page.17「ゲストとサプライズ」
「え?
これ、ちゃんと
えー、初めまして。
初っ端から、勘違いも
病院のベッドに横になりながらにしては
そもそも、『世界を駆けている』のは、あくまでも『旅行』なので、完全に虚偽である。
「こんな形になってしまい、恐縮です。
もしかしたら冗談抜きで死んでしまうかもしれないので、止められてしまいました。
私は、その呪いから免れた
この場に
本人は、これを「ユーモア」「ブラックジョーク」と譲らなかろうが。
バッチバチに、ダダスベっている。
「さてと。
私が
息子である
「……は?」
怒りと呆れの混じった、素っ頓狂な声を出す
よもや、ここで槍玉に挙げられるとは思わなかった。
「次男は今、『無職』です。
でも、誤解
それは
私が倒れてしまった
おい、
そう、
あんた今、この場に
途中で中断させたり、
そんな、
あんだけ、思いっ切りブチギレた俺を。
あそこまで失墜した、あんたが。
殴られようとしていた
フォローなんざ、しようとしてんじゃねぇ。
「そして、もう一つ付け加えるなら。
次男の作品は、実に素晴らしい。
PCゲーム、アダルトだからといって、侮る
ディテールまで凝った、
皆さんにも一度、読んで
私なんて、この歳にもなって、久し振りに奮い立ってしまいましたよ。
お恥ずかしい」
あんた、年がら年中、盛ってんだろうが。
だからこそ今、そこら辺に理解も興味も知識も
こっちの知らない所で、下半身麻痺の
大体、『恥ずかしい』なら、黙ってりゃ済む話だろうが。
「とまぁ、
私の代理として
どうぞ、拍手でお迎えください」
言いつつ、手を振る
と同時に、映像が切り替わり。
「
ファミリアン!!」
下半身麻痺の直前まで、
「『エビリアン』。
大国バシュラを筆頭とする、冥界より出でる悪魔一家。
悪魔すらも上回るポテンシャルを秘めた、人間とのハーフ、『魔人』を生み出すべく、人間界に降臨。
婚約者の選定の為、大規模な人類侵略を開始する。
ちなみに、双子の姉弟の内、ディアは『心』、アブルは『体』を求める」
「そんなエビリアンの前に現れしは、宇宙からやって来た異星人一家、『ファミリアン』。
宇宙旅行の真っ最中に地球を訪れ、『観光を邪魔されたくない』が故に、エビリアンと対抗する」
「当初の構成員は、ホワイト・ファザー、レッド・マザー、ブルー・サン、ピンク・ドーター、オレンジ・ベアーの5人組。
また、ピンク・ドーターの彼氏となった地球人の主人公も、グリーン・スウェインとなり、後に加わる」
「
婚約者候補として最初に目を付けたのがブルー・サンで、まだ
新たなる仲間、ブラック・ハートナーとして、ファミリアンの一員となる」
「こうして7人家族となったファミリアン。
そんな彼等に、大国バシュラの魔の手が迫る。
果たしてファミリアンは、家族を、地球を守れるのか」
「因みにオレンジ・ベアーの正体は、ピンク・ドーターの宝物であり、生けるクマのヌイグルミ、カゾクマのアレンくん。
本作では操演技術により
「……」
「だから、どうした?」と。
会場の声が、一つとなる。
現状が、全く把握
一体、
映像が消え、スクリーンが黒一色となり。
場内が困惑、静寂に包まれる中。
突如、
現れたるは、違う意味で、この場には
サプライズ
熊だ。
等身大の、熊のキグルミ。
ファミリアンのオアシス、アレンくん。
彼が
それも、変身後のオレンジ・ベアーではなく、普段の姿をモデルにサイズ・アップした新スーツを引っ提げ。
どういう
ーー車椅子に、乗った状態で。
説明されずとも、全員が瞬時に察した。
その中に入ってるのが、誰なのかも。
「……嘘……。
……だろ?」
特に
先程まで病室に
固定観念により、「女子ウケ狙って
その
全員の注意を惹き付けながら、車椅子を動かし。
恐れ多くも、アレンくんは、
自分が言葉を奪い、こっ
「……っ!!」
胸に手を当てつつ、反射的に距離を取る
トラウマを残されている以上、無理も
アレンくんは、
床に足を付け、前のめりになる。
またしても有り得ない
色々と不安定な状態で、立とうとしたのだ。
フワフワ素材だった
しかし、これまでとは違った意味で、会場の空気を冷やす。
老いと手負いの前では、
「お父さんっ!!」
見るに見兼ね、助けに入ろうとする前妻、
それを後妻、彩が止めた。
「……後生です。
どうか、お待ちください。
あの人から、そう仰せ付かっているので」
それまで、快活なイメージが付き纏っていた彩。
彼女にしては
「……違うんです。
てんで、デタラメです。
……嘘なんです。
皆さんが、あの人に、そうしてた
一芝居、打っていたんです」
「『世界旅行』なんて、行ってません。
今日の
秘密裏に、ずっと、リハビリとトレーニングに、明け暮れてたんです。
私の無遠慮な、急ピッチなスパルタを。
文句垂れながらも、乗り越えたんです。
無理が祟って、当日に倒れる
……孤軍奮闘、していたんです。
……
「……っ!?」
衝撃の事実に、思わず
次いで、視線を戻し。
今も尚、満身創痍になりながらも、意地でも立ち上がろうとする、アレンくんを見詰めた。
「……別に、何十年も仕込んでいた
最初から、カタルシス目当てで、皆さんを陥れた
事実、あの人の中には、男尊女卑の思想が、未だに根強く残っています。
それに
過去を、
傷も、溝も、決して、埋められはしません。
亀裂も、決裂も、直せません。
結局、
でも、それでも。
どうか、汲み取っては頂けませんでしょうか?
この会場に、あの姿で
どうか、ご勘弁、願えませんでしょうか?
あの人……
既定だろうと、そんな状況で、
あの人の行いは、断じて許されません。
許されるべきでも、ありません。
こうなった以上、これまで通り普通、家族でなんていられません。
あの人の元には、
ただ、私が、
けれど、
我々とて、『努力』とか、『気持ち』とか、『誠意』とか。
そういった、
お涙
そんな魂胆は毛頭、
ですが、どうかっ……。
……どうかぁっ!!」
感極まり、
そんな彼女を、
「……もう結構です。
もう……十分、伝わりました」
当てられ、涙を流しつつ。
限界だと。
「……
……
注目を一身に浴びながらも、お構い
「……あんだけ、
こんな最低な形で、ご都合主義みたいな奇跡しか狙えなくてっ!!
ここまで、自分のエゴで、俺達を好き勝手、振り回しといてっ!!
それで、その
そんなんで今更、あんたのイメージが回復する
汚名返上なんか、夢のまた夢の、そのまた夢なんだよ、最早っ!!
性懲りも
……俺はぁっ!!
そんな父親の
あんたに
みっともないのは、自分とて同じ。
既決のスケジュールを崩壊させ。
それでも、
一言、文句言ってやらないと、気がすまないから。
今だけは、そうまでしてでも、父親を立たせたいから。
「……ヒーローなんだろ!?
ご当地止まり、引退した身とはいえっ!!
一時は、子供を、ファンを喜ばせてたんだろっ!?
その
田舎限定とはいえ、第一線で、体張ってたんだろっ!?
だったら、立てよ、立ち上がれよっ!!
立ち直って、立て直せよっ!!
この場限りでも復帰、再起しろよっ!!
自分は、老いぼれ、落ち零れじゃないって!!
断じて『二流』『二軍』なんかじゃないって!!
今この場で、俺達の前でっ!!
自分が傷付けた、
さもなきゃ、今度こそ
……益々、嘘になっちまうじゃねぇかよぉっ!!」
どうせ、これも
自分が、こうして
だからこそ。
ヘイト、タゲを自分へと向けるべく。
病室で、あんな発言をしたのだ。
分かっている。
その上で、
新郎でもあるので、今日に至っては殊更だ。
長男、
家長である自分が、叱咤しなくてはならないのだ。
「……っ!!」
今のが、効いたらしい。
アレンくんは、声も出さず、両腕を軸に、上半身を起こし。
スタティック・ストレッチの直後の
そして、
膝立ちではあるものの。
たった一人で、立ち上がってみせた。
「……コノハ、ちゃん。
ボクと……。
……トモダチに、なってくれるクマ?」
本家
その声は
もしやと思い、二人は視線を、
思った通り、彼女は無言で
思えば、
あそこまで忠実に、
付け足せば。
過去に主役のスーアクをやっていた人の身内だろうと。
オリキャスが、ノーギャラかつリアタイで、結婚式用のボイスなんて、くれる
となれば、今日の出席者から、それらしい人を見繕う他に
つまり。
最初から、
こうなるのを知った上で、この1ヶ月。
何食わぬ顔で、
あんた、俺より、この人っぽいじゃねぇかよ。
二人
「
ほら」
いつの間にか、
妹に促され。
和解とまでは行かずとも。
多少なりとも、理解しようと。
歩み寄ろうと、
「……
……
依然として、悪態をつきつつ。
「……許しません。
私は、これからも、憎み続けます。
でも……今日だけは、大目に見ます。
それ相応に、認めます。
晴れの席を、壊したくないし。
この場に、その人が
冗談めかした調子で整え。
「……なります。
……あなたと、友達に」
こうまで破壊し尽くされた手前。
そんな関係には、戻れはしないし、収まれない。
けれど。
入院や、冠婚葬祭の際に、見掛ける
話まではせずとも、一緒に参列する程度には。
時間は、解決なんてしてくれない。
ただ、
どこからともなく、
やがて全員が、手を叩いた。
紆余曲折を
たった一日限定で。
アレンくんは、両家に歓迎された。
お世辞にも、元通りとはならずとも。
どうにか、式を続行
「いやー!
素晴らしいアトラクションでしたねー!
という
遥か彼方の宇宙から、なんと!
ささ、アレンくんっ!
どーぞ、こちらにっ!」
司会者よりも早く動き、新たにスペース、席を用意する
勝てねぇなぁと、
「……先生」
知らぬ間に、後ろに回っていた
彼女が、
その意味を。
「……
了承を得ようと、名前を呼ぶ。
「……サンキュ。
て
少し
師匠は、命じる。
「どうせ、ここまで
台本なんか、意味を持たない。
アドリブを噛ました所で、とやかく言われやしないだろう。
だから、
いや……樂羽」
「……はい」
共に目を閉じ、
二人は、答え合わせをする。
「……飛べ。
思いっ切り、飛ばせ。
そんで、飛んで来い。
君は、自由だ。
好きに、破壊の、身勝手の限りを尽くせ。
ありのまま、言葉を、自身を、解き放て。
やられたなら、やり返せ。
それが、俺達だ」
「……はいっ!!」
力強い返事と共に、用意したスピーチ原稿を構え。
衆人環視の前で、躊躇
当初のプラン、希望に
この大
彼女もまた大冒険、大博打に。
アドリブに、打って出たのだ。
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