリアンじゃないし」
話し合いの
こうして二人は、プライベートで出会い、再会し。
後に同居人、夫婦となるのだった。
「へー。
じゃあ、ボクの番台さ◯の主人公から取ったんですねー。
ペンネーム」
「ええ。
中学の時に、どハマりしちゃって。
その結果、見ての通り、すっかり開発されて。
お恥ずかしい
「
隠れた名作ですし。
ここ今、私達しか
数分後。
二人は、
先程は、「開けた場所」という
気付けば、密閉空間だった。
まぁ確かに、
にしたって、大人の女性が、大人の男性を車内に連れ込むのは、
まだ再会したばかりとはいえ、仮にもお見合い相手な
といっても、
今日こうして会っているのも、「共通の知人による仲立ち」という大義名分も
「そういえば
「だって、思春期のバイブルじゃないですかっ!
肌色とピンク多目だしっ!
「分かるっ!
あとは3巻の、
「そうっ!
んで最終巻で、嫉妬で
からの、謝罪と、一言だけってのが、エモエモのエモですよねっ!
しかもサブタイが、『ONE STEP』って!
もう、もう、もうっ……最高かよっ!!」
「そうなんだよっ!
しかも控えが、初デート回っ!
それも、苦手なのにホラー映画言って、安い反応する所とかっ!
照れながら、『好きな人』って言ってる所とかっ!
手を握るより先にキスする所とかっ!」
「それっ!
しかも、その
アン、マジGJっ!!
あそこだけ、もう、何回読み返したか分からないっ!!
今でも電子版、スマホに入れてるっ!」
「俺もっ!
あそこの、ドギマギしてる
前振りのコマとか
願わくば、見開きで
「てか、あれ、桜子さん、経験済み!?
それとも、初体験っ!?
センセ、どっち派!?」
「うわ、そこ聞く、聞いちゃう、ハッキリさせちゃう!?
禁断の二択じゃん!?
解釈違い起こしたら、どーすんだよっ!?」
「今更じゃん!
てか、ここまで来たら、聞く一択じゃん!」
「さては、最初から、その
俺とTL談義する
「そんなの、どうでも
早く教えてよ、センセ!
どうせ、そっちから私には持ち出せなかっただろうし!
ほぼ確実に、ハラスメント認定食らうしっ!」
「はい、確定っ!
あと、経験済みっ!」
「だよねー!
やっぱ、そうだよねー!
だって、
うひゃー!
「でも、
けど、経験済みってのも、捨て
「いや、捨ててるじゃん!
だからこそ、経験済みなんじゃん!」
「うわ、マジだっ!
一本取られたっ!」
「はい、
「俺もっ!」
「
「以下同文っ!!
あーもー、
「
超美麗っ!!」
男子校みたいなノリで、男子みたいに
異性の前で、堂々とTLを読み、熱く語り合う男女。
そんな姿が、
「なぁ。
これ、
俺達、お見合いみたいな感じで、会ってた
熱が冷めた頃。
「
別に。
こっちのがお互い、気兼ねしなくて済むし。
それに、ホッとする恋愛だってアリでしょ」
「柏木◯紀のショートケーキ」
「あははっ!
センセ、
こりゃ今度、
今日、すっごい楽しめたし。
次の仕事に向けて、最高の息抜きになったよ」
「俺も。
ここまで話せる相手、今まで
しかも、異性だなんて」
「関係
それ、ある意味、理想、最強の、男女の在り方じゃん」
「だな。
俺も、満喫したよ。
一時は、どーなる
相手が、
「
センセで、
「ひっでー!」
「そう言わさんなって。
女として最低限、自衛しただけだって。
それに、お詫びなら、もう食べたでしょ?」
「これ、そういう
きっちりしてるなぁ、
「うーうん。
今、適当に後付けしたー」
「こ、こんのぉっ……!!」
「うははっ!
センセ、
見てて飽きないってーか。
いやー。そういう意味でも、満喫したなぁ。
「貴っ様ぁっ!!」
ケタケタと笑い、涙すら流し、軽くハンドルを叩く
類は友を呼ぶとでも言うべきか。
明け透けな人間が、また別の明け透け人間を召喚、紹介したというべきか。
真偽はどうあれ。
「ところでさ、先生。
ここらで、ちょっとゲームしない?」
「ゲーム?
どんな?」
落ち着きを取り戻した
彼女は、ミステリアスに口角を上げ、続ける。
「ルールは簡単。
その由来を、一発で与えられるか
ね? 簡単でしょ?」
ここに来たばかりの
別段、難しくはない。
しかし。
これまでの流れからして、
この人が、それだけで満足する
そして、彼女の趣味趣向からして。
「罰ゲームの内容は?」
「
慧眼でらっしゃる。
話が早いね」
にじり寄り、
その両目を、怪しくギラつかせ。
獰猛な色欲を、チラつかせる。
「もし正解、合格だったら。
いい所に、ご招待してあげる」
自身の首に手を当て、ボタンを開ける
誘っているのは、明らかだった。
……などでは、ない。
「……どういう、
「
質問攻めして来るだろう
それに、さ……」
意味深に
鬼気迫る表情で、
「……誰でも
別に
家事は一通り
寂しかったり、悔しかったり、苦しかったり、困ったりもしていない。
自分のリビドーだって、制御
けど、さ。
こういう業界に、こういう仕事で生き残ってるって
あれだけセンセと、TLトーク繰り広げられたって
そういうのに興味、
あそこまで意気投合したセンセとなら、
結婚とか、子供とかは、まだ分からないけどさ。
そういう未来、ルートも、楽しめそうだなって。
てか
「……だったら。
俺が外したら、どうするんだよ」
「決まってるじゃん。
鋭感なセンセは、
てか、PCゲーム作ってる以上、知らない
私のルーツを一度も耳に、目にした
つまり、これは、その実、『遠回しな意思表示』でしかないんだよ」
その通りだった。
「単純な選択肢だよ。
羽目と、爆弾。
センセは、どっちを外したいのかって話だよ」
「……」
そんなの。
考えるまでも、
そう。
ちょうど、この人みたいな。
「……『風◯《◯ざね》』さんだろ……。
いつだったか、『憧れてる』って公言してた……。
wik◯にもシブにも、書いてた……」
「……思った通り。
センセ、やっぱムッツリだったね。
ヒバ、ヘタレ卒業。
「
あーあ……知らねーぞぉ、俺ぁ。
大先輩を、こんな
「あー、平気、平気。
どうせバレやしないでしょ、はっ。
それより、ほら。
早くシートベルトしなよ、『ガッくん』」
「『ガッくん』誰、俺っ!?」
「他に誰が
今日から二人の愛の巣にランク・アップした、
あー
今はまだ、『お試し期間』って
もしかしたら、実際に生活してみたら、コレジャナイかもだからさぁ。
っても
一生、養い尽くす、飼い慣らす腹だけど」
「情・報・量っ!!
てか、え!?
いきなり、同棲!?
俺の私物は!?」
「平気、平気ー。
こうなるって確信してたから、先んじて引越し屋さんにオーダーしといたから。
到着する頃には、運搬済みだよ。
あと管理人さんにも、退去する旨を伝えてあるから」
「こ、この、策士がぁっ!!」
「いんやー、女で
お
君を堂々と、スムーズに拉致れる、テイクアウト、テイクオーバー
男だったら、こうはいかなかったよねー。
ともしなくても犯罪、ドン引きものだぁっはっはー」
「貴っ様ぁぁぁぁぁっ!!」
こんな調子で、
高速に乗る頃には、普通の会話に戻れていて。
到着後、二人で
一緒に
夜になる頃には。
「
俺、そろそろお風呂入って来るね」
「……嘘
「なして!?」
「『トイレ以外、一緒』って言った。
なのに、ガッくん、破った。
嘘
いーけないんだ、ガッくんだー」
「えっとぉ……
もしかして、
「……違うもん。
ガッくんにしか、酔ってないもん。
ただ……寂しい、だけだもん」
「あなた
「……ガッくんの
君が、
挙げ句の果てに、女を再教育したからじゃん」
「いや、まだキスまでしかしてませんけどぉ!?」
「
離れたくないよぉ。
うぇーん、うぇーん……」
「ははーん。
さては、また演技だな?
単に、風呂場でも俺を
「ちっ。
もう少しで、押せたのに。
君のような勘のいいガッくんは嫌いだよ」
「おい、ごら。
てか、勘の悪い俺も俺でしかないし、本来なら嫌われる要素とか皆無だろ、それ」
「しょーがないなぁ。
ちょっと、体借りるねー。
いちかー、にのー、みくっと」
「そんな、間延びした調子で体貸す人も借りる人も、
て、ちょっ……!?
な、ななな、
な、
あと、そっち風呂場、風呂場ぁっ!!」
「ぐぇっへっへっへっ……。
さ、さささ、さぁ……。
ちょと、脱いでみようか、お嬢ちゃん……」
「や、やめ、
せめて、着替え……着替えだけ、用意させてぇっ!!」
「大丈夫。
ガッくんの裸なら、
目に入れても、痛くない」
「お・れ・のっ、問題っ!!
あと、めっさ
といった具合に、実に自然な流れで、一緒に入浴し。
しかも
そのまま朝チュンし、改めて挨拶を済ませた。
そうして、二人の新生活が始まり。
後日、
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