page.16「師弟と原稿」
「
じゃあ、早速始めるぞ」
「
執筆モードに突入する二人。
同時並行で、一同に
「
これは、異論
「はっ!」
「
では、次に。
その
「つまり、『
「そうだ」
「でも、それ、楽をし
用意された言葉に、果たして心なんて宿りますか?
心
「そもそもスピーチ原稿って時点で、用意されてるだろ。
あと、それに関しては、君の音読の問題だ。
どうしても気になるってんなら、清書の時に、
それが
「……分かりました。
今ので、鈍ていた決意が定まりました」
「
「そうですよね……。
やぱり、ライブ感て、大事ですよね……。
生きた言葉を届けるには……ライブじゃないと、
「……
「私……アドリブで勝負しますっ」
「悪い子っ!!」
軽くチョップし、どうにか説得させ。
次の指示を出す。
「次に、食事の件だが。
カロリーメイ◯とかで凌げ」
「え〜!?
そ、そんな、
一人の時の
「
俺かて、その気になればお茶漬けか、チャーハン
「チャーハンなんて男性の料理の代名詞だし。
「ええい、
関係
てか、しゃあないだろ。
君が立て
「……そうなたの、先生の身内、
「
その件については、ちゃんと!」
「先生が当て擦て来たんじゃないですか」
「現状を伝えただけだろ。
俺に師事をしたのは、君だ。
俺の指示には、絶対服従だ」
「……ニート暴君」
「
グダグダ管を巻く
「い、
それだけは、どうか、ご勘弁をぉっ!!」
「付け足せばなぁ!!
今なら、同じく欠席者の、俺の親父までセットだぞ!?
あの男の横に並ぶんだぞ!?
さぞ、辛かろう、悔しかろう、屈辱で
「も、もと
分かりました、従います、私が悪かたです、ごめんなさいぃぃぃぃぃっ!!」
「よーし!
じゃあ、これからは文句言うなよ!?」
「あ、いえ。
時と場合によては、口を挟みます」
「お前、存外、しっかりちゃっかりしてんのな!?」
「当たり前です。
これからの女性は、強くあらないと」
「なぁ普段のお前、古風な男の願望の7割をプロジェクションマッピングでもしたかの
「そんなイメージ、こうしてくれますっ。
ふんす、ふんすっ」
「ここで残り3割を、ヨジーを出すなぁ!!
てか、
「そっ……その名前、出さないでくださいっ!
ダークな私が……破壊衝動が、暴れ狂い、のたうち回りますっ!」
「おめーが!!
自分で!!
出したんだろうがぁっ!!」
「はぁ……はぁ……。
もぉ……
こんなの、私ぃっ……。
耐えられない、よぉ……」
「CER◯ォォォォォッ!!
エロォォォォォッ!!
レーティングゥゥゥゥゥッ!!」
禁断症状に陥る
普段なら調理や家事で発散
首をグラグラ揺らし、ふらつく足で、幽霊の
ポスッと、
「……微妙」
「求めてもいねぇのに、感想寄越すな」
「
ここには、めり込める壁も、忍び込める冷蔵庫も、潜り込める床も、のめり込める天井も
コノファイブを結成、招集
だから、これは、不可抗力。
妥協で、先生にして差し上げただけです。
褒めて
えへん」
「……
そんな設備。
てか、床まで改造してたんかよ。
あと、『コノファイブ』って、
「説明しよう!
壁で癒やされる『コノハグリーン』!
冷蔵庫で冴え渡る『コノハブルー』!
天井でテンアゲする『コノハレッド』!
床でワクワクする『コノハイエロー』!
料理でファイヤーする『コノハオレンジ』!
この5人で形成されたのが、『お忍び戦隊コノファイブ』である!」
「
「はーい……。
うーん……でも、触り心地、包まれ心地……。
んー……やぱ、柔軟性かなぁ。
……よし。今度から、プニらせよ」
「そしたら、
「ジレンマ、痛し痒し、二律背反!!」
「だから、
言われた通り、静かになる
まるで寝ているかの
「すぅ……。
……すぅ……。
……サイレント、サイレン……」
ガチ寝。
そして、まさかの、器用な寝言ボケ。
「
とんだお弟子さんだ。
てか
すっかり安心し切った、信頼し切った寝顔しやがって」
無理も
そう感じ、
4時間にも及ぶ長距離ドライブでの疲労。
自分を拒絶した、
信じていた
夏休み返上でも一向に整わないスピーチ原稿と、それに伴う過度なストレス。
これまでの、
急に言葉を取り戻した弊害と
こんな小さい体では。
どう考えても、キャパオーバーではないか。
「……
今だけは、ゆっくり休んどけ。
起こさないように、頭を撫でつつ。
寝
「こ、
プライスレス……」
「
そこは、姉さんをギュッする所でしょ?
この、ヘタレ。
私と代われ」
「
俺ですら、まだハグした
「ふっふーん。
私は、
っても、自撮り
「ひ、卑怯だぞ!?
同性幼馴染の特権を、姉妹としての職権を、濫用しやがって!
あと、ナルジロさんやっぱ許せねぇ」
「……
特に、
「ギャー!!
こっ、
「秘技、身代わりの術っ!!」
「つ、
俺を、人身御供するなぁ!?」
「
来い、この
式を前にした新郎が、勝手に2回も
しかも、今回はタキシードでっ!!
汚れや傷でも付けたら、どうするんだっ!!」
「ご、ごめんてば、
お願い、許してぇぇぇぇぇっ!!」
「
とっとと私のスマホにも、
「は、はいぃっ!!
……
数分後。
のだが。
「
見ての通り、俺の原稿は整った。
土壇場に強いのは、
「(コクッ、コクッ!)
(グーッ!)」
「それじゃあ
準備は
「(ブンッ、ブンッ!)」
新規ボイス解放によるバフが、切れたらしい。
これは、少し先が思いやられる。
意志疎通という点なら、さほど問題は
その辺りのノウハウは、この1ヶ月で身に付いた。
メジャーに行った日本人選手が、
問題なのは、言葉ではなく声。
原稿が間に合ったとしても。
顔見知りしか
本人も、それを危惧しているらしく。
恥ずかしがりながら、目を逸らす。
こうモヤモヤしていては、作業も進まない。
「ってもまぁ。
起き抜けの頭では、浮かぶもんも浮かばん。
ほれ。
試しに、我が家の文章、読んでみろ。
イメージが膨らむかもしれん」
「(パァァァァァ……)」
「いや。
そういう、『やっぱ
羨望の眼差しは
しっ、しっ、と手を払い、目を逸らす
すると、
やや機嫌を損ねたらしい。
そして、本来の彼女の部分も、少しは健在らしい。
それはそうと。
文章を軽く浚い、胸に手を当て深呼吸し。
「ご臨席の皆々様。
本日はご多忙の中、二人を祝福する
「本来この場には私の父が立つ予定でしたが。
一身上ならぬ下半身上の都合により。
急遽、新郎の兄、次男である私が、代読させて頂きたく存じます。
未経験なので何分、拙い所は多々ございますが。
お付き合い頂けたら幸いです」
「
よって、この場には
つまり、意図的な、
どうぞ、どうか、笑ってやってください」
「
元はご当地ヒーローのエースで。
脳梗塞を患ってからも、後妻である
日々、家族で一番、パワフルに車椅子生活しております」
「続いて、新郎の母、
現役の事務員で、『還暦過ぎてからも働いてくれ』と上司にせがまれる
最近では、
耳タコ
「続けて、新郎の兄、長男の
は現在、社会勉強中なので、本日は不在です。
詳しくは、日を改めて、
「最後に私。
新郎の兄、次男の
文学部卒で、過去に書店員、脚本家や小説家などをしているなど。
幼少時より、生粋の本の虫で。
その
こうしてピンチヒッターを務めている現状です。
すみません、嘘です、
なお、今は無職ですが、ありがたい
以前、お世話になった企業様から新しいお仕事も頂けたので、ご安心ください」
「
他の紹介は、
見ての通り我が家は、男系家族となっており。
兼ねてより母は『娘が欲しかった』と、二言目には溢しておりました。
そんな中、
娘の
最も喜んでいるのは、誰を隠そう、私の母です。
「そんな風に、
家族一同、
この理が
「では、お聞き苦しくはあったと思いますが。
以上を持ちまして、
ご清聴、ありがとうございました」
「では、最後になりますが。
シュウ。
どうか、お幸せに」
一度も噛まずに、止まらずに読めた
依然として、シナリオありきではあるものの。
こうも人前で、ハキハキと話せるようになった。
これだけで、父親に突っ掛かった意味は
一方、
スマホを掲げ、『一身上の都合』の辺りを指差し。
そのまま、片足を上げた。
どうやら、『スベってる』と言いたいらしい。
「そうだ。
だからこそ、ウケるんだ」
「?」
天然には通じまいと決め付けた。
実際、きんに◯ばりに、ややスベっているのだが。
自分のセンスを、
変な所で、自信過剰な男である。
そんなこんなで、執筆、及び鬼特訓は続き。
途中で音を上げかけたタイミングで、
そのまま二人で、ややハイペースに食し。
再び推敲と、練習を重ねる。
原稿が完成した所で、二人目の講師。 今をときめく大声優、
またしてもスパルタとなるも、涙目になりながら、
そうしてる間に、日は暮れて。
挨拶や、写真撮影も済ませ。
案の
それでも、「一時間で用意した」という背景が手伝い、ヒエッヒエにはならず。
その後、
結果、
「……え、終わり?
あんな短めで、
マジに一言じゃん。
え、4人分合わせて、秒で終わったじゃん。
「はっはっはっ。
今日の主役は、
「
フクフク以外は、理想の
うわぁ……ミナミさんにチェック頼めば
「安心したまえ、
君のも充分、素晴らしかったよ。
僕も思わず、心を洗われ、目頭が熱くなったよ。
そして
素晴らしいよ、
「ぐわぁぁぁぁぁっ!!」
「たっ……
ど、どうしたというんだいっ!?
もしや、ハンターかい!?
おのれ、エイリアンめぇぇぇぇぇぇっ!!」
「……
それ、クリティカル。
「だよね。
タカ
「あんたもよ、灯頼《ひより」
場内で、
そして
緊張に包まれる
その背中を師匠、
「……行ってらっしゃい」
いつも通り、気の利いてもいない、
けれど一周回って、安心する言葉。
「……はいっ」
用意した原稿を、読み上げんとする。
その時だった。
真っ暗だった後ろのスクリーンに、
ムービーだ。
しかも、ただの映像なんかじゃない。
「親父……!!」
苦虫を噛み潰した
宣言通り、実に目立つ
会場の混乱を、まるで楽しんでいるかの
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