album.2「仲音」

track.1「稀代の未来の大文豪と、今をときめく実力派声優」

 これは、とある過去の1ページ。



 その日、一楽たからはショッピングモールにた。

 しかし、「映画」とか「ソフビ」とか。

 そんな、いつもとは異なる目的で。

 それも、ワクワクと程遠く、違う意味でドキドキした状態で。


 

 そもそもの話として。

 一人ではなく、二人で。



なんで、こんなことに……」



 ゲーセンの前のベンチに座りつつ。

 一楽たからは、溜息ためいきこぼし傷心、消沈する。



 けは、なんことい。

 またしても、父と母に、結婚を催促されたのである。



 それだけなら、いつものこと

 しかし、今回は、これまでとニュアンスが違う。

 なんと、「父がねんごろのマッサージ師に、女性の友人を紹介させた」というのだ。 



 しかも、こっちの趣味などを筒抜けにし。

 あまつさえ、「稀代の大文豪」などと、存分に話を盛った状態で。

 


 なお、それについて仲人なこうど斉悟さいご あやに尋ねたら。

「間違っちゃいないです!!

 一楽たからさんは、未来の大文豪なので!!

 一楽たからさんの脚本、超エロ、激エモなので!!

 私、違う意味でも、プレイしたくなりました!!」

 と返された。


 

 今日も今日とて人のい、明け透け、元気なマッサージ師である。



 ちなみに、肝心のお相手はというと。

 あやの話によると、「歌ってオトせる実力派声優」とのこと

 果たして、『オトせる』というのはどういう、どっちの意味なのか。



「あれ?

 望月もちづきセンセ?

 お疲れ様です。

 奇遇ですね」



 ペンネームで呼ばれ、顔を上げる一楽たから

 気付きづけば目の前には、ちょくちょく仕事で共演する、今をときめくPC声優、介橋かいばし 風暖かのん

 の、プライベート差分。



風暖かのんさん?

 お疲れ様です」

「あ、すみません。

 今、お忙しいですか?

 ひょっとして、ゾーン入ってましたか?

 あるいは、センセ。

 もしかして、プライベートでは一人でたいタイプでしたか?」

「いえ。

 そんなこといし、平気です。

 ただ、どうして、ここに?

 俺と違って、おまい、石巻こっちじゃないですよね?」

「ちょっと遠出を。

 あ、すいません。

 お隣、いですか?

 立ち話も、なんですし」

「あ、はい。

 どうぞ」

「ありがとうございます。

 では、お言葉、ご厚意に甘えて。

 失礼します」



 確かに、女性側だけ立たせっ放しというのは、アンフェアだし、好ましくない。

 そういうわけで、風暖かのんにも座ってもらう。

 それはそうと、きちんと律儀に一礼する辺り、育ちと性格、印象の良さが滲み出ている。



 パーソナルスペース保護のため、若干、反射的に、一楽たからは距離を取る。

 が、すずずいっと詰められた。

 相変わらず、物理的にも距離が近いフレンドリーっり。

 おかげ一楽たからは、思わず目を逸らした。



「ちょっと友達に斡旋あっせんされて、お見合い? デート?

 みたいな感じです。

 そう言う、望月もちづきセンセは?」

「俺も同じです。

 父のマッサージ師の伝手つてで、女性と会うことになってて」

「それは大変だ」

「そうなんですよぉ」

「頑張れ、男の子」

「俺もう、アラサーですよ……?」

「大丈夫ですよぉ。

 私的にはセンセ、全然アリですよ。

 なんか、ズブズブに、どん底まで世話したくなっちゃう駄目ダメさ加減で」

「うわー。

 オトされそー」

「オトしちゃうぞー。

 そ、そ、園原でーす。がおー」

「いや、『介橋かいばし』でしょ、あなた。

 あと、ひとつとばし恋◯」



 口を開け、間延びした声で猛獣みたいなポーズを取り、倒して来て、軽くくすぐって来る風暖かのん

 口にこそ出さないが、「前戯みたいだな」と、一楽たからは思った。



 はたと、そこで一楽たから気付きづいた。

 果たして、本当ほんとうなのかと。



「あ、あの……風暖かのんさん?」

「はい。

 なんでしょうか? 望月もちづきセンセ」

「もしかして、その『友達』って……。

 すこぶるシンプルで、常に『!』マーク付けてる、マッサージ師さん。

 ……だったり、します?」



 押し倒していた一楽たからから離れ、再び横に腰掛け。

 風暖かのんは、スマホのストップウォッチを止めた。



「ふむ。

 まずまずのレコードですね。

 先生が、『稀代の大文豪』であるのを、加味しなければ。

 まぁでも、将来性は高いとお見受けしますし。

 あやの欲目が多分に含まれてるので、お咎めし。

 ハーレム主人公ばりに鈍感スキル発揮しなかっただけ、しと致しましょう」



 妖艶に微笑ほほえみ。

 鞄を椅子いすに置き、一楽たからの前に移動し。

 その手を取り、口付けし。

 忠誠を誓う騎士、執事のように、風暖かのんは言った。



「試してしまい、申し訳ありません。

 実は、最初から全部、一歩通行で知っておりました。

 それで、しばらく貴殿を観察させて頂きました。

 では、改めまして。

 本日、あや殿のめいにより、貴殿の下に派遣された、『歌ってオトせる実力派声優』介橋かいばし 風暖かのん

 で活動中の本名、瀬良せら 仲音なことと申します。

 以後、お見知り置きを。

 子猫ちゃん」

「……」



 手で覆った顔を上に向け。

 一楽たからは、思わず感想を吐露する。



「……カッケーの暴力ぎる……

 ……男の俺なんて、目じゃねぇよぉ……」

「あははっ。

 お褒めに預かり、さいわいです。

 次に演じるキャラなので絶賛イメトレ、役作り中だったんですよ。

 私、何事も肩に力、形から入るタイプでして。

 やっぱ、こういうのは、日々の鍛錬、積み重ねだというのが、持論なんですよ。

 じゃないと、フィクション、非日常的な世界で、日常感を出せず、違和感いわかんしかもたらせない気がして。

 なので、普段から意識して、メンタルと口調、表情と記憶をコントロールしてるんですよ。

 髪型や髪色はウイッグで変えられるし。

 なんなら、イメージカラーに沿って、ネイルやペディキュアもしてるんです。

 その結果、ご覧の通り、キャラ変シームレスになりました。

 で、どうです? 望月もちづきセンセ。

 個別ルート、選びたくなりました?」

「ヘビロテしたくなりました……」

「やたー。

 でも、他のヒロインも攻略してください。

 手前味噌ですけど、粒揃いなので」

「とりま、社名とタイトルと役名、教えてもらって、っすか……?」

勿論もちろんです。

 あ、でもこれ、未発表、部外秘だった。

 ま、センセならっか。

 同業のよしみってことで」

「すんません、やっぱいです、ご遠慮お引き取り願います」

「えー、ヘタレー」

うるせぇよ、じゃあんたはスキャンダル物ともしないってのかよ」

「物作りは噂になってナンボだわなので」

「霞ヶ◯先輩、めてぇ……。

 演技力の高さで、完璧エミュしないでぇ……」

「オトしちゃうぞー」

「ねぇあんた俺を今日どうしたいの本当ホント

「控え目に言って、召し上がりたいです」

「『控え目』……?」

「具体的に言うと、色んな持ちキャラになって、色んな台詞セリフをセルフ再現して、色んなプレイして、センセにシナリオ起こさせて、なんならアドリブさせて」

「もう結構っ!!」

「えー、ヘタレー」

「理不尽の極みっ!!」

「私に、あんな要求して来たくせに……。

 ぐすっ……ひどいです、先生……。

 私なんて所詮、使い捨てなんですね……?

 制服じゃなくなったら、ポイしちゃうんですね……」

「ゲームでねフィクションでね設定でねシナリオでねストーリーでね間接的な話でねぇ!?」



 人聞き、心臓に悪過ぎる泣き真似マネを始める仲音なこと

 周囲からの、刺すような視線が痛い。



 しかも、声を若がえらせてるのは勿論もちろんこと

 見た目も充分、高校生で通じる、匹敵するレベル。

 しつに反して余計に、たちが悪い。



「とりま、場所変えましょっか。

 人目に付きますし。

 もっと開けた所にしましょうよ。

 センセ、なに食べたいです?

 ギャラ入ったばっかなんで、奢りますよ?

 センセの所属する会社、オール・オア・ナッシング方式。

 月払いとかじゃなかったですもんね」

「バーガー……」

「かしこまです。

 じゃ、テイクアウト行きましょっか。

 あ、私はサラダのみですけど、お気になさらずです」

「いや、するわっ、めっさ気にするわ、気にしかならねぇわっ!

 頼むから、主菜も食べてくれっ!」

「えー?

 まぁ、センセとなら、っかなぁ。

 倹約家ってだけで、別にベジタリアンじゃないし」



 話し合いのすえ、ファストフードの調達へ向かう二人。



 こうして二人は、プライベートで出会い、再会し。

 後に同居人、夫婦となるのだった。



「へー。

 じゃあ、ボクの番台さ◯の主人公から取ったんですねー。

 ペンネーム」

「ええ。

 中学の時に、どハマりしちゃって。

 その結果、見ての通り、すっかり開発されて。

 お恥ずかしいことに今、この業界に身を投じ、置いています」

いじゃないですか。

 なにも恥ずべきことじゃないですよ。

 隠れた名作ですし。

 ここ今、私達しかないですし」



 数分後。

 二人は、仲音なことの車の中にた。



 先程は、「開けた場所」ということで合致していたが。

 気付けば、密閉空間だった。



 まぁ確かに、いぶかしまれる心配はいのだが。

 にしたって、大人の女性が、大人の男性を車内に連れ込むのは、如何いかがなものか。

 まだ再会したばかりとはいえ、仮にもお見合い相手なわけだし。 



 といっても、すでに旧知の同業だし。

 今日こうして会っているのも、「共通の知人による仲立ち」という大義名分もる。

 


 なにより、逆。

 仲音なことではなく一楽たからが、みずからの車に彼女を案内するより余程よほど、健全である。

 いく一楽たからが今日、マイカーで来ていたとしても。

 


「そういえば風暖かのんさん、ご存知だったんですね」

「だって、思春期のバイブルじゃないですかっ!

 肌色とピンク多目だしっ!

 たとえば、2巻のポロリする所とかっ!」

「分かるっ!

 あとは3巻の、逆上のぼせてからの告白とかっ!」

「そうっ!

 んで最終巻で、嫉妬でそろって合コン行って、連れ出して!

 からの、謝罪と、一言だけってのが、エモエモのエモですよねっ!

 なんかこう、『初々ういういしさと通じ合ってる感のハーモニー』がっ!

 しかもサブタイが、『ONE STEP』って!

 もう、もう、もうっ……最高かよっ!!」

「そうなんだよっ!

 しかも控えが、初デート回っ!

 それも、苦手なのにホラー映画言って、安い反応する所とかっ!

 照れながら、『好きな人』って言ってる所とかっ!

 手を握るより先にキスする所とかっ!」

「それっ!

 しかも、そのあとの、初旅行っ!!

 アン、マジGJっ!!

 あそこだけ、もう、何回読み返したか分からないっ!!

 今でも電子版、スマホに入れてるっ!」

「俺もっ!

 あそこの、ドギマギしてる望月もちづきを落ち着かせようと、桜子さんがキスする所とかっ!

 前振りのコマとかいからこそ、不意打ちってーかさぁ!

 願わくば、見開きでしかったっ!!」

「てか、あれ、桜子さん、経験済み!?

 それとも、初体験っ!?

 センセ、どっち派!?」

「うわ、そこ聞く、聞いちゃう、ハッキリさせちゃう!?

 禁断の二択じゃん!?

 解釈違い起こしたら、どーすんだよっ!?」

「今更じゃん!

 さっきから私達、アダルト話しかしてないしっ!

 てか、ここまで来たら、聞く一択じゃん!」

「さては、最初から、そのもりだったな!?

 俺とTL談義するために、ここに誘ったな!?」

「そんなの、どうでもいじゃん!

 早く教えてよ、センセ!

 どうせ、そっちから私には持ち出せなかっただろうし!

 ほぼ確実に、ハラスメント認定食らうしっ!」

「はい、確定っ!

 あと、経験済みっ!」

「だよねー!

 やっぱ、そうだよねー!

 だって、誤魔化ごまかされてたけど、血ぃ出てなかったしー!

 うひゃー! なんか、燃えて来たー!」

「でも、出来できれば未経験でいてしかったなー!

 けど、経験済みってのも、捨てがたいってか、一周して奥ゆかしんだよなー!」

「いや、捨ててるじゃん!

 だからこそ、経験済みなんじゃん!」

「うわ、マジだっ!

 一本取られたっ!」

「はい、あたしの勝っちー!

 ついでに、ちょっと確認するっ!」

「俺もっ!」

なんなら、妄◯メガネも見るっ!!」

「以下同文っ!!

 あーもー、なんでカラー版、2巻までしかんだよぉっ!!」

本当ホントそれっ!

 超美麗っ!!」



 男子校みたいなノリで、男子みたいに一楽たからの肩を叩き。

 異性の前で、堂々とTLを読み、熱く語り合う男女。



 そんな姿が、居心地いごこちくて。

 気付きづけば、タメ口にすらなってて。

 一楽たからは、思わず笑ってしまった。



「なぁ。

 これ、本当ホントにデートか?

 俺達、お見合いみたいな感じで、会ってたはずだろ?」



 熱が冷めた頃。

 一楽たからが、もっともな指摘をする。

 仲音なことは、伸びをしつつ、まったりと答える。 



んじゃない?

 別に。

 こっちのがお互い、気兼ねしなくて済むし。

 それに、ホッとする恋愛だってアリでしょ」

「柏木◯紀のショートケーキ」

「あははっ!

 センセ、本当ホント趣味と気が合うね。

 こりゃ今度、あやなにか奢らないとだなぁ。

 今日、すっごい楽しめたし。

 次の仕事に向けて、最高の息抜きになったよ」

「俺も。

 ここまで話せる相手、今までなかったからさ。

 しかも、異性だなんて」

「関係いって、そんなの。

 ようは、『性別って概念、固定観念さえ超越した、気の置けない間柄』ってことじゃん。

 それ、ある意味、理想、最強の、男女の在り方じゃん」

「だな。

 俺も、満喫したよ。

 一時は、どーなることかと思ったけどさ。

 相手が、風暖かのんさんでかったよ」

あたしも。

 センセで、かった。

 もっとも、あたしは最初から全部、熟知、吟味済みだったわけだけど」

「ひっでー!」

「そう言わさんなって。

 女として最低限、自衛しただけだって。

 それに、お詫びなら、もう食べたでしょ?」

「これ、そういうことだったの!?

 きっちりしてるなぁ、本当ホント

「うーうん。

 今、適当に後付けしたー」

「こ、こんのぉっ……!!」

「うははっ!

 センセ、本当ホントいリアクションするよねー。

 見てて飽きないってーか。

 あたし嗜虐しぎゃく心が、ギュインギュインに刺激されるってーかぁ。

 いやー。そういう意味でも、満喫したなぁ。

 本当ホント、ごっそーさん、センセ」

「貴っ様ぁっ!!」



 ケタケタと笑い、涙すら流し、軽くハンドルを叩く仲音なこと

 


 類は友を呼ぶとでも言うべきか。

 明け透けな人間が、また別の明け透け人間を召喚、紹介したというべきか。



 真偽はどうあれ。

 なんだかんだで、一楽たからも楽しんでいる。



「ところでさ、先生。

 ここらで、ちょっとゲームしない?」

「ゲーム?

 どんな?」



 落ち着きを取り戻した仲音なことが、持ち掛けてくる。

 彼女は、ミステリアスに口角を上げ、続ける。

 


「ルールは簡単。

 あたしの、『風暖かのん』という芸名。

 その由来を、一発で与えられるかいなか。

 ね? 簡単でしょ?」



 なんことい。

 ここに来たばかりのようなやり取りを、今度は仲音なことにフォーカスして行うだけ。

 別段、難しくはない。



 しかし。

 これまでの流れからして、一楽たからは悟っていた。

 この人が、それだけで満足するはずいと。

 そして、彼女の趣味趣向からして。



「罰ゲームの内容は?」

流石さっすが、センセ。

 慧眼でらっしゃる。

 話が早いね」



 にじり寄り、一楽たからの胸に手を置き。

 その両目を、怪しくギラつかせ。

 獰猛な色欲を、チラつかせる。



「もし正解、合格だったら。

 に、ご招待してあげる」



 自身の首に手を当て、ボタンを開ける仲音なこと

 誘っているのは、明らかだった。

 ず間違いく、一楽たからの勘違い。

 ……などでは、ない。



「……どういう、もりだよ」

あたしもさぁ。

 流石さすがに、手ぶらで帰るわけにはいかんからさ。

 質問攻めして来るだろうあや大人おとなしくさせられるだけの、戦果がしいわけよ。

 それに、さ……」



 意味深に一楽たからを押し倒し、馬乗りになり。

 鬼気迫る表情で、一楽たからに迫る。



「……誰でもい、わけじゃない。

 別にあたし、一生独身でも、一向に構わなかった。

 家事は一通り出来できるし、一定数の収入もるし。

 寂しかったり、悔しかったり、苦しかったり、困ったりもしていない。

 自分のリビドーだって、制御出来できてる。

 けど、さ。

 こういう業界に、こういう仕事で生き残ってるってことは。

 あれだけセンセと、TLトーク繰り広げられたってことは。

 そういうのに興味、憧憬しょうけいるってことで。

 あそこまで意気投合したセンセとなら、いかなって。

 結婚とか、子供とかは、まだ分からないけどさ。

 そういう未来、ルートも、楽しめそうだなって。

 てかさっき、言ったじゃん。

 あたし的にはセンセ、余裕で『恋愛対象』。

 むしろ、『大好物』『ドタイプ』なんだよ」

「……だったら。

 なんで、えて罰ゲーム方式にしたんだよ。

 俺が外したら、どうするんだよ」

「決まってるじゃん。

 鋭感なセンセは、すでに答えに気付きづきつつある。

 てか、PCゲーム作ってる以上、知らないはずい。

 私のルーツを一度も耳に、目にしたこといなんて論外。

 つまり、これは、その実、『遠回しな意思表示』でしかないんだよ」



 その通りだった。

 一楽たからすでに、悟りつつある。



「単純な選択肢だよ。

 あたしの服と、あたしからの問題。

 羽目と、爆弾。

 センセは、どっちを外したいのかって話だよ」

「……」



 そんなの。

 考えるまでも、い。



 一楽たからとて、この歳でいつまでもソロでなんかいたくない。

 出来できれば、気の合う恋人がしい。

 


 そう。

 ちょうど、この人みたいな。



「……『風◯《◯ざね》』さんだろ……。

 いつだったか、『憧れてる』って公言してた……。

 wik◯にもシブにも、書いてた……」



 世城せぎ 一楽たからは、選んだ。

 瀬良せら 仲音なことが、介在する人生を。



 瀬良せら 仲音なことは、歓迎した。

 世城せぎ 一楽たからが、介入する人生を。



「……思った通り。

 センセ、やっぱムッツリだったね。

 ヒバ、ヘタレ卒業。

 ついでにあたしと、違う意味でも卒業しちゃう?」

ついでの方がメインなんだが!?

 あーあ……知らねーぞぉ、俺ぁ。

 大先輩を、こんなふうにネタにしようなんざ……」

「あー、平気、平気。

 どうせバレやしないでしょ、はっ。

 それより、ほら。

 早くシートベルトしなよ、『ガッくん』」

「『ガッくん』誰、俺っ!?」

「他に誰がるってのよ。

 いから、さっさと締めな。

 今日から二人の愛の巣にランク・アップした、あたしまで、飛ばすよ。

 あーただし、あたしを食べるのは、まだ我慢してね。

 今はまだ、『お試し期間』ってことで。

 もしかしたら、実際に生活してみたら、コレジャナイかもだからさぁ。

 ってもあたし的には、もう君を手放すもりいけど。

 一生、養い尽くす、飼い慣らす腹だけど」

「情・報・量っ!!

 てか、え!?

 いきなり、同棲!?

 俺の私物は!?」

「平気、平気ー。

 こうなるって確信してたから、先んじて引越し屋さんにオーダーしといたから。

 到着する頃には、運搬済みだよ。

 あと管理人さんにも、退去する旨を伝えてあるから」

「こ、この、策士がぁっ!!」

「いんやー、女でかったー。

 おかげで君と、大っぴらに暮らせるー。

 君を堂々と、スムーズに拉致れる、テイクアウト、テイクオーバー出来できるー。

 男だったら、こうはいかなかったよねー。

 ともしなくても犯罪、ドン引きものだぁっはっはー」

「貴っ様ぁぁぁぁぁっ!!」



 こんな調子で、一楽たからは誘拐され。

 高速に乗る頃には、普通の会話に戻れていて。

 到着後、二人で荷解にほどきも終え。

 一緒にる時は、常に会話、コントを絶やさず。

 夜になる頃には。



仲音なことさん。

 俺、そろそろお風呂入って来るね」

「……嘘き」

「なして!?」

「『トイレ以外、一緒』って言った。

 なのに、ガッくん、破った。

 嘘き。

 いーけないんだ、ガッくんだー」

「えっとぉ……仲音なことさん?

 もしかして、素面しらふじゃあ、ない?」

「……違うもん。

 ガッくんにしか、酔ってないもん。

 ただ……寂しい、だけだもん」

「あなたさっき、『寂しさとか感じたことい』っておっしゃってませんでしたぁ!?」

「……ガッくんの所為せいじゃん。

 君が、あたしに男を叩き込み。

 挙げ句の果てに、女を再教育したからじゃん」

「いや、まだキスまでしかしてませんけどぉ!?」

だよぉ。

 離れたくないよぉ。

 うぇーん、うぇーん……」

「ははーん。

 さては、また演技だな?

 単に、風呂場でも俺をいじくり回したいだけだな?」

「ちっ。

 もう少しで、押せたのに。

 君のような勘のいいガッくんは嫌いだよ」

「おい、ごら。

 てか、勘の悪い俺も俺でしかないし、本来なら嫌われる要素とか皆無だろ、それ」

「しょーがないなぁ。

 ちょっと、体借りるねー。

 いちかー、にのー、みくっと」

「そんな、間延びした調子で体貸す人も借りる人も、るぅっ!?

 て、ちょっ……!?

 な、ななな、仲音なことさんっ!?

 な、なんで俺を、そんな簡単にかつげるのっ!?

 あと、そっち風呂場、風呂場ぁっ!!」

「ぐぇっへっへっへっ……。

 さ、さささ、さぁ……。

 ちょと、脱いでみようか、お嬢ちゃん……」

「や、やめ、めてめてぇっ!!

 せめて、着替え……着替えだけ、用意させてぇっ!!」

「大丈夫。

 ガッくんの裸なら、あたし……。

 目に入れても、痛くない」

「お・れ・のっ、問題っ!!

 あと、めっさい笑顔ぉっ!!」



 といった具合に、実に自然な流れで、一緒に入浴し。

 なんなら前言撤回し、行く所まで行き。

 しかも仲音なことが、まさかの誘い受けだと発覚し。

 そのまま朝チュンし、改めて挨拶を済ませた。



 そうして、二人の新生活が始まり。

 後日、あやと母から、お祝いの怪文書RAINレインが送られて来るのだった。

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