page.4「家主と遅れ馳せ自己紹介」

 耳元まで隠れ、ひざまでる、オレンジのロング・ヘア(クラウン・ブレイド、癖っ毛付き)。



 改めて見ても、かなりの美少女である。

 きっと、もっと普通に出会っていたら。

 今頃、自分も挙動不審になっていたに違いない。



「えと……こんなこと、言うのは気が引けるけど、さ。

 一応、念の為、確認。

 ……もう、平気?」



 体内の掃除、手洗い、お色直し、着替えを済ませたあと

 向かい合っている樂羽このはに、一楽たからはストレートに尋ねる。



 樂羽このはは、ビクッと肩、そして癖っ毛を揺らし。

 そのままプシュー……と蒸気を放出。

 続けて、コクッとうなずいた。


 

 生来のシャイネス。

 歯並びの悪さ。

 内気で人見知りな性格。

 俗にいうアニメ声。



 親と弟から聞いていた話と、特徴が合致していた。

 それらが災いし、上手くしゃべれないのだとか。

 確か、『っ』を発音するのさえ、難しいとか。



 一楽たからは、当面の方針を固めた。

 ずは、彼女の警戒、緊張を解くことにしよう、と。



「改めまして。

 俺は、世城せぎ 一楽たから

 一応、次男坊で、ここの名義人、つまり家主。

 君は……日明たちもりさん。

 で、合ってるよね?

 あと、そう呼んでもい?」



 伏し目がちながらも、頭の上で◯を作る樂羽このは

 OKらしい。



「ありがと。

 秀一しゅういち……つまり、俺の弟。

 君にとっては、義理のお父さんの、奥さんの、連れ子で。

 く、うちにも遊びに来てくれてるっていう。

 なんてーか……聞きしに勝る変わり具合……。

 じゃなくて、可愛かわいさだね」

「っ!!」



 ボイスと予算の少ない外れゲームみたいな声を出し、ハッとする樂羽このは

 そのまま、「待たれよ」と言わんばかりに、広げた手を一楽たからかざし。

 やや経過してから、ニッコニコで、自身のスマホ。

 正確には、そこに表示された映像を見せた。



『どもぉ、すりらーめんマーベリクでぇっすっ!!

 今日は、忍者の末裔である、この俺様がっ!

 愛しの、ブァバ! の家に、勝手に忍び込んで!

 ん壁にめり込んで、どーれくらいでバレるのか!

 ん、それとも、バレないのかっ!

 ……じゃぁね、早速検証していこうと思います。

 ん、どっちなんっだいっ!!

 キャー!! キャー!!

 そんなわけで、ズィジんの壁ぇっ!!

 ……オーンッ!!

 いや、それじゃ開かんやろがい、あかんやろがい、オーンキャンパスやろがい、やかましいわっ!!』



「……?」



 なにやら起伏と主張の激しい、同じく宇宙人みたいなコスチュームの目立つ男性(大学生?)。

 が、何故なぜか左右に体を揺らし、悲鳴を上げ。

 器用にドリルで壁を掘って行く。



 んーっ、とぉ……。

 これは、つまり……。



「……『この動画を参考にした』。

 ってことで、合ってる?」

「(コクッ、コクッ!)



 頷きながら、スタンディングオベーションされた。

 ご名答らしい。

 それはそうと、1作目のバンブルビ◯みたいな、やり取りである。



 というか、『参考にした』て。

 それだけで、DIY出来できる女子高生て、どういうことなのよ。

 見様見真似で通じるレベルじゃないでしょ。

 なに、この子も配信者なの?



 大方おおかた、今日じゃなくて、前に来た時、両親の監視、手伝いの元、済ませたんだろうけど。

 そもそも、なして、こんなことを。



 ただ、『リスペクトが高じただけ』?

 それとも、『俺を観察してた』?

 もしくは、『場を和ませようとした』?



 いずれにせよ。

 大人おとなしそうなイメージとは、かけ離れてるんだが。

 いや、確かに親近感は一気に湧いたけどさ。



 ……まぁ、いか。

 なんか、すっげー楽しそう、キラッキラしてるし。



 などといった具合に。

 一楽たからは思考を放棄した。



「そっか。

 好きなんだ? この、『マーベリク』って配信者。

 なんか、すごい面白いね、この人。

 今度、俺も見てみても、い?」

「(ブンッ、ブンッ!!)

 (グーッ!!)」



 素直に感想を述べると、ウッキウキでスマホを操作し。

 かと思えば、癖っ毛と瞼と眉毛とテンションを下げ、分かり易くシュンとする樂羽このは



 ははーんと、一楽たからは瞬時に看破した。



「『RAINレイン交換』。

 で、合ってるかな?

 それなら、オススメのリンク送れるし」

「(ブンッ、ブンッ!!)」



 当たりだったらしく。

 ぐ様、ヘドバンし、自身のIDを提供する樂羽このは

 


 これって、セーフなのかなぁ。

 なんか、こう……いけない大人おとな、みたいなってないかなぁ。

 でも、スマホ貸してくれたの、向こうなんだよなぁ。

 そんでもって、この子も、ついでに俺も、他意たいと悪意はいんだよぁ。

 じゃあ、いか。



 と、逡巡したすえに、結論を出し。

 ややモタつきながらも、スマホを返却。



 こうして、一楽たからRAINレインのフレンドが増え。

 他にも、『天井に張り付く忍者』『冷蔵庫をくり抜いて忍ぶ忍者』をオススメされるのだった。

 天井とか冷蔵庫の異変は、フラグだったらしい。



 余談だが。

 ヘドバン気味にうなずくのは、控えてもらおう。

 もう少し、抑え目に首肯してもらおう。



「それで、日明たちもりさん。

 どうして、ここに?」



 尋ねると、樂羽このはがカレンダーを指差す。

 そこには、彼女の夏休み期間が書き加えられていた。



「『遊びに来てくれた』ってこと

 折角せっかくの、夏休みに、何ヶ月も、こんな田舎に?」

「(ブンッ、ブンッ)」

「違うの?

 じゃあ、え?

 ……もしかして、『助けに来てくれた』の?

 家事の出来できない、俺を?」

「(コクッ、コクッ)」



 料理を振る舞ってくれたので、もしやとは思った。

 そして、正解だった。



 あまりにご都合主義ぎて、にわかには信じがたい。

 それになにやら、他にも目的がりそうだが。

 一楽たからをサポートするべく、樂羽このはは今、この家を訪れたのだ。



「……日明たちもりさん、優しぎない?

 俺、君とは初対面なのに。

 しかも、ここにはもう、俺しかないのに?」

「(プルプル、プルプル……)」

「あー、ごめん、違う、誤解しないで、泣かないで。

 別に、歓迎してないってんじゃないんだ。

 むしろ、こんな可愛かわい子に来てもらえるとか、役得でしかな」

「(ビクビクッ!!)」

「ごめん、今のしっ。

 いや、可愛かわいいけど、可愛かわいいとは思ってるけどもっ。

 多分、あれだよね?

 こんなふうにアゲられるの、慣れてないんだよね?

 分かるよ、俺も免疫いから。

 あるいは、あれかな?

 やっぱ、家族でもない叔父おじさんに言われても、不気味かな。

 だったら、なるべく控えるようにする。

 で、他にも気になることいやことったら。

 その都度、共有する。

 ってことで、どうかな?」



 手を合わせ、頼み込む一楽たから

 樂羽このはは、親指と人差し指で、小さく◯を作る。

 えず、同意は得られたらしい。



「……かっ……」



 ホッとするのも束の間。

 ここに来てようやく、樂羽このはが話し始める。



「……家族、です……。

 血は、つながて、なくても……。

 ……家族、です……」



「……」



 膝で組んだ手で、スカートを握り。

 やはりうつむきがちに。

 泣きそうな目を閉じ、恐怖を乗り越え、勇気を出し。

 恥ずかしいのに、難しいのに、言葉にして。



 一楽たからは、認識を改めた。

 この子は、こうまでも気丈で、懸命なのだと。



「……ごめん。

 今の、特にし。

 ……そう、だよね。

 血縁とか、関係いか」



 彼女の横に周り、膝を折り。

 一楽たからは、彼女を見上げながら、手を差し出す。



「ようこそ、我が家へ。

 遠路遥々、大変だったでしょ?

 こんな場所、こんな俺でかったら、いくらでも滞在して。

 って、学業とか家族との兼ね合いもるか。

 なにはさておき」



 余っている手で頭を掻きつつ。

 一楽たからは、再び樂羽このはを見た。



「これから、よろしくね?

 日明たちもりさん」

「……っ!!」



 一楽たからの右手を両手で取り、ブンブンブンッと振る樂羽このは



 相変わらず、樂羽このはの目的は不明だが。

 えず、一件落着。



「ただいま。

 一楽たから

 健康にしてた?」



 ……そして、新たなトラブル発生。

 買い物を終えた、中性的な美形が帰宅し。

 キッチンで手をつないでいる二人を見て、ショックで荷物を落とした。

 音からして、さいわい、卵などは入っていなかったらしい。



「(ビクビクッ!!)」

「な、なこっ……!?」

「なンか用か。

 てか、『さん』を付けろよ、デコすけこまし」

「は、はいっ、さーせんっ!!」

よろしい。

 それはそうと、一楽たから

 こんな大荷物、無茶振りさせて。

 自分は、若い子連れ込んで、イチャイチャ?

 随分ずいぶんとまぁ、御大層な身分になったもんだ。

 ふーん……もう瀬良せらの検診、献身は不要?」

「め、めめめ、滅相めっそうもないことでございますっ!!」

「今のは、正しい言葉遣い。

 素直に、褒めて遣わす。

 それはそうと、一楽たから



 急いで移動し、跪く一楽たから

 一方、同居人とおぼしき相手は、怪しく右目を光らせる。



「……『一週間』。

 たったの『一週間』だ、一楽たから

 それで戻ると、瀬良せらは明言した。

 その期限を、瀬良せらは遵守した。

 溜まりに溜まってた仕事を、全て片付けて来た。

 相違いか?」

「あ、りませんっ!!」

「その通り。

 瀬良せらが、間違えるはずい。

 一楽たからに、そんな指示を出すはずい。

 一楽たからとのちぎりを、違えるはずい。

 だのにだ、一楽たから

 これは一体、どういう了見だ?

 これがお前流の、仕事帰りの同居人への、ねぎらいの態度か?

 それとも、その程度の確約すら。

 一楽たからは、守れないとでも?」

「も、申し訳ありませんでしたぁ!!」

「今、求めてるのは、『謝罪』じゃない。

 瀬良せらに対する、『返答』『対応』だ。

 よって、厳罰に処する。

 ずは、しばらく、そうしていろ。

 額を擦り付けて許しを請え」

「ははーっ!!」



 色々と突然の展開に、隅でフリーズする樂羽このは

 そんな彼女に、飴を渡し。

 瀬良せらというらしい同居人は、包丁を構え。



 物凄い速度で、キャベツを微塵切りにし。

 切れ端を飛ばし独りでに、1本も残さず、背後のテーブルの皿に華麗に着地させ。

 ついで、冷蔵庫から野菜ジュースを取り出し。

 居間の、布団のい炬燵に置いた。



「さて、一楽たから

 エサだ。

 とっとと食せ、ウスラトンカチ。

 ちょっと見ない内に、すっかり不摂生になりおって。

 今にも祟りそうじゃあないか。

 もっと、心も体も財布も節制しろ。

 瀬良せらを見習って、倹約しろ。

 分かったら、分からなくても、さっさと完食しろ。

 申し開きによっては、温情でドレッシングだけ足してやる」

「ど、どうか、副菜のみは……!!

 ベジハラは、ご勘弁をぉ!!」

「ふーん。

 これじゃあ、物足りないか」

「お、お待ちをぉっ!!

 いや、マジで待って!!

 本当ホント、この通り!!

 てか、違うんだって!!

 そういうんじゃないんだって、ガチで!!」

「だから。

 もっと具体的に話せと、そう命じてる。

 一楽たからの悪いくせ、出まくりだろう。

 この子は、誰で。

 一楽たからの、なに?」

「『弟の義子ぎし』ですっ!!」

「はい、正解、釈放。

 ほれ、ドレッシングだ。

 好きにしろ」

「で、出来できれば、主菜も……。

 せめて、クルトンとか……」

「は?」 

「ありがたき幸せでそうろぉっ!!」

「そうだ、一楽たから

 ちゃぁんと、たぁんと実感しろ。

 それが、一楽たからの『幸せ』だ。

 そのまま、一人じゃないありがたみを、噛み締めろ。

 本当ホント……お前って男は。

 可愛かわいい、可愛かわいそうなやつだ。

 瀬良せらないと、てんで駄目ダメなのだから。

 ゴミも、掃除も、まるで行き届いてないし。

 これは、中々どうして、骨が折れるな。

 一楽たからぁ」

「ははーっ!!

 ただちにーっ!!」

「うむ。

 苦しうない」



 クイッ、クイッと指で合図され。

 ソファでくつろぐ同居人の肩揉みを開始する一楽たから

 


 樂羽このはは、わけも分からず、困惑するばかりである。



「失礼。

 そういえば、まだ名乗っておらなんだ」



 一楽たからにマッサージをさせつつ、膝を組み。

 そんなオーラ、黒幕感たっぷりな様子ようすで。

 同居人は、樂羽このはげる。



瀬良せら 仲音なこと

 こいつの元カノで、同居人。

 これでも、女。

 秀一しゅういちに頼んで、君を呼び寄せた黒幕。

 これから、定期的に顔を出すがゆえに。

 よろしく頼む、樂羽このは

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